#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

何のために現場へ行くのか?検証型のジャーナリズムの必要性とは ジャーナリストキャンプ・事前準備会レポート

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が主催する『ジャーナリストキャンプ2016石巻』に向け、参加者の事前準備会が4月2日、東京都内で開かれました。社会学者・西田亮介さん(東京工業大学准教授)を講師に招き、記事を書くために必要な「仮説思考」について学びました。西田さんは、メディアを取り巻く環境が大きく変化する中、現場で聞いた話をそのまま書くだけでは記事の信頼性を担保できないと指摘。明確な問題意識と仮説を元に取材する「検証型のジャーナリズムが必要ではないか」と問題提起しました。


▽「とりあえず現場行こう」でいいの?
講義の冒頭で西田さんは、現場取材のみを重視するやり方に対して疑問を投げかけました。2014年の「ジャーナリストキャンプ2014高知」でデスク役を務めた際には「現場に行くことにしか注意が払われていないことに衝撃を受けた」と言い、「現地に行くと、組織のバックアップが得られない状態で取材する必要がある。指示されたことをやるのではなく、何が問題かを自己規定して、どういう書き振りで伝えるのか考えなくてはいけない」と指摘しました。

今回のキャンプでも、普段働いている会社や組織から離れ、個人として向き合わなくてはなりません。さらに、実際に現地で取材できるのは2泊3日という限られた時間。西田さんは、現場に行くことの大切さには触れつつも「あまり意識せずに現地に行き、デスクに記事を上げて書き直す、という形のジャーナリズムや情報発信は成立しないのでは」と話し、入念な事前準備やリサーチの重要性も浮き彫りにしました。

さらに、著書「メディアと自民党」でも述べられている「政治とメディアの関係性」を切り口に、日本のメディア環境がどう変化しているかを詳しく説明。その上で、今後は「仮説を置いて検証する、検証型のジャーナリズムが必要ではないか。仮説は間違っていれば破り捨てて、次を出していけば良い。インターネットの時代はそこにフィットしやすいので、更新・修正していくことができる」とまとめました。


▽仮説は裏切られてもいい
現場で取材する意義は何なのか。JCEJの河井孝仁フェローは「何を実現するのかを明確に意識し、仮説を実証し、または裏切られるために現場へ行くことが必要なのではないでしょうか」。デスクの1人、Yahoo!ニュース編集者の苅田伸宏さんは「ネットで情報を入手するなど、事前にできることはたくさんある。情報を並べて記事を思い描いたら、話を聞きたい人を見つけなくてはいけない。ロジックを立て、事前取材もした上で現地に行き、直接人に会うのが大切」と話しました。

ある参加者は「震災から5年が経った石巻で、現在の状況を伝えたいと考えていたが、見たものをそのまま書くだけでは記事は成り立たないと気づいた」と言い、改めて企画案についてデスクらと議論していました。


▽「PVが約束されている」記事を掲載する意味とは
今回のキャンプの成果物は、Yahoo!ニュースに掲載されます。「Yahoo!に自分の記事を載せる意義は何なのか?」という河井フェローの問いに、多くの参加者が「反響を呼べば嬉しい」「今まで知らなかったことにスポットを当てたい」と答えました。それに対して西田さんは「(影響力のある)Yahoo!に掲載されれば、記事は確実に注目を浴びる。いわば下駄を履いている状態だ」と指摘。「それを前提にして、どんな意味があるかを考えることが『仮説思考』なのではないか。普通では考えられないPVがすでに約束されている。その上で掲載する意義は何なのか改めて考えてほしい」と話しました。

事前説明会には、仙台や静岡など遠方からの参加者も出席。懇親会でも議論が続き、デスクと挑戦者の強い意欲が伝わってきました。現時点での企画案には「女川原発」「日本酒」「パチンコ」「現地の高校生の交通事情」など様々なトピックが上がりましたが、4月29日からの本番までに自分なりの仮説を立て、どれだけ準備できるかが鍵になりそうです。キャンプの概要は、こちらのサイトをご覧ください。

(キャンプ運営チームメンバー・小野ヒデコ)