#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

データはチームの「共通言語」 データジャーナリズムの魅力に迫る 〜パネルディスカッション報告(2)〜

注目が高まっている取材方法「データジャーナリズム」を用いてジャーナリストキャンプに挑んだ日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)の赤倉優蔵運営委員が語る、データジャーナリズムの可能性・魅力とは?!6月1日に行われたパネルディスカッション「『フクシマ』という虚像を壊す 〜被災地のいまを伝える新たな取材手法〜」(法政大学社会学部共催)の第2部「データジャーナリズムで常識を覆す」の様子をお届けします。

■「データ」とにらめっこ 誰でもチャレンジできるのが魅力!

日本ではまだまだ知られていないデータジャーナリズムですが、海外ではこの取材方法を駆使したスクープを発表するメディアも出てくるなど、今脚光を浴びている調査報道の手法の1つです。赤倉さんは、5月上旬に福島県いわき市で開催したジャーナリストキャンプでデータジャーナリズムを用いた取材に挑み、計4人のチームをまとめるデスク役も務めました。一般的な取材では「人」と向き合うのが前提だとすると、データジャーナリズムはその名の通り「データ」とのにらめっこだといいます。
データジャーナリズムの大きな特徴は、公開されているデータを利用すること。データを分析し、新たなニュースを発見する、すでに報道されているニュースを検証する、データを可視化する―など様々な活用法が考えられます。赤倉さんは「データジャーナリズムは常識(≒レッテル)の検証に使えそう。それに特化して使っても面白いのではないか」と話しました。
専門の知識がないと素人には難しそう…と思ってしまいますが、「データジャーナリズムは誰でも挑戦できる」と赤倉さん。発表媒体が主にWebであるため、特別なインフラが必要ないこと、また分析スキルなどのハードルは高いものの、誰もがアクセスできるデータを使うため、どんな人でもやる気さえあればチャレンジは可能、とその魅力を語りました。

■個人プレーより、チームで挑め

記者やジャーナリストの取材は基本的に単独行動が多いように見受けられますが、伝統的な取材手法に加え、デザインやプログラミング、統計学など、さまざまなスキルが必要となるデータジャーナリズムをやるなら、「専門分野を越えて連携したチームで取り組むのが基本」と赤倉さんは言います。
実際ジャーナリストキャンプでは、普段は通信社のエンジニアとして働く赤倉さんを筆頭に、インターネット・コミュニケーションの研究者、ソーシャルメディアを使った取材に取り組んでいる記者など、職種も経歴もバラバラの4人がタッグを組み、それぞれのスキルを結集させて取材に挑みました。

しかし、キャンプ中はなかなか取材の方向性がまとまらず、課題も多かった赤倉チーム。第二部のパネリストでキャンプで同じくデスクを務めた前ニコニコニュース編集長の亀松太郎さんは、他のチームが個別で取材に出掛ける中、データジャーナリズムチームの雰囲気は「一体感があってうらやましかった」という一方、「言っていることが曖昧で何をやりたいのか分からなかった」と厳しい評価でした。

キャンプ1日目、データジャーナリズムチームは当然パソコンにかじりついてデータと向き合っていると思いきや、実際に現場を見ようと全員でいわき市内に繰り出しました。そのため肝心のデータ検証に取り組む時間が取れず、全体報告では他チームやJCEJ運営委員から厳しい指摘を受けていました。このことについては亀松さんからも当日、「データジャーナリズムなのになぜ現場を見るのだ」と突っ込まれたそうです。

データジャーナリズムと正面切って宣言しているのだったら、ほかのチームが足で外に出ている中で思い切ってデータだけで勝負してほしかった」と話す亀松さんに対し、赤倉さんは「当初我々もそう考えていたが、データと向き合うのは帰ってきた後もオンライン上のやりとりでやれる。データもネットにある。キャンプで出来ることをやろうと割り切ったところがあった」と答えました。

■チームの空中分解を阻止する「共通言語」
データジャーナリズムの特徴として挙げられたチーム取材について、コーディネーターを務めたJCEJの藤代裕之代表は「チーム取材というのは色々な視点を生むという良い点がある一方で、違う人間が集まり『空中分解』の可能性もある」と指摘。データという「共通言語」が、キャンプ中にチームをまとめる上でどんな役割を果たしたのか、と質問しました。

これに対し、赤倉さんは「今回参加したメンバーにはデータジャーナリズムにチャレンジしてみようという(共通)意識と、それぞれが持っている様々なスキルがあった。それぞれの力があったから上手くいった部分もあったのではないか」と振り返りました。
亀松さんも、「データジャーナリズムというのは公開されているデータを使うというのが大きい。公開されているデータを使うというのは同じ情報を共有できるということ。あるテーマについての取材を別々の場所でしたとき、それを説明しても抜け落ちるディテールがあり、情報共有する機会がなく伝わっていないことが多い。数字はぶれが少なく公表データなので共有しやすく、それが一体感につながったのでは」と分析しました。

この話題に絡み、パネルディスカッションの第一部で登壇した法政大学社会学部の水島宏明教授氏と、社会学者・開沼博氏からも意見が飛びました。
水島さんが出したのは貧困問題の例です。たとえば生活保護の問題について、同じデータでも見る記者によって見方が違い、「就労支援の結果、就労に結びついたのは25%」というデータに対し、朝日新聞は「25%も」 読売新聞は「25%しか」といった表現で報道しました。「現場を見ているジャーナリストは25が意外といい結果だと思う。データはどう読み取るのか、そもそもそういうデータをどう集めるかも大事」と水島さんは話しました。
開沼さんは、福島県民が放射線をどれくらい気にしているかの調査を挙げ、新聞によって見方、注目点が違っただけでなく、地元の感覚とも少し違ったと話しました。「そういったデータを誤解がないように解き明かしていくことが大事。ちゃんとデータを出すだけでなく、数字でなくて意味を語ることが大事なのではないか」。
藤代代表は「見方の問題は立ち位置の表明と対になっている。受け手側が発信者の意図を読み解いていくことも大事になっていくのでは」とまとめました。

■「検証の担い手」として読者を巻き込む
さらに議論は「データジャーナリズムが読者を巻き込むには?」というテーマにも及びました。
亀松さんは、データジャーナリズムの成果の多くはインターネット上で発表される場合が多いことから、元データのリンクを明示することにより、読者に「記事を検証する担い手」として関わってもらうことができるのでは、と話しました。
「記者は複雑な事実を噛み砕いて説明し、分かりやすくする。データをジャーナリズムとして出すのも同じで、わかりやすい図表にしてデフォルメするのが大事だが、大事なのは元に辿れるようにしておくことだと思う」と指摘しました。

議論を終えて、参加者からは「データジャーナリズムを普及させる上での課題は?」という質問が出ました。
赤倉さんは、日本では記者や編集者、アナリストなど、異なるバックグラウンドの人が連携して取材に取り組む文化があまり育っていないことを挙げ、「業界が蛸壺化し、連携する土壌が足りていない。エンジニアはいるが、データジャーナリズムをやろうとするエンジニアがいなかったり・・・そういう部分を上手くつなげる文化やプラットフォームを育むのが普及のために重要なのではないか」と回答。
一方亀松さんは、まずはデータジャーナリズムを用いて「結果を出していくことが大事」。誰でもアクセス可能な公表データから、読者に「意外」と感じさせるようなアウトプットを積み重ねることで「(自分も)やってみよう、と思わせるような具体的な結果を出していくことを期待したい」と話しました。

この期待に応えるべく、赤倉チームは今も作品を完成させるためデータと向き合っています。記事は今後ダイヤモンド・オンラインに掲載される予定です。すでにアップされているジャーナリストキャンプの報告記事もありますので、是非ご覧ください!
(JCEJ学生運営委員・高橋真歩)<ダイヤモンドオンライン掲載中の記事>

<ジャーナリストキャンプの様子を紹介しています>

<パネルディスカッションのツイートまとめです>