#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

「バカライターが一目置かれた感じ」 前回アワード予選1位のヨッピーさんがジャーナリズムをマジメに語る!

「オモコロ」「トゥギャッチ」など幅広いウェブ媒体で記事を執筆し、多くのファンを獲得しているヨッピーさん(34)。2014年の作品が対象になった前回のジャーナリズム・イノベーション・アワードに出品した『悪質バイラルメディアにはどう対処すべき?BUZZNEWSをフルボッコにしてみた』は予選を1位で通過し、決勝プレゼンに進出。背景には、「バイラルメディア」の一部が他人のテキストや画像、動画などを盗用する問題があり、これに対して行動を起こしたヨッピーさんの記事は大きな注目を集めました。

そんなヨッピーさんに、実際のアワードで感じたことや、ジャーナリズムについてマジメに語っていただきました!

※アワードは2016年3月12日(土)開催。チケットはこちらのサイトからCチケットをご購入ください


(ヨッピーさんいわく「バイラルメディアのエラそうな社長さんがインタビューに答えている風」)


▽「バカライター」とみられていたけど

Q:バイラルメディアの記事はどういう経緯で書かれたんでしょうか?

ぼくの周りのライターで、BUZZNEWSに記事をパクられていて怒ってた人が居たんですね。で、その時はクレームを入れたらすぐに削除したんですけど、また同じ事があったのでBUZZNEWSのログを見たら、ものすごく、それはもう大量に色んな人からパクっていることがわかりました。しかもBUZZNEWSの人が受けていたインタビューを見たら「これからの時代はバイラルメディアですよみなさん!これが時代の最先端やで!」って、めちゃくちゃ調子に乗っていたわけですよ。

それを見て「パクリ野郎のトンチキが何言ってんだこのべらぼうめ!」みたいな感じでものすごく腹が立ちまして。まあ実際は江戸弁ではなかったですけど。
当時は、バイラルメディアを「斬新なスタイルの新しいメディア」みたいに持ち上げる人達もけっこういて、どんどん新規参入も増えててどんどんパクられ被害も増えて行くし、僕らみたいな一次コンテンツを作ってる身からしたら「こんなもんが蔓延したらたまらん」っていう雰囲気はあったと思います。

まあ、バイラルメディアもコソコソやっている分にはそこまで怒らなかったと思うんですよ。たとえば、自分の子供、まだ中学生の子供が親に隠れてね、夜中にこっそりベランダでタバコをふかしてるくらいならまだ可愛げがあるじゃないですか。「おい、やめとけよ」くらいで済むかも知れない。でもそれがリビングで堂々と吸い出したらもうぶん殴るしかないじゃないですか。

バイラルメディアも同じで、コソコソやってるぶんにはそれほど目くじら立てて怒る気になりませんが、「新しいメディアです!いつでもどこでも儲かります!」って言って調子こいてインタビューに答えたり、イベント主催したりしだしたらもうガツンといくしかないのかなぁと。まあでも、そのおかげで「バイラルメディア」っていうワード自体に「ダサい」「パクリ野郎」みたいなイメージがついたので、最近は前に出てきて堂々と言う人たちはいなくなってきましたね。



Q:記事への反応はどうだったんでしょうか。

もう色んなところからめちゃくちゃ反響があって、「神」みたいな扱いを受けててビックリしました。それを受けて僕も「あ、僕って神になったんだ?」と思って、調子こいて葉巻片手にバスローブ姿でペルシャ猫撫でてたら神扱いも2日くらいで終わりましたね。「ヨッピーさん!」「ヨッピー神!」みたいな扱いだったのに2日後には普通に「おい、ピーヨツ!」って完全に元通りですからね。インターネット冷たいわー、って。

まあでも、この記事は全然特殊なことはしてないんですよ。裏ワザも使わずにただ腹立ったことを正面から書いただけです。それなのにこんなに褒められるんだ、と思いました。変なの。


Q:アワードに出展してから、何か変化はありましたか?

僕にもよくわかんないんですけど、なんとなく「一目置かれた感」みたいなのはありましたね。いつもふざけた記事ばっかり書いているから「バカライター」「クズ」「インターネットのゴミ」みたいな感じでみられていたんですけど、「おっ!たまにはやるやんけ!」と思われるようになったのかなぁと。

アワード当日には、会場で津田大介さんとかのえらい人達にも「あれ良かったです!」って声をかけてもらえたり。



予選投票で1位になったのはマジでびっくりしましたけど。文章と写真だけの記事1本で、「え!? これの何がイノベーションなの!?」って。NHKさんとか、新聞社さんとか、各大手メディアがいる中で僕に票が入ったので「ちょっと、大丈夫?」って。

その後の決勝プレゼンは全然ダメで、落ちてしまったんですが、それで良かったと思っています。僕のはジャーナリズムでもイノベーションでもないですからねあんなもん! ただ、当日は、新聞社やテレビ局のえらい人達とも話せて刺激的でしたね。僕なんて普段は低IQの連中にばかり囲まれてるんで自分もなんかえらくなった気がしました。気がしただけですけど。



▽アワードに出てほしいのは「やまもといちろうさん」

Q:ヨッピーさんが考えるジャーナリズムって、どんなものですか?

ジャーナリズムって何なのかいまだによく分からないのですが、ジャーナリストって、世の中に対する怒りの強い人が多いのかなと思ってます。

例えば(ステルスマーケティング問題などを追及している)やまもといちろうさんなんかもそうですね。やまもとさんがやっていることって、あれは完全にジャーナリズムじゃないですか。総合すると、「ズルしちゃダメでしょ?」ってことだと思うんですけど、バイラルメディアも、アプリダウンロード水増しも、ステマも「ズルすると損する」という世界になってほしいです。

やまもとさんはインターネット上で一人で勝手に「自主審判」みたいなことをゴリゴリやってらっしゃる、みたいなイメージなんですが、そういう人こそが大事だと思ってまして。そういうズルをする連中が得をする社会だと、僕みたいな割とコツコツ真面目にやるタイプの人間が食べていけなくなってしまうので。やまもとさんには、ぜひアワードに来て欲しいです!

Q:ヨッピーさんの面白い記事は数えきれないほどありますが、何か参考にされているものはあるんですか?

テレビ番組ですけど、「電波少年」と「探偵ナイトスクープ」ですね。ネットの記事ってインターネットを意識しすぎるから企画があんまり出てこなかったりするのかなーってなんとなく思ってます。僕は割とバラエティ番組を作るくらいのイメージで企画を考えていますね。

2年くらい前からウェブのプレイヤーがあんまり変わっていないので、新しい人に出てきて欲しいなぁとは思ってるんですが、最初はどうしても儲からないので、ビジネスとして成立してない期間を乗り切れるかどうかがポイントで、そこで挫折する人も多いんだろうなーと。別に基礎がなくたって良いんですよね。ネットで文章書くのが好きだったらウェブライターになんて簡単になれますよ。僕も、文章だの企画だのは誰にも習ってないですし。



▽炎上させずに自分の意見を通すコツ

Q:今年書かれた記事の中で、印象深いものはありますか?

「市長って本当にシムシティが上手いの?千葉市長とガチンコ勝負してみた」はPV数も反響も良かったですね。行政とか政治、市長っていうような割とお堅い業界の魅力を伝えるやり方としては、新しい手法だったんじゃないかなと自画自賛してます。

「取材方法のイノベーション」としてアワードに出してみようかな。予選落ちしそうだけど。


Q:ヨッピーさんの記事は、どれも炎上せずヒットしている印象があります。

単純に炎上するのが嫌なだけなんです。だから全力で回避する、と。僕って完全に「豚もおだてりゃ木に登るタイプ」なんですよ。人に褒められたり面白いって言って貰えるのが嬉しくてネットで記事を書き始めたのに、書いた記事で人に怒られたり炎上したりしてたら本末転倒じゃないですか。かと言って僕は割と言いたがりなので、ずーっと黙っても居られないっていうややこしい性格をしておりまして。

ただね、炎上する人達って「反発を恐れずに発言しろ」みたいなことを言いがちじゃないですか。でも僕に言わせれば反発を買いながら自分の意見を言うのってベストな選択では絶対にないんですよ。最上は「相手の反発を買わずに、自分の意見を通すこと」ですよね。どう考えたってそうです。じゃないと人は動きませんから。だから、言いたい事とか主張したい事があれば、「どうしたら炎上せず、反発を受けずに持論を受け入れて貰えるか?」ということは考えますね。反発されずに自分の意見を通すっていうスキルです。

たとえば、ベビーカー問題ってあったじゃないですか。ベビーカーを電車内で畳むのか畳まないのかっていう。僕はベビーカーを電車の中に持っていくのは全然OK派なんですよ。でも、僕が単純に「ベビーカー持ち込んで何が悪いんだ!」って言っても反対意見がたくさん来るだけだと思うんです。実際に賛成派と反対派がバチバチやってましたし。そこで考えたのが「自分が一日お母さんになる」っていう手法ですね。「主婦は本当に大変?33歳のおっさんが一日お母さんになってきた」という記事にしたんですけど、一日お母さんになって、3歳児抱えて掃除機かけるのは腰が痛くなるし、目を離すとすぐどっか行くし大変ってことを実体験した上で、「だからベビーカーって必要ですよね」っていう結論に持っていったんです。そしたら批判なんて一切無かったですもん。ちゃんと体験してる所を見せて、その上で「こりゃ大変だわ」って結論出したらまあそう簡単には文句言えないじゃないですか。特に何もしてない人が「ベビーカーは邪魔」なんてそうそう言えなくなりますよね。


▽"YOU"が選ばれる場

Q:最後に、今回のアワードに期待することがあればお願いします!

ジャーナリズムでも広告業界でも、内輪だけで集まって視野が狭くなるのはあまり良くないと思います。ジャーナリストの人だけではなく、普通の人も気軽に参加して、みんなで集まれるものになったらいいなって。

TIME誌の2006年「パーソン・オブ・ザ・イヤー」は“YOU”でしたよね。特定の人ではなく「あなた」。それと同じように、アワードも“YOU”が選ばれる場所であるべきだと思います。これを見ている人でも、「そういえばこれ、ジャーナリズムだわ」みたいな出来事があればガシガシ応募すべきですよ。



(「これからは、バイラルです!」と、特技にしてるバイラルメディア社長のモノマネをするヨッピーさん)

…っていうことを言えばいいんですよね?(笑)

「今回もアワードに出てくださいますか?」と質問したところ、「出すものないですよ」と言いつつ、まんざらでもなさそうだったので…今回もヨッピーさんに出品していただけることを心より楽しみにしています!(JCEJアワード運営サポート・小野ヒデコ)
※応募、推薦はこちらから受け付けています。

来年3月12日に開催する「ジャーナリズム・イノベーション・アワード2016」は、今回で2回目。作品の作り手と受け手が直接交流し、優れた作品をみんなの投票で選ぶイベントです。組織や業界の垣根を越えて、切磋琢磨する仲間と出会い、語り合える場にしたいと考えています。ぜひ、あなたの作品を応募してみませんか。この作品が良かった、という推薦も受け付け中です。※応募は終了しました※

当日参加のチケットはこちらのサイトからCチケットをご購入ください!

垣根は全部なし、イノベーションが生まれる「文化祭」 メディアコンサルタント・境治さんが体感したジャーナリズム・イノベーション・アワード

前回のジャーナリズム・イノベーション・アワードで、パネルディスカッションのモデレーターを務めていただいたコピーライター・メディアコンサルタントの境治さんにインタビューしました。アワードを「いい意味で"文化祭的"」と表現し、「あの場でないと味わえなかった空気があった」と振り返ります。また、正義感が過剰というジャーナリズムのイメージが変わり、「素朴に疑問を極めていくことが原点だと思った」と言います。記憶に残った作品についても聞いたほか、話はジャーナリズムのこれからやステマ問題に及びました。「谷口マサトさんやヨッピーさんの動きを見ていると、30年くらい前の糸井重里さんと重なるところがある」と語る真意とは。
※アワードは2016年3月12日(土)開催。チケットはこちらのサイトからCチケットをご購入ください

▽「いい意味で"文化祭的"だと思った」

Q:前回のアワードで、いろいろな作品が出てきたと思いますが、振り返ってみて印象に残った作品はありますか?

ドラッグストアとジャーナリズムというテーマでやってる人がいて、これはぜんぜん知らなかったんですけど、すごくびっくりしました。写真を撮ろうとしたら写さないでくれ、匿名じゃないとだめだからって言うんですよ。インサイダーだから言えることがあって、インサイダーだから匿名でネット上でやる意義がある。こういうのも一種の大事なジャーナリズムだなと思いましたね。




Q:他にはいかがでしょう?

やっぱりいいと思ったのは、ヨッピーさんの活動。あとは、実際に賞を受賞した、首都大学台風リアルタイム・ウォッチャーが、すごいと思いました。ほかにもテクノロジーが生きてる展示があって、"ジャーナリズムイノベーション"という点からすると、それはすごく大事な軸なんだなと思ったんですよね。

今まで作り手が職人気質で自分の感覚と経験値だけでやっていたことの良さは絶対あるんですけど、それだけじゃない要素をテクノロジーはもたらしてくれていますよね。そのイノベーションというのも何もたくさん資本を投資しなくてもいい。エンジニアとジャーナリストが出会えばできるわけで、そういった出会いはどんどんやっていくといいなと見ていて感じました。


Q:現場の雰囲気についてはどう感じられましたか?

ジャーナリズムにとってのイノベーションってどういうものなのか、参加する前は正直イメージしづらかったんですが、参加してみるといい意味で"文化祭的"だと思ったんですよ。いい意味のアマチュアリズムというか、個人や有志がやるべきと思ったことをやっている。思っていた以上にみなさんすごくイキイキしていて感動しました。

大手メディアの人も大手メディア然としていないというか、テクノロジーをうまく生かしていて、大手メディアにとっても一石を投じるものになっているんじゃないかと思うんですよね。

大げさに言うと2015年1月のあの瞬間のあの場じゃないと味わえなかった空気がそこにはあったんじゃないかな。みんな一斉に並んだアマチュア感っていうか初々しさというか、あのときだけだったんじゃないかな。




Q:アワードを通じて「ジャーナリズム」という言葉の印象は変わりましたか?

ジャーナリズムってこんなに広いんだって思ったんですよね。ちょっと偏見もあって、今までのジャーナリズムはちょっと正義感が過剰な人みたいなイメージがありました。そうでなくて、素朴に自分が思った疑問を極めていくことがジャーナリズムの原点なんだなって思いましたね。


Q:アワードが境さんの普段のお仕事や活動に何か影響を与えましたか?

簡単に言うと、ぼくもがんばろうと思いました(笑)。僕はメディアに関して原稿を書いてるんだけど、それと別に子育てに関してもPRESIDENTやハフィントンポストなどで書いていて、子育ての方をもうちょっと僕なりにがんばろうかなって。僕は保育園反対運動の取材とかもしていて、保育園ができるということについて何か背中に押したくて取材に行くんだけど、そんな簡単ではなくて、反対してる人たちもすごいエネルギーで反対している。下手に書いたら、紛争をややこしくするだけ。

だから取材して思ったことをそのまま書くんじゃなくって、もっと上位概念的な世論づくりみたいのをしないといけないのかなと思ったんですよ。直接的な個別の問題のことを言うんじゃなくて、個別の問題を知った上で、上位概念のメッセージを僕が発したり、言ってほしい人を動かしたり、そういうことが必要なのかなって。空気みたいなものを作るしかないんじゃないかなって。

それを僕がいま思えるのは、ネットがあってソーシャルメディアがあるから。10年前だと、テレビ局の友達に相談しようかとかそういう話になってたと思うけど、それは意外に難しい。ソーシャルメディアには"空気"を動かす具体的な力がある気がしますね。




ステマ問題「解決しないとジャーナリズムも成り立たない」

Q:この1年間でメディアやジャーナリズムに関して、気になる動きは?

ぼくはベースが広告屋なんで、ステマの話がずっと気になっています。スマートフォンが主体になったときにバナーはもうもたないと思うんですよ。ちょっと記事を開くとスマホの3分の1がバナーで記事が読めないよ、とかね。これでまともな広告商品って言えない。広告主も小金なら払うんだろうけど、これに価値があるから何百万円払おうってならないですよ。こんなことやっていたら、マスメディアもネットメディアも下手すりゃ共倒れですぜって。

そこをどう解決するのか、みんな本気で考えないといけないのに、ネットメディアの人もどこか軽く見てるところがあって、だからステマ的なことをしちゃっている。短期ではいいのかもしれないけど、長期的にはどうなるの。そこを解決しないとジャーナリズムも成り立たないんじゃないかな。


Q:解決の道筋や方向性は見えていますか?

明確な答えではないけど、方向的にはやっぱりネイティブ広告なんだろうなって思います。記事と広告に明確な境があってやってきたのがこれまでのメディアで、それはそれで紙や電波でうまくいっていたわけですよね。でも、それはこの100年くらいの話。これからはそうじゃないやり方も考えないといけない。広告と記事がはっきり境目がなくても、ちゃんとモラル的にも成立する形を作れたらそれがベストじゃないでしょうか。

本当は広告って、コンテンツでもあったはずで、だからこそ分けてもよかったんですよ。分かれていても広告は広告でおもしろいからって読んでもらえていたからね。でも今はもう広告は"お知らせ"になっちゃっている。そこをもう1回、僕たちは考えなおすべきなんじゃないかな。

大手メディアも、そしてマスメディア中心に広告を作っていた僕たちみたいな人も、みんなでそういう垣根ぜんぶなしにして、どうやったら良い広告が成立するだろうということをみんなで考えないと行けないんじゃないかなって思うんですよ。




▽アワードは将来「広告部門」も?

Q:アワードもそういった課題も含めて考える場になればいいなと思います。
そうですね。まだ早いかもしれないけど、将来的にはアワードでも広告コミュニケーションみたいな枠ができたらいいかもしれないですよね。谷口マサトさんやヨッピーさんの動きを見てると、30年くらい前の糸井重里さんと重なるところがある気がする。糸井さんも最初の頃は旧広告制作業界からよく分からないことをやってるって言われたりしていたみたいなんです。でも若い人たちから支持されて、そのうち糸井重里やっぱりいいんじゃないかという風になっていったと聞いたことがあります。


▽「大きな声を出そう」

Q:アワードに期待することや、来てほしい人はいますか?

とにかく知らなかった活動を知りたいです。ソーシャルが発達してるからたいがいの人の活動は見ていたりするんですけど、去年のドラッグストアの方もぜんぜん知らなかったですし、こういう風に情報発信してる人いるんだという発見があったらうれしいです。

Q:埋もれてる活動がまだまだあるはずなので出てきてほしいです。そういう方々へのメッセージをもらえませんか?

"大きな声を出そう"って言いたいです。ソーシャルで拡散したらかっこいいんだけど、そのためにも自分の存在をもっと打ち出していった方がいいことあるんじゃないかな。あるいは自分の存在をもっと前に出さないと自分の活動が評価してもらえるものなのか分からなかったりするし、どうなのかなって思っているんだったら前に出ていってみようよ、そんな風に思います。

(JCEJアワード運営・田中郁考)


来年3月12日に開催する「ジャーナリズム・イノベーション・アワード2016」は、今回で2回目。作品の作り手と受け手が直接交流し、優れた作品をみんなの投票で選ぶイベントです。組織や業界の垣根を越えて、切磋琢磨する仲間と出会い、語り合える場にしたいと考えています。ぜひ、あなたの作品を応募してみませんか。この作品が良かった、という推薦も受け付け中です。※応募は終了しました※

チケットはこちらのサイトからCチケットをご購入ください。

ジャーナリズムかどうかは、作品が語ってくれる。アワードは「同志に出会える場所」 前回王者が語るジャーナリズム・イノベーション・アワード

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が来年3月に開催するジャーナリズム・イノベーション・アワード2016。どんなイベント?参加して何のメリットがあるの?そんな疑問をお持ちの皆さんに、前回最優秀賞に選ばれた首都大学東京システムデザイン学部准教授・渡邉英徳さんからのメッセージをお届けします。渡邉さんにとって、アワードは「高め合う同志に出会える場所」。自分はジャーナリストの肩書きじゃないし・・・と応募を迷っている方もいらっしゃるかもしれませんが、それは「やっている仕事が語ってくれる」と渡邉さん。参加して得た学びや、「同志」との出会いから生まれた新たな作品についてもインタビューで話してくださいました。

Q:アワードに応募されたきっかけは何ですか?


首都大の学生さんから、こんなのあるから出してもらえませんか?と連絡があったんです。率直に言うと、同好会的なコンテストだと思っていました。割とこぢんまりした集まりだと思っていたので最初は本気にしていなくて、ちょっと出してみるか、という感じでした(笑)。そしたら新聞社などもたくさん出ていてびっくりしました。

台風リアルタイム・ウォッチャーを出品した理由としては、リアルタイムに災害情報を集める試みについて、報道の現場に携わる方たちに、特に見て欲しかったということがあります。僕の研究室は「ヒロシマ・アーカイブ」などの戦災・災害のデジタルアーカイブを作ってきましたが、出品した作品はちょっと異質だったので、新しいチャレンジでもありました。





Q:参加して得られたこと、その後に生かされた学びはありますか?


同じ方向を向いている人が集まって、情報を交換し、高め合うという部分はすごくうまく行っていたと思います。あとは、参加者と交流して生の声を聞けたのは良かった。「台風リアルタイム・ウォッチャー」、ネット上ではひたすら絶賛されていたんです(笑)。裏で批判している人もいたはずですが、逆にそういう意見があまりなくて。

例えば、モバイル版はもともと構想を温めてはいましたが、なかなか手が動かなかった。来場者の方に「災害情報なのにパソコンだと家でしか見られない」という意見をもらったことを受けて、イベントの後で実際に作りました。

また、イベントの影響で、今年から、学生たちとデジタルアーカイブの活用について考えるワークショップを開始しました。例えば長崎では、被爆者の方と地元の高校生、うちの学生が一緒のテーブルに座って考える場が作れました。これはとても嬉しかったことです。

去年までは、作品はネット上に置いとけば、誰かが使ってくれる。それでいい、というスタンスでした。活動の幅が拡がったのは、やはり、アワードで「生身の人」の意見を聞けたことが影響していると思います。ウェブコンテンツがどう使われているのかについては、アクセス解析等のツールがあるものの、基本的には「不可視」です。アワード後、そのあたりを意識するようになりました。

▽「同志」との出会い

Q:前回のアワードで沖縄タイムスの與那覇里子さん(データジャーナリズム特別賞)と出会ったことをきっかけに、新たな作品作りにも取り組まれたんですよね。


一番(大きな収穫)は沖縄タイムスさんとの出会いです。その場で一緒にやろうという話になりました。一緒に作った沖縄戦デジタルアーカイブは、「第19回文化庁メディア芸術祭」と「2015年アジアデジタルアート大賞展」の2つに入選しました
沖縄タイムスと首都大、GIS沖縄研究室の共同制作です。アワードをきっかけに生まれた「異質な組み合わせ」がつくりだした作品が、また別のところで賞を取ったというのが、自分的には痛快でした。





Q:アワードは組織や会社の枠組みを越えた学びや出会いの場と考えているので、とても嬉しいニュースです!


もともと沖縄にはご縁があります。沖縄県事業の「沖縄平和学習アーカイブ」の総合監修も務めています。ただ、県のアーカイブだけあって、オーソライズがなければコンテンツが更新できないなど、さまざまな足かせがあります。それならいっそ、沖縄タイムスさんと、自分たちの裁量で作っちゃおうという話になって。

トップダウンでなく、ボトムアップで世界に届くものが作れるのがインターネット。4月に制作を始めて6月には発表したので、めちゃくちゃ早いですよね。そして「沖縄戦デジタルアーカイブ」がいいアクセラレータになって、県のアーカイブも無事にバージョンアップすることができました(笑)。勢いは大事です。





▽いろんな「ジャーナリスト」がいてもいい

Q:参加されて、ジャーナリズムという言葉に対してのイメージに変化はありましたか?ご自身を「ジャーナリスト」と定義されていますか?

普段は「情報アーキテクト」と名乗っています。「台風〜」は、アーカイブではなく、即時性を重視したサービスです。そして、アワードに来ていた報道の現場にいる人たちも、本気で、なるべく早く必要な情報を届けようとしている人たちですよね。みなさんの姿勢を拝見して、(自分もそういうことをやっていたんだと)改めて実感できました。

これまでは、自分たちが作ったものについて「作品」とか「ウェブ作品」という言い方をしていました。でも「台風〜」については、「作品」という呼び方だと収まりが悪い気がしていて。アワードに出品してから「これは新たな報道の形です」と説明できるようになりました。これも収穫です。


Q:渡邉さんは研究者ですが、活動や作品はとてもジャーナリスト的だな、と思います。


面白いです。自分ではそう感じたことはないので。肩書きで定義しちゃいけないのかもしれませんが。むしろ、仕事がポジションを語ってくれたほうがいい。僕の作品もデジタルジャーナリズムだったり、デジタルアーカイブだったり、色んな評価をされます。でも、作品をご覧になった方の好みで、自由に解釈してもらえたらいいなと思っています。

研究者と記者は、さまざまな意味で似ています。これから、職能はどんどん変わらざるを得ないと思います。今までは文章を書くのが記者の仕事だったかもしれない。でも今後は「色んなことをやる人」になると思う。多元的な職能を身につけている必要がある。たとえ新聞社やテレビ局に在籍していなくても、いろんな会社で活動を実践する「ジャーナリスト」がいてもいいんじゃないかな、と感じます。



▽同業者で楽しく…じゃ、ゆるい

Q:最後に、出品を考えている方、迷っている方へのメッセージをお願いします!


賞なんて、と思っている人も多分いますよね。取れれば嬉しいと思いますが、そうでなくても「同志」に出会えるかもしれない。僕は「ビジネスチャンス」という言い方は嫌なので・・・「仲間が集って、高め合えるチャンスがある場所」だと思います。逆に、同業者で集まって楽しくやろう、という心構えだと、ユルいと思います。真剣で切磋琢磨する場所ですね。


アワードでの出会いが、新しい作品や報道を生み出すきっかけになる…こんなに嬉しいことはありません。アワード2016もそんな場にできるように、運営一同はりきって準備しています。作品の出品、推薦はこちらから受け付けています。(JCEJ運営委員・耳塚 佳代)

来年3月12日に開催する「ジャーナリズム・イノベーション・アワード2016」は、今回で2回目。作品の作り手と受け手が直接交流し、優れた作品をみんなの投票で選ぶイベントです。組織や業界の垣根を越えて、切磋琢磨する仲間と出会い、語り合える場にしたいと考えています。ぜひ、あなたの作品を応募してみませんか。この作品が良かった、という推薦も受け付け中です。

詳細はアワード特設サイトから!

新聞記者のおごりに気づかされたキャンプ〜ジャーナリストキャンプ参加者レポート

6月19日(金)〜6月21日(日)に行われた「ジャーナリストキャンプ2015浜松」では、参加者が静岡県浜松市を取材して、その成果を「THE PAGE」で公開しています。

参加者レポート第3弾として、福岡範行さんのレポートをお届けします。福岡さんは浜松のB級グルメ浜松餃子」を取材しました。作品は「浜松餃子なんて無い? 餃子日本一の裏側(上)──ウナギの敵だと思われて」「浜松餃子なんて無い? 餃子日本一の裏側(下)──ブーム喜べない餃子店」です。新聞記者の福岡さんはキャンプを通じて、どう考え方が変わったのでしょうか。

たぶん心のどこかで、「新聞記者は取材のスペシャリストだ」と思っていました。それは、おごりだとジャーナリストキャンプで気づかされました。記者歴10年目。話を聞き出し、記事に組み立てるノウハウは知っています。でも、それだけ。取材の狙いの絞り方も、人の好奇心を刺激する記事の表現も、写真の撮り方も、自分はいわば「新聞の常識」という狭い枠にとらわれていた。それを外せば、もっと自由で幅広い伝え方があるんだと、思い知らされました。

▼開沼流「仮説思考」でB級グルメの陰をあぶりだす

経験者に地獄と呼ばれるジャーナリストキャンプ。本番は3日間ですが、実際は事前も事後も、きついです。私が特に苦しんだのは、事前準備でした。

キャンプ開催地の浜松には縁もゆかりもありません。日々の取材でネタを引っかけるという手法も使えず、どこを深掘りすれば面白そうか、まったく見当が付きません。なのに、事前レクでは取材テーマを発表しなくてはならず、その場の雑談で出た「浜松餃子」に決めました。

本番に向けて担当デスクの社会学者・開沼博さんから与えられた宿題は、記事で解き明かそうとする普遍的な「問い」と、その答えにあたる意外な「仮説」を文字にすること。浜松餃子への問題意識すら皆無なのに、書けるわけがありません。

必死で過去記事や関連する統計を調べました。かすかな取っ掛かりを求め、あの手この手で取材先を探した結果、B級グルメの陰をあぶり出す記事になりました。意外なところにも掘るべきニュースはあると実感すると同時に、普段は偶然拾ったネタしか書けていない自分に気づき、反省しました。普遍的な問題を探し、見極める視点を持つこと。ジャーナリストには当然の心構えの大切さが、キャンプでようやく身に染みました。

▼業界の先行きが不安な新聞記者こそ、ぜひ参加を

記事を書くとき、開沼さんに言われたのは「情景描写や自分の感想も交えて、だらっと書いてください」。要素をコンパクトにまとめる普段の記事とはまるで違います。他の参加者の記事を見ると、一見無関係なネコの描写から書き出したり、バリエーションの違う大量の写真を使ったり。そんな手があるのか、とうなりました。プロもアマも、多彩な立場の参加者が集っていたから、多くの刺激をもらいました。

それは、本業にも生きました。私が担当する若者向けの特集紙面で、キャンプでの体験も交えて記事を書きました。タイトルは「若き編集長の悩み」。新聞業界の行く末に対する不安を赤裸々に書きつつ、ほぼ全編独白でまとめました。思いっきり主観的な話にしてみる手法は、キャンプで学んだこと。読者に響く記事かどうかを常に議論していたキャンプでの日々を思い出しながら書き直すうちに、そこに行き着きました。20代の読者からは「こんな冒険ができるなんて新聞もまだまだ希望あるな!と思いました」といううれしい感想も。その後も、紙面と動画のリンクなどの試みを始めつつ、そうした挑戦を特集以外の紙面に展開する方法も模索しています。

新聞の先行きに不安を感じている記者は、ぜひこのキャンプに参加してほしいです。他のメディアに移るにしても、新聞の大幅な改善に挑むにしても、新聞記者として身に着く取材スキルには偏りがあるんだと自覚した方がよさそうです。メディアの置かれた環境が激変する時代、記者にも変化は求められます。「新聞の常識」にとらわれていては、新しい道はなかなかひらけない。そんな状況を打破するヒントとの出合いが、キャンプにはあります。その種に気づき、芽吹かせ、育てることができるかどうかは、あなた次第です。

<福岡範行プロフィール>
ふくおか・のりゆき 北陸中日新聞報道部記者

<関連リンク>
「ジャーナリストキャンプ2015浜松」はこちらから!!

広がる輪は無限大!一生モノの出会いと経験〜ジャーナリストキャンプ参加者レポート

6月19日(金)〜6月21日(日)に行われた「ジャーナリストキャンプ2015浜松」では、参加者が静岡県浜松市を取材して、その成果を「THE PAGE」で公開しています。

参加者レポート第2弾として、小野ヒデコさんのレポートをお届けします。小野さんは浜松にいる在日ブラジル人を取材しました。作品は「それでも彼らは高く飛ぶ −10代ブラジル人の今−」です。小野さんは何を感じたのでしょうか。

▼一度は参加を諦めかけた

元々メディアとは無縁の仕事をしていましたが、「本当にやりたいことをしよう」と思い今年ライターに転身しました。ただライターになりたいと言っても、何をどうしていいかわからない。最初はどこかちゃんとした場所で学んだ方がいいのではと思い、ライター・編集系の学校を数件回って見てみましたが、「ここだ」という所が見つからずにいました。 そんな中見つけた「ジャーナリストキャンプ」の募集。短期実践型で魅力的でしたが、募集要項の「原則記者歴3年以上」という一文を見て、「無理だ」と思い、一度は諦めました。そんな中、キャンプ経験者の先輩からメールが届きました。

「ジャーナリストキャンプは一流どころから指導を受けられる良い機会です。社会人経験があってからのライターキャリアスタートですからちょうど良いと思います」

それでも迷っていましたが、「ハードルが高いと思うならなおのこと参加した方がいい」という言葉に後押しされ、ダメ元で応募してみることに。ライターになりたい気持ちを熱心に語ったところ、選考通過のメールが届きました。その時の気持ちは「選考通っちゃった・・・」というもの。キャンプに参加できることの喜びと、ついていけるのかという不安を同時に感じ、正直フクザツな気持ちでした。

▼テーマ決めに苦戦

デスクは朝日新聞記者の依光隆明さんでした。今回で3度目のデスクを務める依光さんと事前にお会いした時、まず言われたのが、「このキャンプ、大変なんだよ」という一言。具体的に、何がどう大変なのか全く想像がつかないものの、キャンプ中に手空きになることだけは避けたいと思い、事前準備でアポ取りや下調べを行いました。


(写真:ブラジルのお祭り用の“田舎の農民メイク”をしてもらっている場面)

最初に選んだテーマは「在日ブラジル人発達障害」。“日本人とブラジル人で発達障害の発症率が異なるのか?”という問いを立て、それが先天的なものなのか育った環境に左右されるものなのかを立証していきたいと思ったのですが、ブラジル本国の発症率データがとれませんでした。また浜松ではNPO団体や学校を訪問して発達障害をもつ児童についての情報収集をしたものの、本人や家族の方には言語やプライバシー上、直接取材することが難しく、記事にするのが不可能と判断しました。そこで、「ブラジル人の中のホワイトカラーとブルーカラー」、「在日ブラジル人に“居場所”はあるのか」などのテーマを色々考えたものの、どれもピンとこず…

その一方で、取材を進めていくうちにブラジル人が日本の学校や社会で適応できずに苦しんでいるという事実を知り、徐々に「ブラジル人の現状を多くの人に知ってもらいたい!」と思うようになりました。

▼気持ちだけが前のめりに

しかし、実際に原稿を作る段階でぶち当たったのが「何を軸にするか」が中々定まらないという壁。漠然と「浜松にいる在日ブラジル人の現状を伝えたい」という想いはあるものの、ピントが絞れずにいました。そして、伝えたい気持ちだけが前のめりになっていきました。テーマが定まらない中でのキャンプ中の夜ミーティングでは厳しいご指摘を多々いただくことに…

「何を伝えたいのかわからない」
「タイトルから話の流れが見えてこない」
「取材してその記事を並べるのだったら誰にでもできる」

今振り返ると、「集めた情報を全部織り込みたい」という気持ちが強く、それが読者に届くか、面白いと思ってもらえるかという配慮が欠けていたと思います。締切直前までデスクと何度もやりとりをし、最終的に対象を10代ブラジル人のみに絞ることでテーマをより明確にして仕上げました。漠然と取材を重ねていくのではなく、問題意識を持ち「これだ」と思うものを掘り下げていくことでより深く読者に刺さる記事になるのだということを学びました。

終わってみて思うことは、依光デスクはそれを全て踏まえて上で、好きにやらせてくださったということです。未熟な提案や意見を決して否定せず、「思うようにやったらいいよ」と繰り返し言ってくださったのは、経験値のない私に自信と達成感を与えようとして下さっていたからだったのだと。そうして完成した初署名の記事は、ライターを目指す私にとっては忘れられない作品となりました。

▼世界が、価値観が、広がる

キャンプに参加してよかったことは多々ある中で、こうした「出会い」は宝物になりました。JCEJをはじめ、デスク陣、いっしょにやり遂げた仲間、取材に協力してくださった方、そして過去のキャンプ参加者の方など各業界で活躍されている方と知り合えたことで新たな世界を知ることができました。キャンプ自体は2泊3日だけでしたが、そこから広がる輪は無限大!色々な縁とタイミングがあって参加したジャーナリストキャンプで得た経験と人は一生モノになると思います。

<小野ヒデコプロフィール>
おの・ひでこ 1984年生まれ。自動車メーカー、アパレル会社勤務を経て2015年ライターに転身。ジャーナリストキャンプへは「取材の本質を体得したい」と思い参加した。

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地獄に飛び込み、取材の原点を見つめ直す〜ジャーナリストキャンプ参加者レポート

6月19日(金)〜6月21日(日)に行われた「ジャーナリストキャンプ2015浜松」では、参加者が静岡県浜松市を取材して、その成果を「THE PAGE」で公開しています。

今回、キャンプの振り返りとして、参加者のレポートをお届けします。第1弾は宮本真希さんです。宮本さんは83歳の鍛冶職人を取材しました。作品は「孤独が磨く最高の「切れ味」83歳いまなお進化──山奥の町、最後の鍛冶職人」です。宮本さんはキャンプを通じて、どのようなことを考えたのでしょうか。

あれは6月の初め頃。ジャーナリストキャンプの前に運営の皆さんや前回の参加者からお話を伺う機会がありました。「キャンプは苦行です」「辛い記憶しかない」「地獄を楽しもう」……いやいや、ちょっと待て! 地獄で苦行が楽しいわけねえじゃねえか!!! 次々に飛び出す脅しの言葉に心の中でツッコむ私。始まる前からテンションだだ下がりです。でもこれで闘争心に火がついたのも事実。「やってやろうじゃないか」とギアを入れ換え、地獄とやらに飛び込むことにしました。

こんにちは、宮本真希と申します。普段はYahoo!ニュース編集部で、Yahoo!ニュース・トピックスの編集、Yahoo!ニュースのオウンドメディア「news HACK」の編集などを担当しています。その前は7年ほどITmediaでIT企業やWebサービス、ネットカルチャーなどを取材してきました。ジャーナリストキャンプに参加したのは、なれ親しんだ「IT」というジャンルから離れて取材経験を積んでみたかったから。浜松市という縁もゆかりもない場所で自分の力を試してみたかったのです。

取材対象に選んだのは山奥で暮らす83歳の鍛冶職人。詳細はぜひ記事でご覧いただきたいのですが、私はこの職人さんの言葉ひとつひとつにホレそうになりながら原稿を書きました。14歳から70年腕を磨き続け「今が最高」「ますます腕が冴える」と語るのです。うおおおお! カッコイイ!!! 記者という職業もある意味職人みたいなもので“腕”の向上に終わりはありません。私もこんな風に情熱を持ち続けて仕事に臨めるだろうかと思わず考え込みました。

▼「ありきたり」と言われ深夜に凹む

ジャーナリストキャンプの夜は取材を終えた全員が集まり、成果を報告します。取材でテンションが上がった私も意気揚々と報告したのですが、デスクの皆さんから返ってきたのは「どこかで聞いたことのある職人モノじゃない?」という厳しい言葉でした。「頑張る職人の話だけではありきたりでつまらない」「あなたがこの職人を取材しなければならない理由はどこにあるの?」。はい、けちょんけちょんですね。「ありきたり」と言われ悔しさがこみ上げます。くっっっそー。でもどうすれば……。深夜に頭を抱えました。

いよいよ苦行の始まりを感じつつ、デスクと話し合いながら、なぜ取材するのかという出発点――自分の問題意識――に立ち返ることに。今回のジャーナリストキャンプのテーマは「家族」です。私が考える「家族」とは“鎖”のようなもの。お互いの足を引っ張ったり、束縛しあったりすることもあるけれど、命綱にもなる――そんな家族の両面を描きたいと思っていました。取材した職人さんは「長男だから」と進学をあきらめて鍛冶の道に進み、一家を支えてきた人。鎖のイメージがピタリとハマる気がしました。

昼間に聞いた職人さんの言葉をもう一度、思い出します。妻に先立たれ、子供は独立し、現在は一人暮らし。店の跡取りはなく、弟子もいません。でも「今が充実している」と断言し、70年間現役を貫いていました。それは一体なぜなのか、ただの強がりなのだろうか、なぜ「最高」の腕を引き継ぐ者はいないのか……あらためて振り返ると疑問ばかり。自分の取材の甘さにがく然です。そこで、技を継ぐ・継がせないという問題にフォーカスしつつ、職人さんと家族の「鎖」の物語を描こうと方針を定め、再度取材へ向かいました。

▼「産みの苦しみ」と“ガチ”で向き合う

結局3日間のキャンプのなかで、職人さんには合計12時間ほど密着取材させていただきました。2日目はお昼前に作業場にうかがい、話が盛り上がって気づけば外は真っ暗という状況。浜松市の中心部まで戻らなくてはならないのに、1日数本しかないバスの最終を逃してしまい、片道2時間ほどかけてジャーナリストキャンプの運営スタッフの方に迎えに来ていただいたりもしました(その節はご迷惑おかけしました……)。

キャンプはそれくらい夢中で取材に打ち込める時間です。取材相手の本心に迫ることができているのか、企画の方向性はこれでいいのかなど、色んな方にアドバイスをいただきながら自問自答し「産みの苦しみ」と“ガチ”で向き合う――そうやって取材の原点を見つめ直すことができました。

もしこれがスピード感を求めるメディアで仕事として取り組む企画ならば、12時間もかかるような取材は「コスパが悪い」と判断され、ゴーサインが出なかったり、方向転換を求められたりするのかもしれません。もちろん時間をかけたからといって良い取材、良い記事になるとは限りませんが、納得するまでとことん追求できるキャンプの取り組みはぜい沢だなあと感じています。

そんなわけで今回の成果は、記事にある通りです。たったひとりで技を追求し続ける職人の凄み、でも(それゆえに?)技が失われていくのかもしれない切なさ、戦後の時代の変化と家族の形……そういったものを感じていただけるとうれしく思います。ご感想などありましたら、私のTwitter @miymakiまで。

宮本真希プロフィール>
みやもと・まき 1984年生まれ。ITmediaの編集記者として2007年4月よりIT業界やネットカルチャーを取材。2014年10月よりYahoo!ニュース編集部。

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ブラジル人、限界集落・・・「ありきたりな話」脱却に挑戦し続けた3日間

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)は6月19日から21日にかけて、静岡県浜松市で「ジャーナリストキャンプ2015浜松」を開催しました。参加者たちは、どうすれば普段マスメディアやネットメディアで見かけるような「ありきたり」な話から脱却した作品を作れるのか、伝えたい人に届けることができるのか、頭を悩ませながら、取材と議論を繰り広げました。

■取材は勢いが大事、1つのきっかけから広がる

今回の参加者は、関東などからやってきた10人と、地元在住の3人。これに指導役のデスク5人が加わりました。

キャンプは、2泊3日で、取材は朝から夕方にかけて行いました、初日と2日目の夜には、その日の取材を終えた全員が浜松市内の万年橋パークビルに集まり、深夜まで議論を続けました。

3日間の短期取材なので、アポを取るのも一苦労です。参加者のフリージャーナリスト・岸田浩和さんは、浜松に多い在日ブラジル人について、暴走族の観点から扱おうと、初日に2人のアポを取りました。しかし、取材対象としてイメージしていた暴走族が存在しないことがわかり、さっそく方向転換を余儀なくされました。

3日目の正午すぎ、岸田さんの取材に同行すると、市民センターの体育館で、キャンプ中に取材したブラジル人の少年に偶然再会。一緒にいた彼の友人にも話を聞いていました。岸田さんは「短期間の取材では、勢いが大事です。1つとっかかりを見つけることができれば、取材は広がっていきます」と話していました。

岸田さんがこの3日間で出会ったブラジル人の数は10人を超えたとのこと。どんどん取材の輪が広がることによって、多角的な情報が集まるようになったといいます。

■使い古された議論からは何も見えてこない

しかし、取材を繰り返して情報量を増やすだけでは、面白い記事を書くことはできません。夜の議論では、昼間の取材で得た情報をいかに自分なりに整理して、面白い企画にすることができるのかが求められました。

2日目の午後8時すぎに始まった夜の議論では、参加者が、タイトルと企画概要、誰に読んでほしいのか、読むとどんないいことがあるのか、の4点を模造紙に書いて、デスクや他の参加者を前に発表しました。

例えば、参加者の齊藤真奈さんは「空き家が遠ざける『集落』の限界」と題して、限界集落で空き家を活用している事例を紹介しながら、限界集落は必ずしも言葉通りの危機的な状況ではないことを提示できるのではないかと説明しました。

この企画に対して、デスクの開沼博さん(福島大学特任研究員)は「この見せ方では、使い古された議論になってしまいます。読んでも何も見えません」と指摘。「ステレオタイプなステレオタイプ否定」になっていることが突き付けられました。「ありきたり」から脱却することは容易ではないようです。

■人の「本心」をどう表現するか

また、参加者の宮本真希さんは、職人歴70年の鍛冶屋職人を取材して、そこから考えた企画内容を報告しました。

インタビューした鍛冶屋職人は、あくまで自分の力を高めることを第一に考えたために、後継者問題に固執せず、弟子も取らなかったと説明。その話を踏まえて、職人としての凄みを伝えたいと語ったところ、デスクからツッコミが入りました。

デスクの依光隆明さん(朝日新聞be編集部記者)は「それは本心で言っているのか。跡継ぎがおらず、自分の人生を正当化したいから言っているのではないか」と指摘。また、デスクの田中輝美さん(ローカルジャーナリスト)は「職人の姿を描き切ったうえで、本心なのか正当化なのか、読者に委ねてみるといいのではないか」と語っていました。

取材相手が話したことをどう表現すればいいのか。そして、読者にどう伝えればいいのか。企画の面白さだけではなく、描き方にも相当な工夫が求められることを感じさせる場面でした。

■「本当に殻を破ることはできたのか」

冒頭で紹介した岸田さんは、夜の議論では、「日系ブラジル少年サバイバル」と題して、在日ブラジル人が就職活動などの進路にどう向き合っているのかを描こうとしていました。

読者のターゲットとして、「進路に悩む学生」「就活生」「採用担当者」「移民反対志向の人」を掲げていましたが、岸田さんの発表に対して、モデレーターの河井孝仁さん(JCEJフェロー、東海大学教授)からは「このままだとターゲットとして設定した層は読まない。誰が読むのかわからない」と厳しい指摘がありました。企画とターゲットがずれていると、伝えたい人に伝えられないということです。

参加者13人中、5人が浜松の在日ブラジル人問題を扱っていて、同じような問題に直面していました。

4時間以上に及ぶ2日目夜の議論のラストでは、参加者とデスクが、自分が読みたいと思う企画に投票しました。その結果、岸田さんが最多得票を獲得しましたが「僕はまだ十分な取材が出来ていないのではないか。それに、自分の殻を破れているのかわからない」と打ち明けていました。

単に取材して終わりではないのがジャーナリストキャンプです。みんなで考えて議論することで、作品を作り上げていきます。どうすれば、ありふれた話から脱却し、伝わる表現にできるのか。7月下旬のネットメディア「The Page」での作品公開に向けて、これから記事の執筆が本格化します。(運営委員・新志有裕)