日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が来年3月に開催するジャーナリズム・イノベーション・アワード2016。どんなイベント?参加して何のメリットがあるの?そんな疑問をお持ちの皆さんに、前回最優秀賞に選ばれた首都大学東京システムデザイン学部准教授・渡邉英徳さんからのメッセージをお届けします。渡邉さんにとって、アワードは「高め合う同志に出会える場所」。自分はジャーナリストの肩書きじゃないし・・・と応募を迷っている方もいらっしゃるかもしれませんが、それは「やっている仕事が語ってくれる」と渡邉さん。参加して得た学びや、「同志」との出会いから生まれた新たな作品についてもインタビューで話してくださいました。
Q:アワードに応募されたきっかけは何ですか?
首都大の学生さんから、こんなのあるから出してもらえませんか?と連絡があったんです。率直に言うと、同好会的なコンテストだと思っていました。割とこぢんまりした集まりだと思っていたので最初は本気にしていなくて、ちょっと出してみるか、という感じでした(笑)。そしたら新聞社などもたくさん出ていてびっくりしました。
台風リアルタイム・ウォッチャーを出品した理由としては、リアルタイムに災害情報を集める試みについて、報道の現場に携わる方たちに、特に見て欲しかったということがあります。僕の研究室は「ヒロシマ・アーカイブ」などの戦災・災害のデジタルアーカイブを作ってきましたが、出品した作品はちょっと異質だったので、新しいチャレンジでもありました。
Q:参加して得られたこと、その後に生かされた学びはありますか?
同じ方向を向いている人が集まって、情報を交換し、高め合うという部分はすごくうまく行っていたと思います。あとは、参加者と交流して生の声を聞けたのは良かった。「台風リアルタイム・ウォッチャー」、ネット上ではひたすら絶賛されていたんです(笑)。裏で批判している人もいたはずですが、逆にそういう意見があまりなくて。
例えば、モバイル版はもともと構想を温めてはいましたが、なかなか手が動かなかった。来場者の方に「災害情報なのにパソコンだと家でしか見られない」という意見をもらったことを受けて、イベントの後で実際に作りました。
また、イベントの影響で、今年から、学生たちとデジタルアーカイブの活用について考えるワークショップを開始しました。例えば長崎では、被爆者の方と地元の高校生、うちの学生が一緒のテーブルに座って考える場が作れました。これはとても嬉しかったことです。
去年までは、作品はネット上に置いとけば、誰かが使ってくれる。それでいい、というスタンスでした。活動の幅が拡がったのは、やはり、アワードで「生身の人」の意見を聞けたことが影響していると思います。ウェブコンテンツがどう使われているのかについては、アクセス解析等のツールがあるものの、基本的には「不可視」です。アワード後、そのあたりを意識するようになりました。
▽「同志」との出会い
Q:前回のアワードで沖縄タイムスの與那覇里子さん(データジャーナリズム特別賞)と出会ったことをきっかけに、新たな作品作りにも取り組まれたんですよね。
一番(大きな収穫)は沖縄タイムスさんとの出会いです。その場で一緒にやろうという話になりました。一緒に作った沖縄戦デジタルアーカイブは、「第19回文化庁メディア芸術祭」と「2015年アジアデジタルアート大賞展」の2つに入選しました。
沖縄タイムスと首都大、GIS沖縄研究室の共同制作です。アワードをきっかけに生まれた「異質な組み合わせ」がつくりだした作品が、また別のところで賞を取ったというのが、自分的には痛快でした。
Q:アワードは組織や会社の枠組みを越えた学びや出会いの場と考えているので、とても嬉しいニュースです!
もともと沖縄にはご縁があります。沖縄県事業の「沖縄平和学習アーカイブ」の総合監修も務めています。ただ、県のアーカイブだけあって、オーソライズがなければコンテンツが更新できないなど、さまざまな足かせがあります。それならいっそ、沖縄タイムスさんと、自分たちの裁量で作っちゃおうという話になって。
トップダウンでなく、ボトムアップで世界に届くものが作れるのがインターネット。4月に制作を始めて6月には発表したので、めちゃくちゃ早いですよね。そして「沖縄戦デジタルアーカイブ」がいいアクセラレータになって、県のアーカイブも無事にバージョンアップすることができました(笑)。勢いは大事です。
▽いろんな「ジャーナリスト」がいてもいい
Q:参加されて、ジャーナリズムという言葉に対してのイメージに変化はありましたか?ご自身を「ジャーナリスト」と定義されていますか?
普段は「情報アーキテクト」と名乗っています。「台風〜」は、アーカイブではなく、即時性を重視したサービスです。そして、アワードに来ていた報道の現場にいる人たちも、本気で、なるべく早く必要な情報を届けようとしている人たちですよね。みなさんの姿勢を拝見して、(自分もそういうことをやっていたんだと)改めて実感できました。
これまでは、自分たちが作ったものについて「作品」とか「ウェブ作品」という言い方をしていました。でも「台風〜」については、「作品」という呼び方だと収まりが悪い気がしていて。アワードに出品してから「これは新たな報道の形です」と説明できるようになりました。これも収穫です。
Q:渡邉さんは研究者ですが、活動や作品はとてもジャーナリスト的だな、と思います。
面白いです。自分ではそう感じたことはないので。肩書きで定義しちゃいけないのかもしれませんが。むしろ、仕事がポジションを語ってくれたほうがいい。僕の作品もデジタルジャーナリズムだったり、デジタルアーカイブだったり、色んな評価をされます。でも、作品をご覧になった方の好みで、自由に解釈してもらえたらいいなと思っています。
研究者と記者は、さまざまな意味で似ています。これから、職能はどんどん変わらざるを得ないと思います。今までは文章を書くのが記者の仕事だったかもしれない。でも今後は「色んなことをやる人」になると思う。多元的な職能を身につけている必要がある。たとえ新聞社やテレビ局に在籍していなくても、いろんな会社で活動を実践する「ジャーナリスト」がいてもいいんじゃないかな、と感じます。
▽同業者で楽しく…じゃ、ゆるい
Q:最後に、出品を考えている方、迷っている方へのメッセージをお願いします!
賞なんて、と思っている人も多分いますよね。取れれば嬉しいと思いますが、そうでなくても「同志」に出会えるかもしれない。僕は「ビジネスチャンス」という言い方は嫌なので・・・「仲間が集って、高め合えるチャンスがある場所」だと思います。逆に、同業者で集まって楽しくやろう、という心構えだと、ユルいと思います。真剣で切磋琢磨する場所ですね。
アワードでの出会いが、新しい作品や報道を生み出すきっかけになる…こんなに嬉しいことはありません。アワード2016もそんな場にできるように、運営一同はりきって準備しています。作品の出品、推薦はこちらから受け付けています。(JCEJ運営委員・耳塚 佳代)
来年3月12日に開催する「ジャーナリズム・イノベーション・アワード2016」は、今回で2回目。作品の作り手と受け手が直接交流し、優れた作品をみんなの投票で選ぶイベントです。組織や業界の垣根を越えて、切磋琢磨する仲間と出会い、語り合える場にしたいと考えています。ぜひ、あなたの作品を応募してみませんか。この作品が良かった、という推薦も受け付け中です。
詳細はアワード特設サイトから!