ネットにおけるジャーナリズムの頂点を決める「ジャーナリズム・イノベーション・アワード2017」の開催が1月28日(土)に迫っています。今年で3回目の開催となりますが、このアワードはどんな人がどんな目的で参加しているのでしょうか? 2回目の昨年に優勝した首都大学東京准教授・渡邉英徳さんと沖縄タイムス記者・與那覇里子さんは、一昨年のアワードでの縁がきっかけでタッグを組みました。そんな2人はアワードを「出会い系」と言います。果たしてその真意とは?
第1回目、 渡邉さんは「台風リアルタイム・ウォッチャー」で最優秀賞、與那覇さんは「地図が語る戦没者の足跡」でデータジャーナリズム特別賞を受賞しました。 そのときの出会いがきっかけで、GIS沖縄研究室も加わり「沖縄戦デジタルアーカイブ」を発表。昨年のアワードでは見事、最優秀賞を獲得し、 2年連続の受賞となりました。
――2年連続で受賞されたお2人ですが、まずは前回を振り返ってどんな感想を抱きましたか?一昨年とどんな違いがありましたか?
與那覇:去年の方が参加者が多く、会場の熱気が2015年と比べて倍くらいに感じました。決戦プレゼンに残った日経新聞の「データディスカバリー」や、宮崎てげてげ通信(テゲツー!)の「2015年テゲツー!で最もよまれた記事は?」など、印象に残る作品がいろいろありましたね。
また、去年の自分たちのチームのどん欲さも記憶に残っています。一昨年は1人での参加だったので心細かったのですが、去年は弊社の上司にも来てもらってハッピを着て、計5人で歩く人歩く人に声をかけまくっていました。
また、作品のメッセージが「70年前を追体験してもらう」というものなので作品を実際に触ってもらえるよう、iPadも用意し、当時の人たちがどのように逃げたかなど、じっくりと見てもらえるような仕組みを作りました。いろいろ入念に準備して挑み、まさに「大人が必死」という感じでした。
渡邉:ぼく自身はもともと、「沖縄戦デジタルアーカイブ」をアワードに出すつもりはなかったんです。一昨年グランプリをとっているので、2年連続で出すのはちょっとなあと思っていました。
2年連続で参加して、同じような技術を元にしたコンテンツで賞をもっていく人みたいになると、ジャーナリストでない自分にとっても、ジャーナリストの方々にとってもよくないだろうと。
とはいえ、「沖縄戦デジタルアーカイブ」は、一昨年の表彰式で與那覇さんとお会いしたのがきっかけで生まれた作品なので、アワードに御礼をするという意味で、もう一度参加してみることにしました。
印象に残っているのは、やっぱりやまもといちろうさんです。普段の感じじゃなくて、すごく丁寧にコメントしてらっしゃいましたよね。
――会場に所狭しとブースが並んで、どのチームも参加者と積極的にコミュニケーションをとっていて独特の熱気がありますよね。與那覇さんと渡邉先生のチームの場合、その「どん欲さ」はどこから湧いていたのでしょうか?
與那覇:やっぱりコンテンツに対する思いがそれぞれ強くあったので、伝えるために何ができる、真剣に考えた結果だと思います。
渡邉先生とは東京と沖縄で距離があるので、アワード本番までに実際に会ったのは3回だけでした。毎日のようにFacebookで遅くまで連絡を取り合って制作しました。そんな中、久しぶりにお会いして、その熱量をぶつけられるリアルな場所があったことで盛り上がったんだと思います。
渡邉:最初は出す気がなかったと言いましたが、始まったら始まったで、そこはやっぱり勝負ですから、本気になりましたよね。展示にもプロジェクターを使って、多くの人の眼に留まるようにしました。共同受賞したGIS沖縄研究室の渡邊康志先生はくじ運が強いらしいので、ブース決めのくじを引いてもらったりとか(笑)、そういうこともやりました。
アワードで広がる「出会い」の輪
――與那覇さんは前回アワードでも新たな出会いがあったんですよね?
與那覇:はい、展示をセッティングし終えた後に開始まで少し時間があって、近くのブースにいた早稲田大学マニフェスト研究所さん一緒にランチにいったんです。そこでのご縁がきっかけで「マニフェストスイッチ沖縄」を共同制作しました。
そして、渡邉先生に紹介してもらった研究室の院生の早川さんもいっしょになって、若い人にどうやったら見てもらえるか、考えて考えて作りました。渡邉先生ともアワードで出会っているので、本当にアワードの出会いから生まれた作品ですね(笑)
結果は、選挙前日から当日までアクセスが殺到して、こっちがびっくりするくらいでした。政治のページがあんなに見られるとは思いませんでしたね。
――渡邉先生は、前回のアワード以後はどんな取り組みに力を入れられていたのでしょうか?
渡邉:岩手日報さんといっしょに作った「忘れない」という震災犠牲者の行動記録のプロジェクトが、新聞協会賞を受賞したんです。台風リアルタイムウォッチャーや沖縄戦デジタルアーカイブで使った手法を発展させて作ったものです。新たな価値観を示すとか、オルタナティブを示すという目的でやっていた手法が、おそらく国内でいちばん伝統のある賞を獲得したということで、僕はとても喜ばしいことだと思っています。
また、マッピングプロジェクトと並行して、白黒写真を早稲田大学が開発したAI技術で自動的に色づけするというプロジェクトを進めています。これには非常に大きな可能性を感じています。白黒写真だと「遠く離れたもの」と感じていたものが、カラーになることで急に迫ってくるんです。例えば、この画像を見てください。
「この世界の片隅に」に登場する、呉の海軍工廠から撮影されたきのこ雲。尾木正己氏撮影。ニューラルネットワークによる自動色付けを施したもの。 pic.twitter.com/NH44hxy1zA
— Hidenori Watanave (@hwtnv) 2016年12月16日
アニメ映画「この世界の片隅に」の原作にも、この写真と似たアングルのきのこ雲が登場します。この写真はTwitter上での反響がとても大きく、たくさんのコメントがつきました。
カラー化すると、ユーザのタイムライン上で眼に留まり、色んな思いを呼び起こすような力が、写真に宿る気がします。そして色付けされた写真には、不思議と何かコメントしたくなるようで、SNSの反応も違います。人々を「昔」の出来事に近づけてくれる手法として、ある意味ジャーナリスティックなやり方とも言えるかもしれないです。
いつまでもオルタナティブ気分ではいられない
――最後に改めて、お2人にとってアワードとはどんな存在でしょうか?
與那覇:地方から東京にいったときのいい「出会い系」と思っています。ネット上のコンテンツは遠くからでも拝見できますが、生でどういう人がつくっているか分かり、交流できるのはすごく貴重な場だと思っています。いつも話してる人とぜんぜん違う人が集まってくるので、刺激を受けてヒントももらえます。
また、とても「フラットな場」です。普段どこで発信しているかといった背景の文脈が取っ払われて、どういう思いで何を作ってきたか、そしてそれをどう伝えるかが問われる、そんな場だと思います。
渡邉:既存のジャーナリズムに対するオルタナティブとして、初回と2回目は開催されたと思います。でも考えてみれば、例えばうちの院生や学生を見ていると、既存メディアの代表格である新聞を読んでいる人はあまりいないし、テレビも見ていない。ぼくも42歳ですが、気がつけば新聞やテレビを見なくなっている。
ではどんなところで情報を得ているのかといえば、もしかするとジャーナリズム・イノベーション・アワードで出会っているようなメディアを通してかもしれない。いまや、もはやなにがメインストリームで、なにがオルタナティブなのか、よく分からないというわけです。
つまり、ジャーナリズム・イノベーション・アワードは、当初はオルタナティブな場だったけれども、知らず知らずのうちに「主流」になっているという危険性をはらんだ場のようにも思えます。これは褒め言葉と批判との両方の意味を含んでいますが。少なくとも、いつまでもオルタナティブのような気分でいられないのではないかと思います。
(聞き手・構成:田中郁考)
1月28日に開催する「ジャーナリズム・イノベーション・アワード2017」は、今回で3回目。作品の作り手と受け手が直接交流し、優れた作品をみんなの投票で選ぶイベントです。組織や業界の垣根を越えて、切磋琢磨する仲間と出会い、語り合える場にしたいと考えています。ぜひ、あなたの作品を応募してみませんか。この作品が良かった、という推薦も受け付け中です。
作品応募は専用フォームにて受け付け中です。
応募要項などの詳細は、下記記事を参照ください。