#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

地獄に飛び込み、取材の原点を見つめ直す〜ジャーナリストキャンプ参加者レポート

6月19日(金)〜6月21日(日)に行われた「ジャーナリストキャンプ2015浜松」では、参加者が静岡県浜松市を取材して、その成果を「THE PAGE」で公開しています。

今回、キャンプの振り返りとして、参加者のレポートをお届けします。第1弾は宮本真希さんです。宮本さんは83歳の鍛冶職人を取材しました。作品は「孤独が磨く最高の「切れ味」83歳いまなお進化──山奥の町、最後の鍛冶職人」です。宮本さんはキャンプを通じて、どのようなことを考えたのでしょうか。

あれは6月の初め頃。ジャーナリストキャンプの前に運営の皆さんや前回の参加者からお話を伺う機会がありました。「キャンプは苦行です」「辛い記憶しかない」「地獄を楽しもう」……いやいや、ちょっと待て! 地獄で苦行が楽しいわけねえじゃねえか!!! 次々に飛び出す脅しの言葉に心の中でツッコむ私。始まる前からテンションだだ下がりです。でもこれで闘争心に火がついたのも事実。「やってやろうじゃないか」とギアを入れ換え、地獄とやらに飛び込むことにしました。

こんにちは、宮本真希と申します。普段はYahoo!ニュース編集部で、Yahoo!ニュース・トピックスの編集、Yahoo!ニュースのオウンドメディア「news HACK」の編集などを担当しています。その前は7年ほどITmediaでIT企業やWebサービス、ネットカルチャーなどを取材してきました。ジャーナリストキャンプに参加したのは、なれ親しんだ「IT」というジャンルから離れて取材経験を積んでみたかったから。浜松市という縁もゆかりもない場所で自分の力を試してみたかったのです。

取材対象に選んだのは山奥で暮らす83歳の鍛冶職人。詳細はぜひ記事でご覧いただきたいのですが、私はこの職人さんの言葉ひとつひとつにホレそうになりながら原稿を書きました。14歳から70年腕を磨き続け「今が最高」「ますます腕が冴える」と語るのです。うおおおお! カッコイイ!!! 記者という職業もある意味職人みたいなもので“腕”の向上に終わりはありません。私もこんな風に情熱を持ち続けて仕事に臨めるだろうかと思わず考え込みました。

▼「ありきたり」と言われ深夜に凹む

ジャーナリストキャンプの夜は取材を終えた全員が集まり、成果を報告します。取材でテンションが上がった私も意気揚々と報告したのですが、デスクの皆さんから返ってきたのは「どこかで聞いたことのある職人モノじゃない?」という厳しい言葉でした。「頑張る職人の話だけではありきたりでつまらない」「あなたがこの職人を取材しなければならない理由はどこにあるの?」。はい、けちょんけちょんですね。「ありきたり」と言われ悔しさがこみ上げます。くっっっそー。でもどうすれば……。深夜に頭を抱えました。

いよいよ苦行の始まりを感じつつ、デスクと話し合いながら、なぜ取材するのかという出発点――自分の問題意識――に立ち返ることに。今回のジャーナリストキャンプのテーマは「家族」です。私が考える「家族」とは“鎖”のようなもの。お互いの足を引っ張ったり、束縛しあったりすることもあるけれど、命綱にもなる――そんな家族の両面を描きたいと思っていました。取材した職人さんは「長男だから」と進学をあきらめて鍛冶の道に進み、一家を支えてきた人。鎖のイメージがピタリとハマる気がしました。

昼間に聞いた職人さんの言葉をもう一度、思い出します。妻に先立たれ、子供は独立し、現在は一人暮らし。店の跡取りはなく、弟子もいません。でも「今が充実している」と断言し、70年間現役を貫いていました。それは一体なぜなのか、ただの強がりなのだろうか、なぜ「最高」の腕を引き継ぐ者はいないのか……あらためて振り返ると疑問ばかり。自分の取材の甘さにがく然です。そこで、技を継ぐ・継がせないという問題にフォーカスしつつ、職人さんと家族の「鎖」の物語を描こうと方針を定め、再度取材へ向かいました。

▼「産みの苦しみ」と“ガチ”で向き合う

結局3日間のキャンプのなかで、職人さんには合計12時間ほど密着取材させていただきました。2日目はお昼前に作業場にうかがい、話が盛り上がって気づけば外は真っ暗という状況。浜松市の中心部まで戻らなくてはならないのに、1日数本しかないバスの最終を逃してしまい、片道2時間ほどかけてジャーナリストキャンプの運営スタッフの方に迎えに来ていただいたりもしました(その節はご迷惑おかけしました……)。

キャンプはそれくらい夢中で取材に打ち込める時間です。取材相手の本心に迫ることができているのか、企画の方向性はこれでいいのかなど、色んな方にアドバイスをいただきながら自問自答し「産みの苦しみ」と“ガチ”で向き合う――そうやって取材の原点を見つめ直すことができました。

もしこれがスピード感を求めるメディアで仕事として取り組む企画ならば、12時間もかかるような取材は「コスパが悪い」と判断され、ゴーサインが出なかったり、方向転換を求められたりするのかもしれません。もちろん時間をかけたからといって良い取材、良い記事になるとは限りませんが、納得するまでとことん追求できるキャンプの取り組みはぜい沢だなあと感じています。

そんなわけで今回の成果は、記事にある通りです。たったひとりで技を追求し続ける職人の凄み、でも(それゆえに?)技が失われていくのかもしれない切なさ、戦後の時代の変化と家族の形……そういったものを感じていただけるとうれしく思います。ご感想などありましたら、私のTwitter @miymakiまで。

宮本真希プロフィール>
みやもと・まき 1984年生まれ。ITmediaの編集記者として2007年4月よりIT業界やネットカルチャーを取材。2014年10月よりYahoo!ニュース編集部。

<関連リンク>
「ジャーナリストキャンプ2015浜松」はこちらから!!