#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

データジャーナリズムで従来型選挙報道をひっくり返せるか

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)は8月3日、パネルディスカッション「選挙におけるデータジャーナリズムの可能性を考える」を開催しました。7月の参議院議員選挙では、ネット選挙解禁により、ネット上のデータを分析した新たな取り組みが行われました。今回、それぞれの取り組みで中心的な役割を担った毎日新聞の石戸諭記者、ユーザーローカルの伊藤将雄社長、ニワンゴの杉本誠司社長をパネリストとしてお招きし、課題や今後の展望についてお話し頂きました。モデレーターはJCEJ運営委員の赤倉優造が務めました。

■ニコニコの当確予測は98%の的中率

毎日新聞の石戸さんは、「重視したのは、政治の動きをどう捉えるかということ。ネット(の現象)だけ取り上げても意味がない」と、毎日新聞立命館大学特別招聘准教授の西田亮介さんと共同で取り組んだツイッター分析について紹介しました。

「ネット選挙で日本の政治が変わるのか」をテーマに「政治家や政党の発信はネット上で一定の影響力を持っている」、「ツイッターは世論の一部を映し出しているのではないか」、「ネット選挙で有権者と政治の距離は縮まる」という3つの仮説を立てて分析に取りくんだところ、「街頭演説の告知ツイートばかりで対話が行われなかったため、ネットと世論の声は結びつかなかったのではないか」、「世論調査で重視される争点とツイッターでつぶやかれる争点は全く違った」など仮説と異なる結果が見えてきたそうです。


アクセス解析を手がけるユーザーローカルの伊藤さんは「ツールの特性によって使われ方や利用する層に偏りがあり、戦い方も違う。データを組み合わせて使っていく必要があるのではないか」と語り、各党の公式SNSアカウントの活用状況、特に利用されたSNS、いいね!やフォローされている数などについて、自社の解析ツール「ソーシャルインサイト」を使って分析した結果を紹介しました。

今回の活用状況について「政党のツイッターのアカウントのフォロワー数はソフトバンク孫正義さんよりも少ないなど、まだ影響力が大きくない」と指摘し、ソーシャルメディアの利用をここ2~3ヶ月でやり始めたばかりなので、現状ではユーザーも政党も追いついていない状態。今後成長していく中で変わっていくのではないか、とまとめました。


ニワンゴの杉本さんは「客観的に計測というよりは刺激を与えてネット選挙そのものを盛り上げる立場でやっていた」と、ニコニコが期間中に行ってきたユニークな取り組みについて紹介しました。ニコニコ生放送を通じて、党首と国民のダイレクトな対話を維持したり、公示直後に政治家のメッセージを放送したりとチャレンジングな取り組みを行ったそうです。そして、ネット世論調査に基づいた当確予測も行い、98%の的中率を出しました。

この世論調査の目的について杉本さんは「各メディアが(当確予測を)発表し、さらに各投票所の開票センターを双眼鏡で覗いて補正した情報を得ている中で、ネットで収集した情報がそれにどこまで迫れるのか。あえて発表して的中率を投げかけた」と話しました。「的中率が高ければ、ネットで収集した情報がリアルな世論な動きと似通ってきている、逆に低ければ、ネットの世論は偏っている、となる」。


■予測を基に、未来が分かる、未来を変える

参加者からの質問に答えながら議論を進めていくなかで、今回の選挙と報道で見えた課題について、意見が交わされました。

石戸さんは、政治家と有権者ソーシャルメディアを通じた対話が活発に行われず、一方的な発信になっていたことや、約半数の政治家が当選後につぶやくのをやめてしまったことなどから、「ネットの特性を生かせず、従来型選挙の延長として位置付けられていたのではないか」と指摘しました。政治を継続的にウォッチしていく仕組みを作るなど、ネットと政治というテーマで何ができるのかを考えることの重要性を語りました。

伊藤さんは、活用のゴールとして、データから予測して前もって未来がわかる「未来がわかる価値」、結果が予測できた段階でプレーヤーがデータを使って結果を変えていく「未来を変える価値」の2つがあるのではないかと話しました。

杉本さんは、「様々な情報が解き放たれた中で、有権者はマスメディアから一定の情報を吸い込むのではなく、選択肢を持って様々なツールやソースを駆使して情報を選びとり、政治家はその中で情報戦をしていくのがきちんとしたネットの姿ではないか」とした上で、「政治の世界をネットを通じて近いものにしていきたい。ネットでの取り組みが話題性を持ってマスメディアなどにも取り上げられるようになれば、今時点で興味がない方にも『こんなことがある』ということを知らしめることができる。選挙が終わって急に使わなくなった候補者の尻を叩くという意味でも一風変わったことをやっていきたい」と今後の取り組みについても話しました。


■研究者や読者も選挙を分析できる時代に

今回のパネルディスカッションのテーマである、データジャーナリズムの可能性として、モデレーターでJCEJ運営委員の赤倉は「自分達が持っているデータを使って終わりではなくて、研究者や読者に分析してもらう動きが選挙でも今後進んでくると面白いと思う。情報の受け手がどうやって発信に関わっていくかをもっと意識していきたい」と話しました。

伊藤さんは「読者はデータの推論に基づいた記事と、ひとつの体験、事象に基づいた記事のどちらを選ぶのか。今のところ後者ではないか。データジャーナリズムはそれをひっくり返せるのか。まだやってみないとわからない」とした上で、「もしそれができるとするならば、我々としては、みんながデータをもとに反証できるようなソースやデータを提示していきたい」と話しました。

杉本さんは、「今回は『投票率が上がらない』『ネット選挙失敗』とメディアに書かれていたが、それはデータから読み取った結果ではなく、推論で書かれている。もともと投票率が上がらないと見込まれていた中で、ネット選挙はどれくらい貢献できていたのか、どれくらいパーセンテージに影響があったのかというデータを突き止め、仮説をもって数字にあたりその立証をする、ということをやるのがデータジャーナリズムではないのか」と話しました。

最後に、赤倉から「初めてのネット選挙でデータがあふれる中でどんなことができるのか話していただいた。せっかくなので、聞いた内容を活かしてぜひいろいろと取り組んで頂ければ」と締めくくり、終了しました。

登壇頂いたみなさま、ご参加頂いたみなさま、ありがとうございました!

(学生運営委員・木村 愛)