「読者や掲載媒体に対する意識が低かった。今までの価値観が揺らされた」「緻密なファクトの重要性を学んだ」。6日に終了した「ジャーナリストキャンプ福島2013」の参加者の感想です。キャンプは全国から集まった記者、ライター、デザイナーら15名と、5名のデスクが「震災後の福島に生きる」をテーマに、4日から福島県いわき市で取材しました。
初日はデスクごとの5チームに分かれて取材をした後、記事の切り口などについて全体で議論したのと同様に、2日目も終日取材の後に夜に集合。チームごとに、記事のタイトルと、筆者が面白いと思うポイント、読者にとってのニュース価値を書いて発表し、JCEJ運営を中心に、質問や指摘を投げ掛けました。
一番注目を集めたのが、データジャーナリズム部門を担当する、JCEJ運営の赤倉優蔵デスクが率いるチームです。初日の議論では、視点が定まらず、厳しい突っ込みを受けていましたが、この日の夜は、風評被害にテーマを絞った具体的で興味を引く企画案を出したからです。他のデスクからは「どうして『劇的ビフォーアフター』が起こったのか、教えてほしい」と質問が飛びました。データジャーナリズムチームは、初日はチームで意見の集約・統一が十分にできていない状態でしたが、厳しいフィードバックに奮起して深夜まで議論しました。居酒屋でウーロン茶しか飲まず、さらに、宿に帰った後も、各自が午前4時頃までデータを集め記事の構成を練っていました。翌日も会場が開いた9時からチームが集まり、他のデスクにも取材するなどして、4人の意見をまとめました。
最終日は、朝から全チームが集まり、この2日間の取材の成果を、どう記事にまとめるのか、構成案を発表しました。赤倉チームは「風評被害、本当はなかった? データが打ち砕く虚像」として、公表されているデータの分析と取材で風評被害はなかったのではないかという仮説を打ち立て、行政の対策に疑問を投げ掛け「データに向き合うことこそ風評被害対策」と訴えました。仮設住宅の独居男性宅を一軒一軒訪ね歩いて、以前は海外を飛び回っていたビジネスマンだった人などにも出会い「仮設住宅、過去にすがる独身オヤジの孤独」というタイトルにまとめた参加者もいました。
記事のタイトルと構成、読者にとってそのニュースにどのような価値があるかをシート1枚にまとめて発表し、参加者とデスク全員で「タイトルと小見出しだけで読みたいと思える記事」に投票しました。
投票の結果1位だった記事は、「ベクレルという名の魚を食う〜原発30キロ〜」。福島第一原子力発電所事故による放射能汚染問題と漁業がテーマです。一日目の時点では、漁協を中心にした案でしたが「あなたも福島の魚を食べているかも」という、読者に自分と関係があると感じてもらう視点に切り替え、評価されました。個々のペーパーと投票結果をもとにJCEJ運営委員が講評。読者にとってのニュース価値は何か、そして、どうすれば読んでもらえる記事になるかを、より意識するように指摘がありました。
最後に、全員が一言ずつ感想を述べました。多様な参加者、デスクとの議論などを通じて「読者や掲載媒体に対する意識の低さなど、今までの価値観が揺らされた」「新聞社の方の企画案を聞いているとファクトをしっかり詰めていることに驚いた。緻密なファクトの重要性を学んだ」といった感想のほか、デスクの方々からも「外の人と話し、議論することは大事。目からウロコという感じで、本当に勉強になった」、「ジャーナリズムはネットにシフトしていかなければならない時代。今回のように色々な経験をもつ人が集まった混成チームで、記事やコンテンツを作らなければならなくなってくる」といった感想が寄せられました。
いわき市出身の社会学者・開沼博デスクは「多くの人に思われている印象を『そうじゃない』ということをわかりあえるようなキャンプにできた。福島=◯◯という悪しき単純化をいかに防ぐことにつながるものにできたとは思う。今回のような取り組みをどうすれば継続的にできるかを考える機会になった」と締めくくりました。
終了後も、参加者同士の名刺交換や意見交換が続きました。真剣な顔で議論することの多い3日間でしたが、最後は笑顔も多く、楽しそうに交流している姿が印象的でした。
今回取材した記事は後日ダイヤモンドオンラインに掲載される予定です。
連休中、遠路はるばる参加してくださった参加者とデスクの皆さま、ありがとうございました。
また、今回のキャンプ中は学生2人が、2チームの取材にそれぞれ密着取材しました。近日中にそのルポをこちらのブログで報告しますので、ぜひご覧ください。
(運営サポート・尾田 章)