#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

「被災地」という言葉への固定観念を覆せ 「ジャーナリストキャンプ福島2013」学生密着ルポ(1)

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)は5月4日〜6日、福島県いわき市を舞台に「ジャーナリストキャンプ福島2013」を開催しました。全国から集まった記者、ライター、デザイナーら15名の参加者と5名のデスクが計5チームに分かれ、「震災後の福島に生きる」をテーマに、取材と議論を繰り広げました。

キャンプ期間中は、JCEJ学生運営委員2人が2チームの取材活動にそれぞれ密着。今回は、「フクシマ論」を執筆した社会学者・開沼博さん率いるチームの新志有裕さんに同行した様子を、ルポ第1回目としてお届けします。

いわき市出身の開沼デスクから「微妙な問題」を扱おう、とアドバイスをもらった新志さんの取材テーマは、「1人暮らしの男性と娯楽」。「原発避難者がパチンコに入り浸っている」という噂が流れているが、実際はどうなのか、仮設住宅で生活する男性の暮らしぶりを探ることにしました。

初日はまず、この俗説を検証しようと、仮設住宅の会長を訪問。会長から見た、仮設住宅での住民の生活ぶりや娯楽について聞きました。仮設住宅の外で開かれていたお茶会にも飛び入り参加し、談笑しながら住民に質問を投げ掛けました。

夜はチームで集まり、取材報告と議論が行われました。開沼デスクからは「鏡に映る被災者の姿やリアリティ、記事を読んでハッと気づくことがあるかを意識して」「外の人間が代弁することを許されないようなことまで聞き出せるかが大切」といったアドバイスがありました。新志さんに対しては、取材対象を、仮設住宅の会長から「独居の高齢男性」に変えてみてはどうかと提案。新志さんは仮設住宅関係者や支援関係者から「1人暮らしの男性の実態が見えにくい」と聞いたこともあり、取材対象を「独居オヤジ」に絞り、翌日の取材に臨むことにしました。

2日目、新志さんは、午前10時に仮設住宅に到着。会長から取材許可をもらい、1軒1軒回り始めました。休日で留守の方も多く、1人暮らしの男性の中には取材を断る人も。一方で、家の中まで入れてくれて、話したくて仕方がないという気持ちを前面に出しながら取材に応じてくれる方もいました。

新志さんが、地面に膝を当てながら取材相手と同じ目線で話を聞いていたことや、道ばたに座り込んで「取材」というよりは「会話」をする感じで相手と接していたのが印象的でした。核心に迫る質問をするときは、笑いながら話を聞いていた表情が一変して、真顔で、「これが聞きたい、聞き出したい」という気持ちがこちらにも伝わってくるような表情をしていました。

10時に始めた取材も、5人目の取材が終わったときには15時近くになっていました。時折疲れているのでは、と感じることもありましたが、新志さんはどんなに取材が長引いても笑顔で会話をしていました。

気が付くと、新志さんは、相手の名前を聞かずに取材をしていました。理由を聞くと「その人が何を思い、何を考えているのか、リアルな声を聞いて、どうにかして伝えたい」。そのためには、かしこまった取材方法ではない方が効果的だと判断したそうです。「聞いて、伝えることで、私たちが思っている避難者の姿が考え直せるのではないだろうか」と話していました。

この日の夜の全体議論で新志さんは、パチンコをはじめとした1人暮らしの男性の娯楽に焦点を当てて取材の進ちょくを報告していました。これに対し、指摘役のJCEJ運営委員から「パチンコ問題なのか、男性高齢者の問題なのか」と質問が飛び、新志さんは、男性高齢者の問題という側面に絞って記事を書いていくことを決めたようでした。

その後、チームの個別議論では、今回のキャンプの感想を聞かれました。「普段は何か問題があるところに取材に行くが、キャンプは問題を見つけるための取材から始まった。取材のとっかかりがなく、そこから何を書けばいいのか、こんなので記事になるのかと思うこともあった。いろいろな人に取材すると、あっちもこっちも意見があって、でもそれをひとつひとつ重ねていくと、問題点が見えてきた。これは普段の取材では得られない感覚だった」という参加者がいたり、今回始めて被災地を訪れた参加者は「いわきに来る前は、いわき市民全員が『かわいそう』というイメージがあった。でも、普通の生活をしているいわきの人たちを見て、簡単に『一般化』することはよくないということに気付かされた」と話していました。

最後に開沼デスクは「普段、問題点はマイノリティの人たちから見つけ出すことが多い。しかし、マジョリティの人たちに問題が出てくることもある。今回で言えば、多くの人たちがいわきを被災地と思っていたのではないだろうか。でも、実際にいわきに来たらここが被災地と思う人は、あまりいないのではないか」と話していました。

今回密着させていただいて、参加者の問題の着眼点に驚きました。福島=被災地という固定観念にとらわれていないか?社会が作り出しているイメージは、信じていいのか?新志さんは仮設住宅で1人暮らしの高齢男性にスポットを当てましたが、浮かび上がった実情は被災地だけの特殊な事例ではなく、社会全体に潜む、一人暮らしの高齢男性に共通する側面もあるのではないだろうかと思いました。


新志さんの記事をはじめ、ジャーナリストキャンプで取材した記事は、月内にも順次ダイヤモンドオンラインで掲載が始まる予定です。学生密着ルポ第2弾も予定していますので、是非ご覧ください。


また、JCEJでは、6月1日(土)にパネルディスカッション 『「フクシマ」という虚像を壊す 〜 被災地のいまを伝える新たな取材手法』を開催します。
「固定化される言葉に挑む取材とは」「データジャーナリズムで常識を覆す」などをテーマに豪華ゲストを招き議論を行います。
参加料無料、事前申し込み不要です。社会人、学生問わずどなたでもお越し頂けますので、ぜひご参加ください。
イベントの詳細はこちらでご確認ください。

(JCEJ学生運営委員・石井 俊行)<ジャーナリストキャンプの様子を紹介しています>