#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

「仮説思考」を徹底的に学ぶ-ジャーナリストキャンプ事前講師に社会学者・西田亮介さん

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が4月29日〜5月1日に開催する「ジャーナリストキャンプ2016石巻」。参加者がキャンプに向けて事前に準備するための会で、気鋭の社会学者・西田亮介さんに講師を務めていただくことになりました。

今回のキャンプの開催地は石巻市。震災発生から5年が過ぎ、関心も薄れていく中で、被災地の今をどうやったら伝えることができるのか。2泊3日という現地で過ごす時間は短く、自分の問題意識に基づいた事前の準備やリサーチなしで、本質を突いた正確な記事を書くことはできません。「仮説思考」の重要性を説く西田さんから直接学ぶ機会を設けることにしました。

事前準備会は4月2日午後から東京都内で予定しています。選考を経てキャンプに参加する方のみが対象です。

研究者である西田さんは、毎日新聞との共同研究を行うなど、ジャーナリズムの領域でも活躍されています。2014年の「ジャーナリストキャンプ2014高知」では指導役のデスクを務めていただきました。その際も、明確な「問題意識」と「仮説」を持って取材することを繰り返し述べられ、著書『メディアと自民党』でも、キャンプでの経験を踏まえて記者の現場中心のキャリア形成システムが時代の変化に対応できていないのではないかと投げかけています。

キャンプの詳細や応募方法はこちらのブログからご覧ください。早割は本日16日23時59分まで、最終締切は21日23時59分です。今いる場所から一歩先へ進みたい、自分の殻を破りたいという方、ご応募お待ちしています。

<西田亮介氏プロフィール>
にしだ・りょうすけ 1983年京都生まれ。社会学者・政策学者。専門は情報社会と公共政策。立命館大特別招聘准教授等を経て、現在東京工業大学准教授。ネット選挙について毎日新聞と共同研究を行う。著書に『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』『メディアと自民党』など。

外部の視点で「石巻らしさ」の発信を-ジャーナリストキャンプ2016石巻を開催します

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)は、4月29日(祝・金)から2泊3日の日程で「ジャーナリストキャンプ2016石巻」を開催します。

ジャーナリストキャンプは、記者が新たな表現や取材の方法を学ぶトレーニングの場です。全国から媒体や組織という枠組みを超えて集まった記者と指導役のデスクが地域で合宿をしながら、記事を執筆します。「何のために発信するのか」「もっと伝わる切り口、表現はないのか」など、質が高い記事を求めて夜を徹した議論を行います。「中央」に偏りがちなニュースに対し、地域からの情報発信にこだわり、キャンプは島根県飯南町高知県高知市などで開催してきました。


写真:東日本大震災直後の石巻

▽2013年には福島県いわき市で開催

キャンプを東日本大震災被災地で開催するのは2度目です。2013年に福島県いわき市出身の社会学開沼博さんの問題提起により、固定化されつつある「フクシマ」のイメージをどう壊すのかをテーマに行いました。震災から2年を過ぎたいわきの状況を14人の記者が執筆し、「震災後の福島に生きる」としてダイヤモンドオンラインに掲載されています。

今回の開催地は宮城県石巻市です。震災から5年が経ち、被災地の報道をめぐっては、「記念日報道」と言われるように「3・11」の前後に思い出したように集中的に報道されるだけではないか、といった批判があります。「風化」が進む中で、5年を区切りとしてさらに報道が減ることが懸念され、伝わるべきことが伝わっていないという声もあります。

5年前の震災直後には、テレビ・ラジオ局と動画サイトが協力したり、テレビ、新聞が安否情報を検索サイトに提供したりと、ジャーナリストによる「伝えたい」という気持ちが組織や媒体を越えた取り組みを促しました。しかし、5年が過ぎ、今はどうでしょうか。あのときの「伝えたい」という気持ちを忘れてはいないか。もう一度、被災地と向き合う機会をつくりたいと考えました。

このような問題意識を共有した、石巻日日新聞やヤフー石巻復興ベースを拠点に持つヤフーの協力を得て、キャンプを開催します。

▽課題解決の行動を促す記事を期待

石巻日日新聞記者の石森洋史記者は「石巻では復興に向かって新しい街づくりが始まっています。震災の伝承や街づくりの進めるためにも一人ひとりが情報の正確性を見極め、正しく伝えるスキルが求められています。外部の視点で石巻人に『石巻らしさ』を教えてもらいたいと思います」と話します。

また、掲載媒体となるYahoo!ニュースの有吉健郎サービスマネージャーからは「求めるのは課題の発見や問題の提示にとどまらず、課題解決のための行動を促す記事です。多くの読者に届き、読者の理解を深め、議論を喚起するための表現手法へのチャレンジにも期待しています」とのコメントをいただきました。

3月16日(水)23時59分までにお申し込みの場合は早割が適用されますので、お早めにお申し込みください。最終締切は3月21日(月・祝)23時59分です。皆さまのご応募をお待ちしております。


写真:ジャーナリストキャンプ高知2015の様子

【概要】

◆日時  :2016年4月29日(祝・金)〜5月1日(日)
◆会場  :ヤフー石巻復興ベース(宮城県石巻市千石町4-42)
◆主催  :日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ
◆掲載先 :Yahoo!ニュース
◆対象 :原則キャリア3年以上の情報発信経験者。組織や立場の壁を超え、記者、ライター、編集者、PRパーソン、研究者、NPOや企業の広報担当など、情報発信に関わる人を幅広く募集します。
◆費用 :3万5千円(宿泊、食事別)
     ※3月16日(水)23時59分までにお申し込みの場合は早割適用で3万円になります
◆締切 :3月21日(月・祝)23時59分
◆定員  :15名(選考があります)


【デスク】

開沼博(かいぬま ひろし)  <社会学者、福島大学特任研究員>
亀松太郎(かめまつ たろう) <ジャーナリスト。 弁護士ドットコムニュース編集長>
苅田伸宏(かりた のぶひろ) <Yahoo!ニュース 編集部。前職は毎日新聞社記者>
那覇里子(よなは さとこ) <沖縄タイムス社デジタル局デジタル部記者、ウェブマガジン「W」編集長>
依光隆明(よりみつ たかあき)<朝日新聞社記者。 「プロメテウスの罠」取材班の前キャップ>

【スケジュール(予定)】

4月2日(土)キャンプ事前準備会、懇親会(東京都内)
4月28日(木)前夜祭(石巻にて現地の方と交流会)
4月29日(金・祝)日中取材し、夜に企画発表、議論
4月30日(土)日中取材し、夜に企画発表、議論
5月1日(日)取材、各自解散
5月7日(土)原稿のブラッシュアップ・ワークショップ(東京都内)
5月16日(月)朝、締め切り(厳守)
6月11日(土)報告シンポジウム(東京都内)

【ご応募はこちらから】
http://jcej.info/jc2016/

【注意事項】
・応募締切後、実務経験や応募フォームの内容をもとに、選考を実施、連絡いたします。
・希望デスクはあくまで参考で、最終的なチーム分けは事務局で決定します。希望チームに配属されないという理由でのキャンセルは受け付けません。JCEJでは異なる立場や経験を持つ参加者が一つのチームで取り組むことが成長をもたらすと考えているためです。
・合宿中は深夜まで議論が行われます。また、記事の執筆は合宿後に行います。
・交通手段、宿泊先は、各自確保していただきます。ご注意ください。

【問い合わせ先】
jcejinfo[at]gmail.com(担当:田中)

 新たな出会いから生まれたイノベーション 圧倒的強さを見せた『沖縄戦デジタルアーカイブ』がアワード最優秀賞に!

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)主催の『ジャーナリズム・イノベーション・アワード2016』が3月12日、講談社で開催されました。作品の作り手と受け手が交流し、みんなの投票で「頂点」を決める「ジャーナリズムのお祭り」。前回の38組を上回る50組から応募があり、会場は熱気に包まれました。最優秀賞を獲得したのは、首都大学東京渡邉英徳研究室・沖縄タイムス社・GIS沖縄研究室の『沖縄戦デジタルアーカイブ』。前回アワードの受賞者2組が一緒に取り組んだ作品が、見事2年連続トップに輝きました!


▽アワードがつないだ縁から生まれた、新たな表現

「人とのつながりで新しいコンテンツを発信できることを幸せに思います」。
沖縄タイムスの與那覇さんと首都大の渡邉さんは、昨年のアワードで出会ったのをきっかけに、異業種同士で新たな作品づくりに取り組みました。與那覇さんは「(新聞記者が)ウェブでジャーナリズムをどうやるか、ずっと考えてきました。でも、本質は変わらない。むしろ発信できる幅が広がったのだと思います。紙媒体ではコラボすることはあまりなかったけれど、誰かの力を借りながら発信する時代に変わったのかな、と感じます」と話しました。

受賞作品は、立体的な航空写真と地図に、戦没者の証言やデータを重ね合わせて沖縄戦の推移を可視化した力作。渡邉さんはプレゼンで「『被爆者』『被災者』という言葉もそうですが、そういう特別な人がいるのではなく、我々と同じような普通の人がいきなり『戦争体験者』という特別な人に変わってしまう。それが戦争だと僕は考えています。それを表現したくて、このコンテンツを作りました」と話し、「私たちと同じような日常を過ごしていた人にとっての出来事として、沖縄戦を捉えてほしい。それが現在の基地問題とも、地続きだと感じてもらいたい」と訴えました。

表彰式後は「(戦争を)語り継いだ方の想いを受け継いで、未来につなぐいい仕事ができてよかったです。自分の技術をひけらかすだけなら、ここまで自信を持って(作品について)話せません。でも、亡くなった方々の想いが根底にあるからこそ、それができます」と話し、「未来に残していくコンテンツ。戦後80年まで継承していきたいと思います」と力強く述べました。


▽「本気」を見せた新聞社3組も決戦プレゼンに!

ネットメディア、ブロガー、地域メディア、研究者など多彩な出展者が集う中、今年は大手メディアも健闘しました。総投票数307のうち23票を獲得し、一次予選をトップ通過したのは「沖縄戦デジタルアーカイブ」。昨年惜しくも予選通過を逃した日本経済新聞社「データディスカバリー」(22票)と朝日新聞デジタル部の「築地 時代の台所」(18票)、さらに読売新聞社「検証・戦争責任」(17票)も多くの支持を集めました。宮崎県のローカルメディア・宮崎てげてげ通信(テゲツー!)の「2015年テゲツー!で最もよまれた記事は?」ステルスマーケティング問題を追及して話題となった山本一郎さんの作品も、それぞれ17票を獲得し、上位6チームの決戦プレゼンに進みました。

それぞれのチームがコンテンツに込めた想いを会場に向けて熱く語り、その後の決選投票では「沖縄チーム」が他を大きく引き離す62票を獲得。優秀賞には25票を獲得した「朝日新聞デジタル編集部」と、24票の「テゲツー!」が選ばれました。山本一郎さん、日経新聞、読売新聞はそれぞれ23票、21票、16票でした。

朝日新聞東京本社のすぐ向かいにある築地市場アーカイブするコンテンツを作った木村円さんは「目と鼻の先にあるのに、ほとんど何も知らない。永遠に消えてしまうものを残したい、という想いから始めたプロジェクトです」と話しました。

築地市場は約80年も続く「非常に伝統的な世界」。企画を立ち上げてから、実際に許可を得て取材するまで約1年かかったというエピソードにも触れ「最初は大変でしたが、皆さんだんだん笑顔になり、取材に協力してもらえるようになりました。ありのままに記録することを目指しています」と想いを語りました。

同じく優秀賞に輝いたテゲツー!は、月間50万PVを集める様々な記事の配信だけでなく、イベント開催を通じてリアルな交流の場を生み出しています。活動を通して「宮崎の太陽」と呼ばれるようになったという長友まさ美さんは、「自分たちの街は、自分たちで作りたい。若い子たちがどんどんチャレンジできる文化を創り上げるために、まずは宮崎を知ってもらわないと始まらない」と、地元メディアを立ち上げた想いを話しました。

「人と人をつなげて、宮崎が豊かになっていくことが何よりも嬉しいです。今まではボランティアでやってきましたが、持続可能にするためにも、しっかりお金も稼いで投資できる形にしていきたい」と、現状で満足せず、地元メディアとしての在り方をさらに模索していく決意も語りました。


▽想いを、真っ直ぐに伝えることの大切さ

「何のためのメディアで、何を伝えたいのかが明確だったチームが選ばれたと思います」。講評でJCEJの藤代裕之代表は、展示内容や技術の目新しさだけでなく、相手に想いを伝える姿勢や、プレゼンに挑む姿勢の大切さについても触れました。例えば朝日新聞の作品は「消えゆくものを残したい」、テゲツー!は「宮崎の魅力を伝えたい」という気持ちを直球で伝えていた、と評価しました。

出展者のふじいりょうさんは、「今回のアワードで痛感したのは、ブースの目の前にいる人に出展内容を伝えて、何かしら響くものを与えることこそが『イノベーション』で、それには相手の目を見て正面から対峙しないと何もはじまらない、という極めてシンプルなことでした」という気づきをツイートしてくれました

また藤代代表は、「普通の人々」にとっての出来事として戦争を捉えた「沖縄戦デジタルアーカイブ」にも触れ、「日常と非日常は裏腹で、そこにニュースがあります。『ジャーナル』とは記録であり、ジャーナリストは言葉を託されています。記録することが未来につながっていくのではないでしょうか」と述べました。

アワードは、業界や組織の枠組みを超えて、仲間とともに学びあえる場。藤代代表は「ここでの新たな出会いが、更なるジャーナリズムのイノベーションにつながって欲しい」と話し、イベントを締めくくりました。

出展者の皆様、ご来場いただいた皆様、本当にありがとうございました!

研究者が社会を動かした「組体操リスク」問題 10段ピラミッド崩壊の衝撃はネットでどう広がったのか?

研究者の持つ情報は「宝の山」。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が3月12日に開催する「ジャーナリスト・イノベーション・アワード2016」の出品者インタビュー第3弾は、「巨大組体操」のリスクを発信し続ける、名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授の内田良さんです。昨年、ネット空間における内田さんの情報発信は全国的な社会問題へと発展し、今もマスコミや行政を動かす大きな力になっています。「ウェブを通じて、当事者に近づくことができる」と内田さん。インターネットを通じた個人情報発信の可能性について、アワード参加者と一緒に考えたいと話してくださいました。当日は、是非会場で意見を交わしてみてください!

▽動画のインパクトが、世論を喚起した

Q: 今回、「組体操リスクの「見える化」活動 ネット空間における問題の発見から改善まで」で出品して頂きました。とても長いスパンで取り組まれているシリーズですが、改めてこれまでの流れを教えてください。

2014年5月に、ウェブ上にヤフー個人のオーサーとして記事を一本出したのですが、それがかなり反響を呼びました。運動会は春と秋にあるので、季節に合わせてその後も記事を出していき、その度にマスコミが動いてくれました。

そして2015年秋に書いた記事が、本当に世論を喚起しました。それまではどちらかというとまだまだ教育問題の範疇でしたが、この記事をきっかけに、教育問題から社会問題になったと思います。国や行政が動き出したのは、もはやクローズドな教育問題ではなく、社会全体が共有している社会問題だということで、動かざるを得なくなったこともあると思います。

Q: 記事がそこまで広まったのはなぜでしょうか?

10段のピラミッドが崩れる場面を撮影した動画へリンクを貼ったんです。みんながなんとなく、先入観や経験で「組体操」と呼んでいたものは、この10年ぐらいでかなり変化しています。巨大化と低年齢化が起きているんですね。しかもその巨大なものが崩れて、けが人が出ています。今の子育て世代やネットを使っている30〜40代の人たちが、それを動画という衝撃的な形で目の当たりにしたことで、かなり反響を呼んだと思います。今までそういう動画はありませんでした。

Q: そもそも、どうしてこの問題に取り組もうと思われたのですか?

実は自分から書いたというよりは、組体操事故のことを調べてほしいとツイッター上で注文があったんです。2、3人のフォロワーさんから「今大変なことになっている」という情報を同時に寄せていただきました。僕はそれまではほとんど問題意識はなかったのですが、そこまで言うなら調べてみようと。そこで10段ピラミッドの動画を見て ー それは崩れてはいなかったのですが ー これは大変なことになっていると思いました。僕の出発点も、ウェブ上の動画だったんですね。

さらにいろいろ調べてみると、ブログなどで危険だと書いている人はいたのですが、あくまで個人のブログに留まっていました。そこで、翌日の土曜と日曜はいろんなデータを調べる時間に費やして、月曜には事故件数などのデータも含めた最初の記事を出しました。


(内田さん提供)

Q: すごくスピード感がありますね。

それもまたウェブの良い所だと思うのですが、ちょうど運動会シーズンの頃だったんです。研究者のペースでやっていたら1年かかるのですが、あまり時間をかけるとまた怪我を放置することになるので…とりあえず分かる範囲だけですぐに情報を出そうと、2日で一気に調べて出しました。それでも、ただ巨大なものを危険だと言うだけでは、研究者としては物足りません。いかに危険か、数字を使って示すことが大事だろうと考え、なるべくエビデンスを用意するようにしました。


▽ウェブを通じて、当事者に近づける

学校では子供が怪我をすると医療費を支払う保険制度があって、その制度から作られているデータ集があります。例えば、陸上競技中に何人が倒れて病院に行ったとか、図工の時間に怪我をして何人が病院に行った、という数字です。その中に組体操の項目もあります。どういうデータが存在するかを分かっている研究者だからこそ、そのデータを取得できたのだと思います。本当は、そういった細かいお役所データを整理して、メディアに伝える人が必要です。研究者は、クローズドなアカデミックの世界で共有することはあっても、それを外に出すことはなかなかありません。

Q: 論文や本と比べて、ウェブで発信することのメリットは何でしょうか。

これまで学会の中には、「象牙の塔」を抜け出てフィールドワークに行くことを重んじる空気がありました。でも、今の時代は閉じこもっていたとしても、ウェブで問題提起をすれば、ストレートに当事者の声が入ってきます。ICレコーダーを持って何時間も歩き回ったり、人づてに当事者を探さなくても、リアルな声を聞くことができる。そこからまた色々なデータの解釈につながっていくので、ウェブを通じて当事者に近くなったことは、僕にとってはすごく大きいです。

当事者だけでなく、学校の関係者や法律家など、色んな人から次々といろんな意見やアドバイスが入ってきます。なので、組体操問題は「自分で考える」というより、次々と入ってくる情報を整理して、自分が持っているエビデンスをくっつけて出していくことで、考えずに進んできたようなところがあります。




▽ウェブでの活動を通じて感じた責任感

Q: 発信を続けられる中で、記事への反応や周囲の状況に変化はありましたか?

最初の記事の時点では、SNSなどで「よくぞ言ってくれた」という声もありましたが、やっぱり反発の声がものすごく大きかったんです。それでも問題提起を続け、10段ピラミッドが崩れた記事の時には、反発の声は自分の所にはほとんど届かないぐらいになりました。「世論が変わったな」と、すごく肌で実感したんですね。この2年で、徐々に僕に対する反対派が減っていって、みんなが問題を理解するようになってきたと感じます。

また、組体操を全面廃止するという自治体も複数出てきました。その報道を聞いた時、全面廃止はやめてほしい、ということを書きました。リスク研究者は、ゼロリスクを目指すのではなく、高いリスクを減らすのが仕事です。その記事が体育館関係者の心に届き、「この人は組体操の意義を分かってくれているんだな」と理解されたように思います。これは大きな成果で、意見交換したいという連絡も来ています。

Q: 自ら署名活動などのアクションも起こされていますね。

僕は研究者としてやってきたので、正直署名活動は考えてもいなかったし、研究者ってそこまでやるものなのか?と実はずっと思っていました。でも、これだけ自分の情報発信を起点にして世論が高まり、国や行政に改善を訴えるのは誰かと言われたら、僕しかいないだろうと…ウェブでの活動を通じて、責任感のようなものを感じてやりました。



Q: 今後はどのような活動を予定されていますか?

「これなら安全に出来るのでは」「こういう技は危険だと思う」といったガイドラインの作成に役立つ具体例を出しているところです。5月には運動会がありますし、年度が明ければ学校は運動会の計画を練り始めますので、それまでにできるだけ具体的な情報を出していこうと考えています。また、もう少し先のことになりますが、この活動の結果として事故件数がどれぐらい減ったのか、きちんとまとめて出したいと思っています。


▽研究者からもっと情報を引き出してほしい

Q: アワード出展にあたり、期待されることはありますか?

研究者としてウェブメデイアを活用して情報発信している人はかなり少ないと思います。なぜかというと、そもそも記事の書き方をよく知らないからだと思います。今日あったニュースを専門的な観点から整理して明日出す、というトレーニングを受けている人は多くないと感じます。だから今必要なのは、研究者を活用するためのノウハウではないかと思います。

研究者は情報をたくさん持っている「宝の山」です。それをいかにアウトプットし、世論の形成まで持っていくかということが、今後の日本社会の問題発見と解決においては、すごく大事だと思います。その可能性をみなさんに考えていただきたいし、研究者も考えるべきだし、ウェブメディアも考えてほしい。そうすることで、研究者からもっと情報を引き出してほしいなと思います。

(取材・執筆:齊藤 真菜)

ここでは紹介しきれなかった制作過程や最新の動きなどについて、当日会場で直接質問してみませんか?2015年は、ウェブ上の発信が大きな社会的動きにつながる事例が多くありましたが、ほかにも反響を呼んだ多彩な作品が一堂に会します。普段はなかなか会えない作品の作り手との交流を楽しんでいただけたら嬉しいです。参加チケットはこちらのサイトからお求めいただけます。


これまでの出品者インタビューはこちらから:
「愛とノリ」で人と人をつなげる 「宮崎てげてげ通信」に見るローカルメディアの未来形
「VR」で現場感覚を丸ごと伝える! NHKが最新技術で挑む、ジャーナリズムのイノベーション


「VR」で現場感覚を丸ごと伝える! NHKが最新技術で挑む、ジャーナリズムのイノベーション

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が3月12日に開催する「ジャーナリズム・イノベーション・アワード2016」に向けた作品インタビュー第2弾は、NHK報道局の「NHK DATA+VR」です。データや最新テクノロジーを活用した実験的な記事を集めたポータルサイトの目玉は、今大きな注目を集めているVR(バーチャルリアリティ)技術を駆使したコンテンツ。「没入型体験」を楽しめるVR技術によって広がるジャーナリズムの表現について、NHK報道局遊軍プロジェクト副部長・足立義則さんにお話を伺いました。


Q: VRコンテンツの制作にはどれくらいの人が携わっているんですか?

報道局遊軍の「ネットデータ・ファクトリー」というチームがVRサイトを作っています。チーム名は、実はあまり認知されていないのですが…(笑)。ウェブエンジニア・プログラマー・記者・ディレクターなど、全部で8人ぐらいいます。このうちVRを作っているのは私も含めて3人ですね。

Q: 少人数で作っていらっしゃるのですね。

高度な表現を追及しなければ、VRは意外に手軽なんです。最初はエンジニアや制作会社の人にサイトの雛形を作ってもらい、あとはそのコードを応用します。手直ししたり、見栄えを良くしたりするのは、初歩のプログラマーでもできます。私はもともと記者なのですが、プログラミングもやります。

Q:2016年は「VR元年」とも言われていますが、コンテンツを作り始めたのはいつ頃ですか?

VRをやろう!となったのは昨年の4月です。単純に、VRは伝え方としてすごく面白いなと思ったんです。面白いと思える技術は、実は最近あまりありませんでした。ウェブジャーナリズムにはいろんな伝え方があります。インフォグラフィックや、New York TimesSnow Fallに代表されるすごくリッチなウェブサイトなどがありましたが、割と見慣れた感じはありました。それに、予算的にも人員的にも、なかなか難しいものだと思います。御嶽山「噴火の証言」という手の込んだサイトも制作しましたが、時間もコストもかかる。完成までに2ヶ月かかりました。そういう中で、VRというのは全く新しい、面白い見せ方だと思います。流行っていることもありますが、視聴者に楽しんでもらえると思うんです。

最初に作ったのが、「GAZA360° 戦後1年の町は」という作品です。周囲の状況を360° カメラで全て見ることが出来ます。


▽360° の撮影は意外に簡単!?

Q:360° の撮影には、どんなカメラを使うのですか?

たいていは、RICOHの「THETA S」というカメラを使っています。これは1個3万8千円ぐらいで、今のところ現場で対応するには一番良いです。魚眼レンズが付いていて、立ったままワンタッチでボタンを押すだけですぐに360° の画像と映像が撮れます。wi-fiにつないでスマホに転送、その場ですぐ見れちゃうんですよ。

Q:撮影が意外に簡単そうでびっくりしました!

もっと大変なものもあります。より高画質を求めると、Go-Proというカメラを何台も組み合わせないといけません。値段も約数十万円と高くなるし、重いですね。

Q:将来的には、記者がVR用カメラを1人1台持つようになるのでしょうか。

こういう類のものは持つようになると思います。スマートフォンにカメラが装着されるかもしれません。



(「THETA S」を使って撮影する足立さん)


(撮影した360° の映像を、その場ですぐ見せてくれました)


▽VRで「全て見せる」 減災につながるコンテンツも

Q:ジャーナリズムでVRを活用すると、どんな表現が可能になりますか?

事実をそのまま伝えるのが記者の役割の一つです。これは長年の課題ですが、伝える人や組織によって「フィルターがかかっているのではないか」「本当にマスコミは事実を伝えているのか」という懸念が増える傾向にあると思うんです。これは最近のソーシャルメディアの発達と密接に関係していますが、マスコミの信頼性への疑問です。取材の過程が可視化されるケースも多いですよね。

その懸念に対する答えの一つが、データジャーナリズムだと思うんです。データ、特にオープンデータは、誰が見ても同じです。そこからジャーナリストは新たな事実を導き出したり、分かりやすく伝えることができます。VRも同じような文脈で語ることができると思いました。例えば原発の取材だったら、マスコミは例えば燃料プールの状態を切り取って伝えるかも知れません。でも、実は別の立場でみればそこから離れた場所にニュースがあるのかもしれない。VRでは、僕たちはそこで撮ったものを360° すべてオープンにしたうえで、独自の切り口で報道しますよ、という姿勢を提示できると思います。

Q:ニュースを消費する側の体験は、どう変わりますか?

一方的に聞かされて「なるほど」と思うよりは、自分から見つけた方が記憶に残りますよね。360° で見るニューススタジオという作品があります。これを見ると「あ、スタジオけっこう広いんだ」とか「スタッフ1人しかいないの?」とか「スポーツキャスターはそんなところにずっとスタンバイしてるんだ」など、いろいろな発見ができます。対象にもっと興味を持ってもらい、深い理解につなげられるのではないかと思います。

Q:より「自分ごと」としてニュースを感じることができそうですね。

そうですね、例えば、福島第一原発事故については今、関心が少し薄れている気がします。気にはなっているけれど、5年経って、何となく進んでいるのかな?という感じだと思います。あらためて興味を持ってもらうには、何らかの仕掛けが必要だと思うんです。その仕掛けの一つがVRです。奇抜さを面白がってもらえる、というのは大きいと思います。東電福島第一原発 360° 現場報告 という作品も作りました。

Q:ほかには、どんな活用法がありますか?

これはテレビ局の強みだと思うんですが、コンテンツの二次活用が生まれます。最も考えられるのは、NHKが番組用に作るCGと組み合わせた活用です。膨大な手間をかけて作ったCGをNHKスペシャルなどで使っていますが、放送で使われるのはせいぜい数十秒なんです。それをVRに作り変えることを進めています。3DのCGとVRに転用することは比較的簡単です。自然や宇宙、人体などをテーマにした番組で、CGを駆使したものがたくさんありますが、見るだけでなく、その中に入ってみませんか?ということがどんどん可能になると思います。

Q:難しい技術というイメージでしたが、活用の可能性は大きいのですね。

とても使いやすい技術だと思います。もちろん、VRを使ったハイエンドゲームなど、極めていけば大変ですが、ニュースコンテンツを作る技術としてはそれほどハイレベルではないと思います。

Q:ほかに、VRを使ったコンテンツで面白いアイデアはありますか?

ライブ中継もやってみたいです。街角中継や、現場中継で活用できたら面白いですね。また、防災や減災につながるVRコンテンツも考えています。 激しい地震の揺れや、1時間90ミリの猛烈な雨、津波は30センチでもこんなに怖いんですよ、という情報を体験してもらえます。ただ、あまりにも没入感や怖さが強いものは控えた方がよいと思いますが。

ほかには、例えばタレントの方と一緒に街を歩く番組がありますが、VRを活用して番組アシスタントの視点で、一緒にぶらぶら歩いてみませんか?とか。「のど自慢」の舞台に立ってみたり、大河ドラマで主人公の横に座ってみたり…ということも。全部私が勝手に考えているだけなのですが(笑)

▽課題は「画質」と「見せ方」

Q:課題はありますか?

ムービーを撮ろうとすると、十分な性能のカメラがまだなく、クオリティの面で難しいです。静止画だとかなりきれいなものが撮れます。別のプロデューサーが福島の原発事故で居住制限区域に指定された民家を撮った「失われた日常〜福島第一原発事故」は、これ以上必要ないくらい良い画質です。北京総局の記者が撮った北朝鮮パレードの動画は「THETA」で撮影した動画ですが、もっと画質が良くなり、人の表情も見えるようになれば、臨場感が高まると思います。今年は、画質が高くて、機器に詳しくない記者でも扱える撮影機材がもっと出てくると思います。

サイト制作では、ユーザーインターフェースをどうするか、どこにどうボタンを配置したらいいのかなどは悩んでいます。画像と文章をどうすればうまく並列して見せられるかは、難しいですね。音やナレーションを組み合わせて伝える試みもやっています。


▽ジャーナリストは、新しい技術をもっと学ぶべき! 報道の新たな可能性を感じてほしい

Q:ジャーナリズムの「イノベーション」について、展望はありますか?

記者だったら聞いて書くだけ、テレビなら聞いてリポートするだけ、ということ以外にも、別の選択肢や可能性があると思うんです。それが「イノベーション」という言葉なのだと思います。テレビ・新聞・通信という従来のメディアもそうですが、おそらくネットメディアも、今新たな展開を求められていると思います。このままでいいのか、より深い伝え方を模索していると思います。次のステップに移るために必要なのがイノベーション。それには、違うセクションの人や違う職種の人と関わり、新しい技術を学ぶことが必要だと思います。そういう人はもちろんいますが、まだまだ少ないと思います。

Q:アワード当日、期待されることがあれば教えてください。

視聴者やユーザーの生の反応に触れて、多くの気づきを得たいです。去年も参加したのですが、けっこう厳しいことも言われました(笑)。「面白いですね!」と言ってくれる人もいましたが、「これ、なんの意味があるんですか?」とか… でもそれはきちんと受け止めています。独りよがりになっていたな、という気づきもありました。ネット上の反応は見ていますが、そういう声は短いつぶやきが多いので、まとまった感想を得られるのは楽しみです。次のコンテンツに関してヒントをもらいたいです。

正直、まだまだ初歩段階なのですが、色んな物事を伝える取り組みの一つとして、報道の新たな可能性を感じてもらいたいです。当日は、多くの方にVR体験を楽しんでもらいたいと思います。


VRのような最新技術や、今メディアの現場で起きているイノベーションに直接触れられるのもアワードの魅力です。当日は気になるブースを回って楽しんでみてください!学生は、学生証を持参していただくと入場無料です。
(JCEJ運営委員・耳塚 佳代)

チケットはこちらのサイトからお求めください!

「愛とノリ」で人と人をつなげる 「宮崎てげてげ通信」に見るローカルメディアの未来形

 日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が3月12日に開催する「ジャーナリズム・イノベーション・アワード2016」。50の多彩な出展ラインナップから、作品をピックアップして紹介します! 今回は宮崎県の魅力を発信する地元メディア「宮崎てげてげ通信」。2014年5月にスタートし、「人と人をつなげ、宮崎県を豊かにする」ため、「愛とノリ」という方針のもとで運営中。活動は情報発信だけでなく、リアルなイベントにも及んでいます。会長の長友まさ美さんに、宮崎への熱い思いやローカルメディア運営のノウハウ、アワードへの意気込みを聞きました。

▽リアルとウェブを融合させていきたい

Q:アワードへの出展を決めていただき、ありがとうございます! まずは改めて、「テゲツー!」がどんなメディアなのか教えてください。

メディアの顔をしてるんですが、情報発信だけではなくて、リアルに会えるイベントをすごく大事にしています。「自分たちの作りたい街を、自分たちの手でつくる」ということを大事にしているんですね。

だから、「テゲツー寺子屋」を開催したり、去年末からは、宮崎産業経営大学経営学部の学生さんと一緒に気軽に街や未来のことを対話する「宮崎ダイアログカフェ」をスタートしました。目先の課題ではなく、本当に作りたい未来を考える。そしてそのために何ができるんだろう?とアクションを生み出して、そこから生まれたチャレンジや成果をまたメディアで可視化して……という風に、リアルとウェブを融合させていきたいと思っています。


※右は長友まさ美さん、左は河野俊嗣・宮崎県知事

Q:そもそもなぜテゲツー!を始めることになったんですか?

県外で就職して、6年前に宮崎に帰ってきたとき、「なんでこんな何もないところに帰ってきたと?」って言われて、すごく残念だったんです。長く住み続けて身の回りのことが当たり前になりすぎると、そこに価値を感じにくくなると私は思っていて、「宮崎ってこんなに豊かだよ。こんなすばらしいものがあるよ」と伝えたいう気持ちが強くなって、テゲツー!はスタートしました。

また、宮崎はとっても小さなコミュニティで、いい意味でオンとオフがごちゃまぜです。1回出会った人とまたぜんぜん違う場で会えたりする。それも豊かさのひとつなんですよね。人とのつながりが人生を豊かにすると私は思っているので、「人と人をつなげる」ということもやりたいなあって。

いろんな外部からの高い評価もいただくようになりましたが、それよりもテゲツーを見て人と人が繋がって、動き出すことを感じられるのが一番嬉しいし、また頑張ろうって励みになります。


Q:人が動いた、という点で印象に残っているエピソードはありますか?

たくさんありますね。ひとつは宮崎出身で東京の大学に通っている女子大生が、「東京で就職するか、宮崎に帰って実家を継ぐか悩んでいたけど、テゲツー!を見て宮崎にこんなに愛をもってやってる人たちがいるんだってことを知って、宮崎に帰ることを決めました」って報告してくれました。

ほかにも、日南市の油津商商店街で、昔からやっている職人のおじいちゃんのことを記事にしたら、すごく商店街の人が喜んでくれて、わざわざテゲツー!の記事を印刷をして商店街に貼ってくれました。それを見たおじいちゃんが「あと10年がんばれるわ」って笑ってくれたり。



▽パートナー企業は「スポンサー」には絶対したくない

Q:運営は非営利なんですね。長友さんもチームビルディングの会社を経営されています。

テゲツー!は、行政、民間、NPOと、みんな本業を持ちながら活動していて、非営利のウェブメディアでした。運営にお金がかかる部分は、クラウドファンディングをしたり、タイアップする企業様からお金を頂いています。取材などの費用は、基本的には記事を書くスタッフが全部持ち出しで、自分が体験して本当に伝えたい思う店や場を載せるという形をとっているんです。

ただ、これまでの1年半はこれでよかったんですけど、今年はテゲツー!を持続可能にしていくためにも、お金がまわる仕組みを作んなきゃダメだなと感じています。第二創業のフェーズに向かうところに今は立っている感じですね。


Q:メディアの立ち上げにあたって収益面はどこも苦労しているようですね。

特に、地域の活動では、「楽しいからやろう」という部分と、「経済を回す」という両輪を成長させていくことが大事だと感じています。"ワクワク"と"経済"、どちらかだけになると、プロジェクトが倒れちゃう。楽しいけれど経済が回らないと続かないし、お金のことばかり考えた瞬間、つまらないものになったり義務感、責任感からの動きになってしまう。これも、やっぱり続かない。どっちも成長させて持続可能なものにしていくためには、どうやっていったらいいだろうっていうのは、ずっとテーマとしてあります。


Q:テゲツー!には「パートナー企業」がいますが、どんな関係なんですか?

パートナー企業様は、広告記事を書くだけではなく、その企業様の課題解決や願う姿を、テゲツー!のコミュニティを使って何ができるだろうということを一緒に考えます。例えば、商品をアピールしたいとか、いい人を採用したいとか。その目的のために、一緒に移住定住向けのイベントを開催するとか、テゲツーのイベントを開催するときには、パートナー企業の飲食店で開催するとか。

お互いにとって喜べるような関係性をつくり、1年かけて一緒に宮崎の魅力を高める活動をしています。パトーナー企業様とは、しっかりした関係性を築いていきたいので30社までと決めています。


Q:先進的なメディア運営の形だと感じます。1PVいくらとか、1本広告記事を書いたからいくらとかいった関係ではないんですね。

そうですね。お金を払って広告を出すというよりは、テゲツーといっしょに宮崎の魅力を伝えようとか、魅力ある街を一緒に作ろうっていうコンセプトに共感した企業様が賛同してくださっています。

だから、私たちは、「パートナー企業」とか「タイアップ企業」と呼んでいて、「スポンサー」とは思っていません。よくメディアにありがちな、広告出稿をしている企業に気を使って、競合の会社の記事は書けないとかは絶対したくない。

本当はいいと思ってるのに書かないとかは嫌なので、テゲツーとパートナー企業様はあくまで対等な関係性。だからこそ、一緒にいろんなチャレンジができるし、言いたいこともけっこう言うし。多様性を認めること、対等な関係性を創ることはすごく大事にしてます。



▽普通の100人が街を変える

Q:そういう意味ではすごくジャーナリズム的な部分もあるんですね。今回、「ジャーナリズム・イノベーション・アワード」に出展していただくわけですが、「ジャーナリズム」という言葉にどんなイメージを持っていますか?

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表の藤代裕之さんがテゲツー!の記事を書いてくださったとき、「本来、地方新聞社がやるべきことをやってるね」って言ってくださったんですよ。そのとき、私自身は、自分のやれることをただ楽しいからやってるだけなので、あまりピンとこなくて。

実は、ジャーナリズムとかジャーナリストっていうと、まったく私とは縁のないところのすごい人たちがやることみたいなイメージが今でもあります。今回の出展者さんの活動を見ても、すげぇなと。こんなスペシャルな場所に、入っていいんですかみたいな感じなんですよ。

ただ、私たちはジャーナリズムとかメディアというところにあまり詳しくない人たちばかりでスタートしたから、あまりメディアの枠に捉われず、思いついたアイデアを気軽にやってみようってポンポンやれたのは、結果、良かったのかなあと思っています。


Q:テゲツー!は旧来のメディア観にとらわれている人からは出てこないメディアだと感じます。

私たちもやったことないことばっかりだから、まずはやってみて、小さいチャレンジと失敗を高速で繰り返している感じですね。目指す先のゴールだけをチームのメンバーで共有して、ゴールに近づくことだったらなんでも気軽にやってみています。「創りたい街を、自分たちの手で創る」社会を創るために、まずは、「人と人をつなげて、宮崎を豊かにする」ことをしていこう。執筆方針は「愛とノリ」。決めていることはシンプルにそれだけです。それ以外は、編集部のメンバーがやりたいことを自由にやっています。


Q:今後、取り組んでいきたいことは何ですか?

いっぱいありますね。一番やりたいのは、リアルな場作りにもっと力を入れていきたいです。わたしは、1人の強いリーダーが街を変えるのではなく、普通の100人の小さなアクションの積み重ねが未来を創ると思っています。街のことや世の中のことって、自分1人ががんばってもどうせ変わんないよねって諦めるんじゃくて、自分も街を創る1人なんだっていう。そんな普通の人たちが気軽に入ってもらえるような対話の仕組みや場を作りたいなあって思っています。



▽アワードで「新しい仲間に出会いたい」

Q:アワード出展にあたって期待することを教えてください。

まずはテゲツー!を知ってもらうことですね。宮崎という陸の孤島で、こんな取り組みが生まれていて、実際に街が変化してきていることを知ってもらいたい。

あと、何も分からないなかで、手探りで進んでいるので、こうするといいかもとか、どんどんフィードバックもらえたら嬉しいなって思います。新しい仲間にも出会えたらいいなあ。


Q:自分以外の出展作品で、気になるものはありますか?

まずは、ヨッピーさん。ヨッピーさんの記事には、いつも根底に愛がある。あの企画力、コンテンツ力と編集力。本当に素晴らしいと思っていて、大好きなので、お会いできることが楽しみです。あとは、大好きなgreenzさんも。「赤ちゃんにやさしい国へ」も気になっています。そして、今年は、各地のローカルメディアが多いことも嬉しいですね。ローカルメディアで切磋琢磨して一緒に日本を盛り上げる仲間にも出会いたいです。


(JCEJアワード運営・田中郁考)

アワードは、作品の作り手と直接交流できる場です。「もっと作品についての話を聞いてみたい」という方は、是非会場にお越しください!チケットは、こちらのサイトからCチケットをご購入ください。学生の方は、学生証を持参していただくと入場無料です!

沖縄から一人で乗り込みチャレンジ 「無名の一地方記者」の転機になったジャーナリズム・イノベーション・アワード

「一人でとても緊張しながら、沖縄から大荷物を抱えて行きました」。前回のジャーナリズム・イノベーション・アワードをそう振り返るのは、沖縄タイムスデジタル部記者・與那覇(よなは)里子さん。ほかの出展者と比較してしまい「背筋が凍る思いだった」と言いますが、出品した『地図が語る戦没者の足跡』(戦没者の死亡地域を地図に落とし込んだウェブサイト)は決勝プレゼンへと勝ち進み、見事データジャーナリズム特別賞に輝きました。その後、アワードで出会った首都大学東京システムデザイン学部准教授・渡邉英徳さん(最優秀賞)と共同制作した『沖縄戦デジタルアーカイブ』は第19回文化庁メディア芸術祭などに入選。與那覇さんの「大きな転機」となったアワードの感想を伺いました。


▽「参加賞狙い」で沖縄から参加

Qアワードに出展された経緯を教えてください。

きっかけはJCEJの方からの出展依頼メールに、沖縄タイムスのウェブページに掲載していた『地図が語る戦没者の足跡』について最上級の褒め言葉が寄せられていたことでした。戦後70年の年に、住民の4割が戦死した具志頭(ぐしかみ)村出身者の戦没地を落とし込んだ地図から足跡を追ったデジタル記事なのですが、東京で見てくださる方がいたという実感と感激から、部内で相談したところ、アワードにチャレンジしてもいいのではないかとの結論でまとまりました。

年明けにエントリーした時は8組ほどしかいなかったのですが、応募した翌日から朝日新聞毎日新聞、そして電通PRなど大手企業が応募しているのを見て背筋が凍る思いでした。プレゼンなど今までしたことがなく、「本当に行って大丈夫なのだろうか」と参加することすら怖くなりましたね。でも、なかなか多くの人に見てもらえる機会はないので、「参加賞狙い」で営業マンとして行こうと思うようにしました。

Q当日はお一人で参加されたんですよね?

出展した作品を一緒に制作してくれたGIS沖縄研究室の渡邊康志さんも参加予定だったのですが、急きょキャンセルになってしまいまして…
私たちの作品は動きを見てもらわないといけないので、沖縄からPCを2台送りました。出展場所はくじ引きで決めるのですが、隣が朝日新聞で向い側が神戸新聞でした。ドキドキ緊張しながら行ったのに、朝日新聞の担当の方は大量に飴を用意していて、「見てくれた人に配るんだ」と言っているのを聞いてすごい余裕があると思いましたね。本当は3人くらいでゆっくり回る時間が欲しかったのですが一人で約3時間、ノンストップで説明し続けました。他にも個人で出展されている方が多いな、という印象を受けました。




▽記事の作り方に、新しい視点が持てた

Qアワード参加後、何か変化はありましたか?
新聞社はその中で完結しようという雰囲気があるのですが、色々な所とコラボした方が記事の書き方や見せ方などがもっと活性化されると思います。ニッチなところを攻めるしらべぇさんや、斬新な切り口のヨッピーさんの作品を見て「こういうやり方もあるんだ」と、正解が1つではないことを実感できました。沖縄タイムスで例えると、沖縄戦は王道かつ昔からのテーマですが、ウェブでもっとカジュアルに見せる方法があるかもしれないなと思いました。

ほかにも、Yahoo!のイベントやG空間EXPOなどに出ることができました。無名な地方新聞記者がイベントにも呼んでもらえるようになったし、アワード出展がとても大きな転機になりましたね。

Q「ジャーナリズム」に対する考え方は何か変わりましたか?

アワード後、「ジャーナリズムって何だろう」と疑問を持ちながら帰りました。色々な人に聞いたり、「ジャーナリズムとは?」という本も買いましたし(笑)新聞社に所属していることもあって、ジャーナリズムは政治思想の類いであると思っていましたが、色々な視点があって良いし、むしろ代替があることで質が担保され、クオリティの高いものができると思います。




▽「ご縁」から生まれた新たな作品

Q、首都大の渡邉さんとは、どのようにして『沖縄戦デジタルアーカイブ』を共同制作することに?

渡邉先生とは檀上でしか話してないんです(笑)トロフィーをもらいながら、横で「こんなワンツーで並ぶ機会はないですね。ご縁なのでやりましょう」って言って降壇しました。その後、3月に沖縄で打ち合わせをしました。戦没者の足跡に加えて、沖縄戦の体験者の方が戦中どのような軌跡をたどったのか、それも可視化できないかという意見も出て、編集局の記者30人以上が体験者に取材に行きました。白地図に、3カ月以上の移動状況を手書きで書いてもらいました。6月23日の沖縄戦終結「慰霊の日」に向けて急ピッチで4月の半ばから進めて、5月のゴールデンウィークにコンテンツを集め終えた感じですね。首都大の渡邉先生とGIS沖縄研究室の渡邊先生の技術、記者、プログラマー・・・。一人欠けても作ることはできませんでした。

今まで、戦争で亡くなられた方に焦点が当たる記事はあまりなかったのですが、データでしか可視化できない事実を積み重ねることで、一緒に軌跡をたどることができました。1つ1つの魂を感じることができ、亡くなられた方と向き合うことができたかな、と思いました。


▽自分の作品を高めたい人は参加必須!

Q.応募を迷っている方に一言お願いします!

ネットコンテンツを作る人にリアルに会えたことで、ぬくもりを感じられました。皆さん作品への愛を語るので、会場がすごい熱気で!
自分の作品をもっと良くしたいと思う人は絶対参加した方がいいです。作品を知ってもらえる絶好のチャンスであり、ガチ勝負の場!しびれる場所でお会いしましょう!

今回、與那覇さんにインタビューをして沖縄に関心を持ちました。アワードは、今まで接点がなかった人を身近に感じ、視野を拡げるきっかけにもなります。2016年もどんな出会いがあるか楽しみです。
(JCEJアワード運営サポート・小野ヒデコ)

来年3月12日に開催する「ジャーナリズム・イノベーション・アワード2016」は、今回で2回目。作品の作り手と受け手が直接交流し、優れた作品をみんなの投票で選ぶイベントです。組織や業界の垣根を越えて、切磋琢磨する仲間と出会い、語り合える場にしたいと考えています。ぜひ、あなたの作品を応募してみませんか。この作品が良かった、という推薦も受け付け中です。

詳細はアワード特設サイトから!