#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

 新たな出会いから生まれたイノベーション 圧倒的強さを見せた『沖縄戦デジタルアーカイブ』がアワード最優秀賞に!

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)主催の『ジャーナリズム・イノベーション・アワード2016』が3月12日、講談社で開催されました。作品の作り手と受け手が交流し、みんなの投票で「頂点」を決める「ジャーナリズムのお祭り」。前回の38組を上回る50組から応募があり、会場は熱気に包まれました。最優秀賞を獲得したのは、首都大学東京渡邉英徳研究室・沖縄タイムス社・GIS沖縄研究室の『沖縄戦デジタルアーカイブ』。前回アワードの受賞者2組が一緒に取り組んだ作品が、見事2年連続トップに輝きました!


▽アワードがつないだ縁から生まれた、新たな表現

「人とのつながりで新しいコンテンツを発信できることを幸せに思います」。
沖縄タイムスの與那覇さんと首都大の渡邉さんは、昨年のアワードで出会ったのをきっかけに、異業種同士で新たな作品づくりに取り組みました。與那覇さんは「(新聞記者が)ウェブでジャーナリズムをどうやるか、ずっと考えてきました。でも、本質は変わらない。むしろ発信できる幅が広がったのだと思います。紙媒体ではコラボすることはあまりなかったけれど、誰かの力を借りながら発信する時代に変わったのかな、と感じます」と話しました。

受賞作品は、立体的な航空写真と地図に、戦没者の証言やデータを重ね合わせて沖縄戦の推移を可視化した力作。渡邉さんはプレゼンで「『被爆者』『被災者』という言葉もそうですが、そういう特別な人がいるのではなく、我々と同じような普通の人がいきなり『戦争体験者』という特別な人に変わってしまう。それが戦争だと僕は考えています。それを表現したくて、このコンテンツを作りました」と話し、「私たちと同じような日常を過ごしていた人にとっての出来事として、沖縄戦を捉えてほしい。それが現在の基地問題とも、地続きだと感じてもらいたい」と訴えました。

表彰式後は「(戦争を)語り継いだ方の想いを受け継いで、未来につなぐいい仕事ができてよかったです。自分の技術をひけらかすだけなら、ここまで自信を持って(作品について)話せません。でも、亡くなった方々の想いが根底にあるからこそ、それができます」と話し、「未来に残していくコンテンツ。戦後80年まで継承していきたいと思います」と力強く述べました。


▽「本気」を見せた新聞社3組も決戦プレゼンに!

ネットメディア、ブロガー、地域メディア、研究者など多彩な出展者が集う中、今年は大手メディアも健闘しました。総投票数307のうち23票を獲得し、一次予選をトップ通過したのは「沖縄戦デジタルアーカイブ」。昨年惜しくも予選通過を逃した日本経済新聞社「データディスカバリー」(22票)と朝日新聞デジタル部の「築地 時代の台所」(18票)、さらに読売新聞社「検証・戦争責任」(17票)も多くの支持を集めました。宮崎県のローカルメディア・宮崎てげてげ通信(テゲツー!)の「2015年テゲツー!で最もよまれた記事は?」ステルスマーケティング問題を追及して話題となった山本一郎さんの作品も、それぞれ17票を獲得し、上位6チームの決戦プレゼンに進みました。

それぞれのチームがコンテンツに込めた想いを会場に向けて熱く語り、その後の決選投票では「沖縄チーム」が他を大きく引き離す62票を獲得。優秀賞には25票を獲得した「朝日新聞デジタル編集部」と、24票の「テゲツー!」が選ばれました。山本一郎さん、日経新聞、読売新聞はそれぞれ23票、21票、16票でした。

朝日新聞東京本社のすぐ向かいにある築地市場アーカイブするコンテンツを作った木村円さんは「目と鼻の先にあるのに、ほとんど何も知らない。永遠に消えてしまうものを残したい、という想いから始めたプロジェクトです」と話しました。

築地市場は約80年も続く「非常に伝統的な世界」。企画を立ち上げてから、実際に許可を得て取材するまで約1年かかったというエピソードにも触れ「最初は大変でしたが、皆さんだんだん笑顔になり、取材に協力してもらえるようになりました。ありのままに記録することを目指しています」と想いを語りました。

同じく優秀賞に輝いたテゲツー!は、月間50万PVを集める様々な記事の配信だけでなく、イベント開催を通じてリアルな交流の場を生み出しています。活動を通して「宮崎の太陽」と呼ばれるようになったという長友まさ美さんは、「自分たちの街は、自分たちで作りたい。若い子たちがどんどんチャレンジできる文化を創り上げるために、まずは宮崎を知ってもらわないと始まらない」と、地元メディアを立ち上げた想いを話しました。

「人と人をつなげて、宮崎が豊かになっていくことが何よりも嬉しいです。今まではボランティアでやってきましたが、持続可能にするためにも、しっかりお金も稼いで投資できる形にしていきたい」と、現状で満足せず、地元メディアとしての在り方をさらに模索していく決意も語りました。


▽想いを、真っ直ぐに伝えることの大切さ

「何のためのメディアで、何を伝えたいのかが明確だったチームが選ばれたと思います」。講評でJCEJの藤代裕之代表は、展示内容や技術の目新しさだけでなく、相手に想いを伝える姿勢や、プレゼンに挑む姿勢の大切さについても触れました。例えば朝日新聞の作品は「消えゆくものを残したい」、テゲツー!は「宮崎の魅力を伝えたい」という気持ちを直球で伝えていた、と評価しました。

出展者のふじいりょうさんは、「今回のアワードで痛感したのは、ブースの目の前にいる人に出展内容を伝えて、何かしら響くものを与えることこそが『イノベーション』で、それには相手の目を見て正面から対峙しないと何もはじまらない、という極めてシンプルなことでした」という気づきをツイートしてくれました

また藤代代表は、「普通の人々」にとっての出来事として戦争を捉えた「沖縄戦デジタルアーカイブ」にも触れ、「日常と非日常は裏腹で、そこにニュースがあります。『ジャーナル』とは記録であり、ジャーナリストは言葉を託されています。記録することが未来につながっていくのではないでしょうか」と述べました。

アワードは、業界や組織の枠組みを超えて、仲間とともに学びあえる場。藤代代表は「ここでの新たな出会いが、更なるジャーナリズムのイノベーションにつながって欲しい」と話し、イベントを締めくくりました。

出展者の皆様、ご来場いただいた皆様、本当にありがとうございました!