#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

「VR」で現場感覚を丸ごと伝える! NHKが最新技術で挑む、ジャーナリズムのイノベーション

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が3月12日に開催する「ジャーナリズム・イノベーション・アワード2016」に向けた作品インタビュー第2弾は、NHK報道局の「NHK DATA+VR」です。データや最新テクノロジーを活用した実験的な記事を集めたポータルサイトの目玉は、今大きな注目を集めているVR(バーチャルリアリティ)技術を駆使したコンテンツ。「没入型体験」を楽しめるVR技術によって広がるジャーナリズムの表現について、NHK報道局遊軍プロジェクト副部長・足立義則さんにお話を伺いました。


Q: VRコンテンツの制作にはどれくらいの人が携わっているんですか?

報道局遊軍の「ネットデータ・ファクトリー」というチームがVRサイトを作っています。チーム名は、実はあまり認知されていないのですが…(笑)。ウェブエンジニア・プログラマー・記者・ディレクターなど、全部で8人ぐらいいます。このうちVRを作っているのは私も含めて3人ですね。

Q: 少人数で作っていらっしゃるのですね。

高度な表現を追及しなければ、VRは意外に手軽なんです。最初はエンジニアや制作会社の人にサイトの雛形を作ってもらい、あとはそのコードを応用します。手直ししたり、見栄えを良くしたりするのは、初歩のプログラマーでもできます。私はもともと記者なのですが、プログラミングもやります。

Q:2016年は「VR元年」とも言われていますが、コンテンツを作り始めたのはいつ頃ですか?

VRをやろう!となったのは昨年の4月です。単純に、VRは伝え方としてすごく面白いなと思ったんです。面白いと思える技術は、実は最近あまりありませんでした。ウェブジャーナリズムにはいろんな伝え方があります。インフォグラフィックや、New York TimesSnow Fallに代表されるすごくリッチなウェブサイトなどがありましたが、割と見慣れた感じはありました。それに、予算的にも人員的にも、なかなか難しいものだと思います。御嶽山「噴火の証言」という手の込んだサイトも制作しましたが、時間もコストもかかる。完成までに2ヶ月かかりました。そういう中で、VRというのは全く新しい、面白い見せ方だと思います。流行っていることもありますが、視聴者に楽しんでもらえると思うんです。

最初に作ったのが、「GAZA360° 戦後1年の町は」という作品です。周囲の状況を360° カメラで全て見ることが出来ます。


▽360° の撮影は意外に簡単!?

Q:360° の撮影には、どんなカメラを使うのですか?

たいていは、RICOHの「THETA S」というカメラを使っています。これは1個3万8千円ぐらいで、今のところ現場で対応するには一番良いです。魚眼レンズが付いていて、立ったままワンタッチでボタンを押すだけですぐに360° の画像と映像が撮れます。wi-fiにつないでスマホに転送、その場ですぐ見れちゃうんですよ。

Q:撮影が意外に簡単そうでびっくりしました!

もっと大変なものもあります。より高画質を求めると、Go-Proというカメラを何台も組み合わせないといけません。値段も約数十万円と高くなるし、重いですね。

Q:将来的には、記者がVR用カメラを1人1台持つようになるのでしょうか。

こういう類のものは持つようになると思います。スマートフォンにカメラが装着されるかもしれません。



(「THETA S」を使って撮影する足立さん)


(撮影した360° の映像を、その場ですぐ見せてくれました)


▽VRで「全て見せる」 減災につながるコンテンツも

Q:ジャーナリズムでVRを活用すると、どんな表現が可能になりますか?

事実をそのまま伝えるのが記者の役割の一つです。これは長年の課題ですが、伝える人や組織によって「フィルターがかかっているのではないか」「本当にマスコミは事実を伝えているのか」という懸念が増える傾向にあると思うんです。これは最近のソーシャルメディアの発達と密接に関係していますが、マスコミの信頼性への疑問です。取材の過程が可視化されるケースも多いですよね。

その懸念に対する答えの一つが、データジャーナリズムだと思うんです。データ、特にオープンデータは、誰が見ても同じです。そこからジャーナリストは新たな事実を導き出したり、分かりやすく伝えることができます。VRも同じような文脈で語ることができると思いました。例えば原発の取材だったら、マスコミは例えば燃料プールの状態を切り取って伝えるかも知れません。でも、実は別の立場でみればそこから離れた場所にニュースがあるのかもしれない。VRでは、僕たちはそこで撮ったものを360° すべてオープンにしたうえで、独自の切り口で報道しますよ、という姿勢を提示できると思います。

Q:ニュースを消費する側の体験は、どう変わりますか?

一方的に聞かされて「なるほど」と思うよりは、自分から見つけた方が記憶に残りますよね。360° で見るニューススタジオという作品があります。これを見ると「あ、スタジオけっこう広いんだ」とか「スタッフ1人しかいないの?」とか「スポーツキャスターはそんなところにずっとスタンバイしてるんだ」など、いろいろな発見ができます。対象にもっと興味を持ってもらい、深い理解につなげられるのではないかと思います。

Q:より「自分ごと」としてニュースを感じることができそうですね。

そうですね、例えば、福島第一原発事故については今、関心が少し薄れている気がします。気にはなっているけれど、5年経って、何となく進んでいるのかな?という感じだと思います。あらためて興味を持ってもらうには、何らかの仕掛けが必要だと思うんです。その仕掛けの一つがVRです。奇抜さを面白がってもらえる、というのは大きいと思います。東電福島第一原発 360° 現場報告 という作品も作りました。

Q:ほかには、どんな活用法がありますか?

これはテレビ局の強みだと思うんですが、コンテンツの二次活用が生まれます。最も考えられるのは、NHKが番組用に作るCGと組み合わせた活用です。膨大な手間をかけて作ったCGをNHKスペシャルなどで使っていますが、放送で使われるのはせいぜい数十秒なんです。それをVRに作り変えることを進めています。3DのCGとVRに転用することは比較的簡単です。自然や宇宙、人体などをテーマにした番組で、CGを駆使したものがたくさんありますが、見るだけでなく、その中に入ってみませんか?ということがどんどん可能になると思います。

Q:難しい技術というイメージでしたが、活用の可能性は大きいのですね。

とても使いやすい技術だと思います。もちろん、VRを使ったハイエンドゲームなど、極めていけば大変ですが、ニュースコンテンツを作る技術としてはそれほどハイレベルではないと思います。

Q:ほかに、VRを使ったコンテンツで面白いアイデアはありますか?

ライブ中継もやってみたいです。街角中継や、現場中継で活用できたら面白いですね。また、防災や減災につながるVRコンテンツも考えています。 激しい地震の揺れや、1時間90ミリの猛烈な雨、津波は30センチでもこんなに怖いんですよ、という情報を体験してもらえます。ただ、あまりにも没入感や怖さが強いものは控えた方がよいと思いますが。

ほかには、例えばタレントの方と一緒に街を歩く番組がありますが、VRを活用して番組アシスタントの視点で、一緒にぶらぶら歩いてみませんか?とか。「のど自慢」の舞台に立ってみたり、大河ドラマで主人公の横に座ってみたり…ということも。全部私が勝手に考えているだけなのですが(笑)

▽課題は「画質」と「見せ方」

Q:課題はありますか?

ムービーを撮ろうとすると、十分な性能のカメラがまだなく、クオリティの面で難しいです。静止画だとかなりきれいなものが撮れます。別のプロデューサーが福島の原発事故で居住制限区域に指定された民家を撮った「失われた日常〜福島第一原発事故」は、これ以上必要ないくらい良い画質です。北京総局の記者が撮った北朝鮮パレードの動画は「THETA」で撮影した動画ですが、もっと画質が良くなり、人の表情も見えるようになれば、臨場感が高まると思います。今年は、画質が高くて、機器に詳しくない記者でも扱える撮影機材がもっと出てくると思います。

サイト制作では、ユーザーインターフェースをどうするか、どこにどうボタンを配置したらいいのかなどは悩んでいます。画像と文章をどうすればうまく並列して見せられるかは、難しいですね。音やナレーションを組み合わせて伝える試みもやっています。


▽ジャーナリストは、新しい技術をもっと学ぶべき! 報道の新たな可能性を感じてほしい

Q:ジャーナリズムの「イノベーション」について、展望はありますか?

記者だったら聞いて書くだけ、テレビなら聞いてリポートするだけ、ということ以外にも、別の選択肢や可能性があると思うんです。それが「イノベーション」という言葉なのだと思います。テレビ・新聞・通信という従来のメディアもそうですが、おそらくネットメディアも、今新たな展開を求められていると思います。このままでいいのか、より深い伝え方を模索していると思います。次のステップに移るために必要なのがイノベーション。それには、違うセクションの人や違う職種の人と関わり、新しい技術を学ぶことが必要だと思います。そういう人はもちろんいますが、まだまだ少ないと思います。

Q:アワード当日、期待されることがあれば教えてください。

視聴者やユーザーの生の反応に触れて、多くの気づきを得たいです。去年も参加したのですが、けっこう厳しいことも言われました(笑)。「面白いですね!」と言ってくれる人もいましたが、「これ、なんの意味があるんですか?」とか… でもそれはきちんと受け止めています。独りよがりになっていたな、という気づきもありました。ネット上の反応は見ていますが、そういう声は短いつぶやきが多いので、まとまった感想を得られるのは楽しみです。次のコンテンツに関してヒントをもらいたいです。

正直、まだまだ初歩段階なのですが、色んな物事を伝える取り組みの一つとして、報道の新たな可能性を感じてもらいたいです。当日は、多くの方にVR体験を楽しんでもらいたいと思います。


VRのような最新技術や、今メディアの現場で起きているイノベーションに直接触れられるのもアワードの魅力です。当日は気になるブースを回って楽しんでみてください!学生は、学生証を持参していただくと入場無料です。
(JCEJ運営委員・耳塚 佳代)

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