#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

「愛とノリ」で人と人をつなげる 「宮崎てげてげ通信」に見るローカルメディアの未来形

 日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が3月12日に開催する「ジャーナリズム・イノベーション・アワード2016」。50の多彩な出展ラインナップから、作品をピックアップして紹介します! 今回は宮崎県の魅力を発信する地元メディア「宮崎てげてげ通信」。2014年5月にスタートし、「人と人をつなげ、宮崎県を豊かにする」ため、「愛とノリ」という方針のもとで運営中。活動は情報発信だけでなく、リアルなイベントにも及んでいます。会長の長友まさ美さんに、宮崎への熱い思いやローカルメディア運営のノウハウ、アワードへの意気込みを聞きました。

▽リアルとウェブを融合させていきたい

Q:アワードへの出展を決めていただき、ありがとうございます! まずは改めて、「テゲツー!」がどんなメディアなのか教えてください。

メディアの顔をしてるんですが、情報発信だけではなくて、リアルに会えるイベントをすごく大事にしています。「自分たちの作りたい街を、自分たちの手でつくる」ということを大事にしているんですね。

だから、「テゲツー寺子屋」を開催したり、去年末からは、宮崎産業経営大学経営学部の学生さんと一緒に気軽に街や未来のことを対話する「宮崎ダイアログカフェ」をスタートしました。目先の課題ではなく、本当に作りたい未来を考える。そしてそのために何ができるんだろう?とアクションを生み出して、そこから生まれたチャレンジや成果をまたメディアで可視化して……という風に、リアルとウェブを融合させていきたいと思っています。


※右は長友まさ美さん、左は河野俊嗣・宮崎県知事

Q:そもそもなぜテゲツー!を始めることになったんですか?

県外で就職して、6年前に宮崎に帰ってきたとき、「なんでこんな何もないところに帰ってきたと?」って言われて、すごく残念だったんです。長く住み続けて身の回りのことが当たり前になりすぎると、そこに価値を感じにくくなると私は思っていて、「宮崎ってこんなに豊かだよ。こんなすばらしいものがあるよ」と伝えたいう気持ちが強くなって、テゲツー!はスタートしました。

また、宮崎はとっても小さなコミュニティで、いい意味でオンとオフがごちゃまぜです。1回出会った人とまたぜんぜん違う場で会えたりする。それも豊かさのひとつなんですよね。人とのつながりが人生を豊かにすると私は思っているので、「人と人をつなげる」ということもやりたいなあって。

いろんな外部からの高い評価もいただくようになりましたが、それよりもテゲツーを見て人と人が繋がって、動き出すことを感じられるのが一番嬉しいし、また頑張ろうって励みになります。


Q:人が動いた、という点で印象に残っているエピソードはありますか?

たくさんありますね。ひとつは宮崎出身で東京の大学に通っている女子大生が、「東京で就職するか、宮崎に帰って実家を継ぐか悩んでいたけど、テゲツー!を見て宮崎にこんなに愛をもってやってる人たちがいるんだってことを知って、宮崎に帰ることを決めました」って報告してくれました。

ほかにも、日南市の油津商商店街で、昔からやっている職人のおじいちゃんのことを記事にしたら、すごく商店街の人が喜んでくれて、わざわざテゲツー!の記事を印刷をして商店街に貼ってくれました。それを見たおじいちゃんが「あと10年がんばれるわ」って笑ってくれたり。



▽パートナー企業は「スポンサー」には絶対したくない

Q:運営は非営利なんですね。長友さんもチームビルディングの会社を経営されています。

テゲツー!は、行政、民間、NPOと、みんな本業を持ちながら活動していて、非営利のウェブメディアでした。運営にお金がかかる部分は、クラウドファンディングをしたり、タイアップする企業様からお金を頂いています。取材などの費用は、基本的には記事を書くスタッフが全部持ち出しで、自分が体験して本当に伝えたい思う店や場を載せるという形をとっているんです。

ただ、これまでの1年半はこれでよかったんですけど、今年はテゲツー!を持続可能にしていくためにも、お金がまわる仕組みを作んなきゃダメだなと感じています。第二創業のフェーズに向かうところに今は立っている感じですね。


Q:メディアの立ち上げにあたって収益面はどこも苦労しているようですね。

特に、地域の活動では、「楽しいからやろう」という部分と、「経済を回す」という両輪を成長させていくことが大事だと感じています。"ワクワク"と"経済"、どちらかだけになると、プロジェクトが倒れちゃう。楽しいけれど経済が回らないと続かないし、お金のことばかり考えた瞬間、つまらないものになったり義務感、責任感からの動きになってしまう。これも、やっぱり続かない。どっちも成長させて持続可能なものにしていくためには、どうやっていったらいいだろうっていうのは、ずっとテーマとしてあります。


Q:テゲツー!には「パートナー企業」がいますが、どんな関係なんですか?

パートナー企業様は、広告記事を書くだけではなく、その企業様の課題解決や願う姿を、テゲツー!のコミュニティを使って何ができるだろうということを一緒に考えます。例えば、商品をアピールしたいとか、いい人を採用したいとか。その目的のために、一緒に移住定住向けのイベントを開催するとか、テゲツーのイベントを開催するときには、パートナー企業の飲食店で開催するとか。

お互いにとって喜べるような関係性をつくり、1年かけて一緒に宮崎の魅力を高める活動をしています。パトーナー企業様とは、しっかりした関係性を築いていきたいので30社までと決めています。


Q:先進的なメディア運営の形だと感じます。1PVいくらとか、1本広告記事を書いたからいくらとかいった関係ではないんですね。

そうですね。お金を払って広告を出すというよりは、テゲツーといっしょに宮崎の魅力を伝えようとか、魅力ある街を一緒に作ろうっていうコンセプトに共感した企業様が賛同してくださっています。

だから、私たちは、「パートナー企業」とか「タイアップ企業」と呼んでいて、「スポンサー」とは思っていません。よくメディアにありがちな、広告出稿をしている企業に気を使って、競合の会社の記事は書けないとかは絶対したくない。

本当はいいと思ってるのに書かないとかは嫌なので、テゲツーとパートナー企業様はあくまで対等な関係性。だからこそ、一緒にいろんなチャレンジができるし、言いたいこともけっこう言うし。多様性を認めること、対等な関係性を創ることはすごく大事にしてます。



▽普通の100人が街を変える

Q:そういう意味ではすごくジャーナリズム的な部分もあるんですね。今回、「ジャーナリズム・イノベーション・アワード」に出展していただくわけですが、「ジャーナリズム」という言葉にどんなイメージを持っていますか?

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表の藤代裕之さんがテゲツー!の記事を書いてくださったとき、「本来、地方新聞社がやるべきことをやってるね」って言ってくださったんですよ。そのとき、私自身は、自分のやれることをただ楽しいからやってるだけなので、あまりピンとこなくて。

実は、ジャーナリズムとかジャーナリストっていうと、まったく私とは縁のないところのすごい人たちがやることみたいなイメージが今でもあります。今回の出展者さんの活動を見ても、すげぇなと。こんなスペシャルな場所に、入っていいんですかみたいな感じなんですよ。

ただ、私たちはジャーナリズムとかメディアというところにあまり詳しくない人たちばかりでスタートしたから、あまりメディアの枠に捉われず、思いついたアイデアを気軽にやってみようってポンポンやれたのは、結果、良かったのかなあと思っています。


Q:テゲツー!は旧来のメディア観にとらわれている人からは出てこないメディアだと感じます。

私たちもやったことないことばっかりだから、まずはやってみて、小さいチャレンジと失敗を高速で繰り返している感じですね。目指す先のゴールだけをチームのメンバーで共有して、ゴールに近づくことだったらなんでも気軽にやってみています。「創りたい街を、自分たちの手で創る」社会を創るために、まずは、「人と人をつなげて、宮崎を豊かにする」ことをしていこう。執筆方針は「愛とノリ」。決めていることはシンプルにそれだけです。それ以外は、編集部のメンバーがやりたいことを自由にやっています。


Q:今後、取り組んでいきたいことは何ですか?

いっぱいありますね。一番やりたいのは、リアルな場作りにもっと力を入れていきたいです。わたしは、1人の強いリーダーが街を変えるのではなく、普通の100人の小さなアクションの積み重ねが未来を創ると思っています。街のことや世の中のことって、自分1人ががんばってもどうせ変わんないよねって諦めるんじゃくて、自分も街を創る1人なんだっていう。そんな普通の人たちが気軽に入ってもらえるような対話の仕組みや場を作りたいなあって思っています。



▽アワードで「新しい仲間に出会いたい」

Q:アワード出展にあたって期待することを教えてください。

まずはテゲツー!を知ってもらうことですね。宮崎という陸の孤島で、こんな取り組みが生まれていて、実際に街が変化してきていることを知ってもらいたい。

あと、何も分からないなかで、手探りで進んでいるので、こうするといいかもとか、どんどんフィードバックもらえたら嬉しいなって思います。新しい仲間にも出会えたらいいなあ。


Q:自分以外の出展作品で、気になるものはありますか?

まずは、ヨッピーさん。ヨッピーさんの記事には、いつも根底に愛がある。あの企画力、コンテンツ力と編集力。本当に素晴らしいと思っていて、大好きなので、お会いできることが楽しみです。あとは、大好きなgreenzさんも。「赤ちゃんにやさしい国へ」も気になっています。そして、今年は、各地のローカルメディアが多いことも嬉しいですね。ローカルメディアで切磋琢磨して一緒に日本を盛り上げる仲間にも出会いたいです。


(JCEJアワード運営・田中郁考)

アワードは、作品の作り手と直接交流できる場です。「もっと作品についての話を聞いてみたい」という方は、是非会場にお越しください!チケットは、こちらのサイトからCチケットをご購入ください。学生の方は、学生証を持参していただくと入場無料です!