#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

報道を通じて拡散したトイレットペーパー不足の誤情報、「報じない勇気」を持てるか コロナとメディアのあり方議論

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)は Google ニュースイニシアティブの協力で10月5日、「新型コロナウイルス情報とメディアの信頼」と題して、オンラインセミナーを開催しました。パネルディスカッションでは、新型コロナウイルスの報道をめぐり、世界各国で共通して起きている課題などが議論されました。(JCEJ運営委員・新志有裕)

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パネルディスカッションの模様

セミナーでは、アジア太平洋地域7カ国で実施された「メディアへの信頼」の調査(一般公開なし)を報告。香港大学ジャーナリズム・メディア研究センター副教授の鍛治本正人さんが、調査結果の分析を解説しました。

さらに、専修大学教授で、ジャーナリストの澤康臣さんは、英国オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所の「デジタルニュース報告書2020」から、日本のニュース信用度について解説。ニュース信用度は世界的に少しずつ低下する中、日本でも2017年の43%から、徐々に下がり、2020年は37%になったことや、日本では他国と異なり、ニュースを知るための手段として、TwitterFacebookを凌駕していることなどを報告しました。

その後のパネルディスカッションでは、調査結果の見方や、日本の報道の特徴などについて、様々な意見が交わされました。

若者が右・左両方の情報を見ている、ということの意味

進行役のJCEJ運営委員・耳塚佳代が、今回の調査について、ニュース消費者の複雑な態度を浮き彫りにしているのではないかと問題提起しました。自身が現在留学で滞在しているアメリカを見ても、「デマを信じるのは若者」という一面的な見方ではなく、高齢者が誤情報を拡散しているという見方や、極右の陰謀論者が、政治的に右・左関係なくニュースをチェックしているという見方があるからです。

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耳塚佳代

鍛治本さんは、「いろいろな研究結果をみても、トピックによって全然違う。政治問題は年齢が上になればなるほど、誤情報を信じやすい、若者の方が右・左の情報を見ているという調査結果がアメリカではあります。でもコロナは逆で、若者の方がだまされやすいという研究もあります」と指摘。

 さらに、「若者は右の情報も左の情報も両方見ている」という調査結果についても、さらに詳細に分析すると、右の人は左の情報を攻撃するためにみている場合もあり(逆も同様)、「両方に接しているからバランスのとれた見方をしていると一概に言えるわけではない」と話しました。

香港でも日本と全く同じことが起きた

また、トイレットペーパー不足が世界中で起きたことを踏まえ、報道機関が誤情報を拡散することの副作用についても話題になりました。

鍛治本さんは、日本で2月末にトイレットペーパー不足の情報が広がる3週間前、香港でも全く同じ現象が起きており、政府、大手のスーパーマーケットチェーンなどが、在庫は十分にあるという情報を発信したものの、買い漁る現象は止まらなかったことを説明しました。同じことは、シンガポールやオーストラリアなどの各国でも起きました。そこにあったのが、報道機関が「消費者が列を作っている」「どこの店でも売り切れ」などというニュースを流し、ソーシャルメディアで拡散されたという構造だといいます。

 鍛治本さんは、困難なことだとわかりながらも、報道機関に対して、「無視する勇気」「飛びつかない勇気」が必要だと語っていました。

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鍛治本正人さん

異様なまでの匿名社会になっている日本のソーシャルメディア

さらに、TwitterFacebookを凌駕しているといった日本の特殊性についても話が及びました。

澤さんは、「ソーシャルメディアの使い方が異常なほど匿名よりになっている」ことが最も特徴的で、日本のニュース利用者は、シェアやコメント、いいね!を押すこと自体が非常に少ない国だと解説しました。

参加者から、そのような日本特有の行動特性があるにも関わらず、実際にシェアされているニュースは党派性が強いもの多いことについての質問が出ました。これに対して、澤さんは、「ロイターレポートのアンケートでは党派性を嫌う傾向が出ていて、シェアされているものは数少ないシェア好き」であり、「強めに意見を言いたい」マイノリティが存在していることを説明しました。

また、日本は感染者数の速報合戦が起きている、という参加者の指摘に対して、澤さんは「市民がいまどうなっているのかを考えうる材料があることは重要」としつつも、「そこにリソースを割きすぎじゃないかという議論はある」と語りました。

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澤康臣さん

どうリテラシーを高めていけばいいのか

どのようにしてメディアリテラシーを高めればいいのか、という参加者からの質問もありました。鍛治本さんは、メディアの人間が学校などに出向いて子どもたちに語る取り組み(例えば、日本では新聞業界のNIEなど)について、次のような見解を語りました。

「メディア側のニュースはこうやって作ってるんだよ、報道は一生懸命だよ、ということと、これだけやっているからもっと信じてくださいよ、という姿勢が透けて見えることも多い」

取り組みが成功したかどうかのバロメーターとして、どれだけそのメディアを見るようになったかを計測することは「ちょっとおかしいのではないか」と指摘しました。

さらに、「知識を高めるような報道をすることが一義であって、信じてもらえるかどうかはその次です。信用や信頼は感情的なもので、理性ではありません。政治家の発言でも、『あの人なら信用する』とか、『1個や2個発言を間違っても気にしない』という人は多い。信用の度合いと情報の精度にギャップがあります。それを踏まえた上でのメディアリテラシー教育だと思います」と語りました。

 

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