6月19日(金)〜6月21日(日)に行われる「ジャーナリストキャンプ2015浜松」を前に、過去のキャンプ参加者メッセージをお届けします。
2014年の高知キャンプに参加してくれた富谷瑠美さんは、日経電子版の記者などを経て、現在はフリーとして活躍されています。「設計図は雲の上 高知の九龍城『沢田マンション』」と「「書き捨て」られる苦しみ 部落差別は眠らない」を発表して大きな反響を呼びました。特に、「沢田マンションは」最も高いPVを獲得しています。富谷さんがキャンプに参加した理由は何だったのでしょうか。そして、そこで得た経験とは。
場所は高知、テーマは「自由」。募集要項を目にした時、何かの縁を感じました。
高知は、大学時代の先輩記者が若くして亡くなった場所です。病を押しての勤務後、不慮の事故死でした。なぜもっと早く記者職を辞めなかったのか。それは、一度そうした理由で辞めてしまえば、既存のマスメディアでは記者への道がほぼ絶たれてしまうからです。
ニュースを追いかけるのは尊いことです。でも、これからの記者はそれ以外のもっと自由な生き方もできるはずです。自分は今後、何を強みに物を書いていくのか。「自由」というテーマとリンクして、自身の方向性も模索したいと思い応募しました。▼公共性とPV 2つのテーマで二兎を追う
職業記者の経験はありますが、これまでルポについては書いたことがありませんでした。せっかくの機会なので挑戦してみたいと思い、ルポには定評のある依光デスクのチームを希望しました。
実は今回のキャンプで一番書きたかったのは、部落差別の実態でした。「まだ報じられていないことを取材し記事にする」のが記者の価値だと思っていますので、取り組み甲斐のあるテーマだと思いました。人権問題に直結するゆえ、マスメディアでは取り上げにくいテーマでもあります。おそるおそる、デスクの依光さんに切り出してみたところ、ニヤリと笑って「やってみたらいいよ」と背中を押していただけたのがありがたかったです。その一方で、ネット媒体の指標の1つであるPVも追及したいと思いました。「いい記事をただ出しておけば読まれる」というのは、ネットの世界では通用しませんし、公共性の高い記事が必ずしも読まれるとは限りません。部落差別は一般受けするテーマではないため、PVはあまり取れないだろう、という予感がありました。そこで見つけたもう一つのテーマが「沢田マンション」です。沢マンについては既にテレビで何度も放映されていますし、書籍にもなっています。でも、そこにまだ報じられていない情報(今回の記事では宿泊体験記や、高齢者の終の棲家になっている側面など)を加えてまとめれば、記事として新しい価値を出せる=読まれるのではないかと考えました。
▼忘れがたい取材経験に
一般的なマスメディアの記者は時間に追われていて、取材テーマを自由に設定して掘り下げる余裕は少ないでしょうし、かといってフリーランスになるときちんと査読してくれるデスクに恵まれるとは限りません。キャンプではその両方が担保されていたので、大変貴重な経験ができました。
取材自体も、忘れがたいものになりました。記者時代は企業取材が中心だったため、話を聞きに行って歓迎されこそすれ、嫌がられたことはありませんでした。
しかし部落差別に関する取材では、まさに「鼻先でぴしゃりとドアを閉められる」という経験を何度もしました。「触れられることすら嫌だ」という地元の方もいる中で、記事を出す意義はどこにあるのか。いや、出すからにはそれだけの価値がある内容にしなければ、と肝に銘じながらの日々でした。
▼60点狙いはボコボコに
キャンプ開催中は毎晩3〜4時間ほどワークショップの時間があり、各人のテーマ選択や見出しについて徹底的に討論されます。今回参加して意外だったのは、初日の「何を書くか」のテーマ発表の際、どこかで聞いたようなテーマ(確か人口減少関連だったと思いますが)を挙げてくる参加者がたくさんいたことです。紙面落ちはしないテーマかもしれません。ですが、こうしたどこかで聞いたような“60点狙い”の原稿は「つまらない」「東京にいても書ける」「何のためにキャンプに参加したのか」と運営やデスク陣、他の参加者からボコボコにされ、テーマ変更を余儀なくされること必至。これから参加する方は、ぜひ「まだ報じられていない事実を自分らしく」書くことを意識してみて下さい。よりキャンプが意義のある経験になると思います。
ちなみに「部落差別をテーマにします」と発表したところ、喧々諤々の議論が巻き起こってしまい、初日のワークショップの時間を8割がた使ってしまいました。今年は、これを超える議論を巻き起こすテーマの登場を期待しています(笑)▼署名記事でネットの洗礼を
キャンプで書いた記事は、ネット媒体に掲載されます。インターネット上に、署名入りで記事を掲載することには覚悟が必要です。一歩間違えば“炎上”しますし、反対につまらなければ黙殺されます。しかし、読者の生の声が届く、貴重な機会でもあります。取材して、記事を書いて、掲載後の反響を検証するところまでがキャンプです。ぜひ積極的に、その洗礼を受けてみて下さい。<プロフィール>
富谷瑠美
1983年埼玉県生まれ。外資系コンサルティング会社で全国紙のコンサルティング、日本経済新聞社 電子報道部で日経電子版テクノロジーセクションの記者を経て2014年よりフリー。リクルートテクノロジーズ経営企画室で広報も務める。<関連リンク>
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