#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

「心のざわめきに耳を澄ませ〜ソーシャルイノベーションは私から始まる」参加者報告vol.5

3月3日に東海大学で行った「ジャーナリスト・エデュケーション・フォーラム2012」の参加者報告。第五弾は、イノベーション井上英之さん(ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京 ファウンダー)による社会イノベーションのはじまり「マイプロジェクト」のセッション。報告は伊藤儀雄さんです。

社会起業・ソーシャルイノベーションの概略説明や、参加者同士による日常のささいな問題意識を発見するミニワーク、慶應大学で行なっているという「マイプロジェクト」の紹介など、多彩な内容に参加者たちは、熱心にメモを取っていました。

セッションでは、ホームレスが売る雑誌「ビッグイシュー」を例にあげ、社会起業の実例を紹介しました。路上生活者が街頭に立って雑誌を売ることで、1冊いくらという形で一定の収入が得られるようになり、家賃を払うことができるようになる。定住することで職安で書く住所を持つことができ、再就職への道が開ける。

また、毎日街頭に立つことで顔見知りができたり挨拶を交わしたりするようになる。一度、断絶された社会とのつながりを取り戻すことができるようになる。これらの方法論そのものが問題解決のパッケージとして成立している。

ところが、再就職した元路上生活者たちが、再び路上に戻ることも少なくないそうです。それは、彼らが路上生活者にならざるを得なかった社会そのものは変わっていないから。こうなると、ビッグイシュー1社だけでは解決はできない。行政やほかの企業、ほかのNPOなどとの連携、協力が必要になってくるといいます。

ホームレス問題ひとつを例にとっても、路上生活者を路上に戻さない全体のエコシステムを構築することが必要であって、その段階で多くの人が変化に加担することによって、色々な人々の「居場所」ができる。こうして社会全体が変革していく。それがソーシャルイノベーションだということです。

  • 「個人の心のざわめきは社会的な需要の始まり」

次に行ったミニワークでは、参加者同士で(1)「日常で気になったささいな問題」を互いに語り(2)その解決策を考えてみる。という作業を行いました。
代表して発表されたのは「東京には木が少ない。人が多すぎるのでいっそのこと東京都内の人口を制限しては」「満員電車でみんなイライラしているのが気になる。せめて吊り革を快適な柔らかい素材に変えてみては」といったユニークなもの。

このワークを通して、井上さんはソーシャルイノベーションにおける重要な視点を明らかにしていきます。社会的なミッションをどうビジネスにしていくかということ、対話や観察をすることで表層的な問題を掘り下げ、問題の構造や本質を明らかにしていくこと、会議の手法などにデザインやクリエイティビティーが重要だということ。

「個人の心のざわめきは自分だけのものではなく、社会的な需要の始まり」。と井上さんは述べます。一人が問題意識を持って解決方法を発表し始めれば、聞いた人が人を紹介するとか出資をするとか、何らかのことを付け加え始めて、アイデアが加速していく。「日本には変化を生み出すための条件は揃っている。何より、日本人はだいたいの人が『いい人』だから」と井上さん。

最後に、慶應大学の学生に始めてもらっているという「マイプロジェクト」を紹介。ミニワークでやったような「気になること」に手をつけて実際に挑戦をする。リサーチでもプチイベントでも何でも良く、リアルに繋げる取り組みです。

面白い例としてあげたのが「親国際プロジェクト」を掲げた学生の話。世界平和につなげようと思ったプロジェクト。よくよく考えてみると本当に解決したかったのは「父親とうまく話せない」ということだったのだとか。
学生がまずやろうとしたのが、人の話を聞くことの大切さが書かれた本をどうにかして父親に読ませること。リビングに本をわざとらしく置いたり、母親とうわさ話をしたりしたものの父親は興味をまったく示さない。悩んだ学生はアプローチを変えます。「父親の話を聞いてみる」。すると父親との関係が変わり始めたそうです。

「『私』という一人ひとりの存在が変化を生み出せる。社会を変革する火種は常に転がっている。個人が動くことで物事が変わり始める。私はそういう事例を沢山見てきているし、そう信じています」と井上さんは力強く語りました。

  • 私という個人は社会にどう立ち向かうか

ひとたび「社会起業」と聞くと滅私のボランティアといったイメージを抱いてしまうかもしれないですが、「私」の仕事が社会へとつながっているという意味では、アプローチの仕方次第で私たち一人ひとりが今の立場のままでも動き出すことができると感じました。私という個人が、社会のどういう課題に立ち向かい、どういう方法で解決しようとしているのか。何のために仕事をしているのかを、改めて再確認し、前向きになれたセッションでした。
(報告:伊藤儀雄)

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