3月3日に東海大学で行った「ジャーナリスト・エデュケーション・フォーラム2012」の参加者報告。第九弾は、コミュニケーションデザインの原田一朗さん(建築家・プロダクトデザイナー)による「コミュニケーションとものづくり」のセッション。報告は善名朝子さんです。
建築家としての原田さんは、一つのデザインを完成させるまでに、数限りないスタディ(模型)を作る。それもデザインの段階ごとに作る。構造を把握するために、外観を判断するために、あるいは素人には察しのつかない何かを追求するために、最終的なスタディの数は100にも及ぶ。
原田さんは建築物を「対話をしながら作り上げるもの」だと言う。
スタディは「対話のツール」と呼ぶ。原田さんのデザインがかたちづくられる上で、スタディとは、コミュニケーションの出発点であり、終着点でもある。コミュニケーションを大切にする原田さんだから、つないできた人びとがいる。
”魚のための建築物”水槽を手がけたときのことだった。プロダクトとして人様に使ってもらって大丈夫かどうか、水槽の素材・アクリル樹脂をあつかう専門家に尋ねた。それが株式会社さくら樹脂との出会いであり、原田さんのものづくりにおけるコラボレーションのはじまりだった。株式会社さくら樹脂は、各種プラスチック切削加工品の受託製造をおこなっている。
工場を訪ねると、様々な型を極小ロットから切り出せる機械が揃っていた。原田さんが質問や要望を繰り返すうち、技術工たちにも変化があった。BtoBで部品を受託し納品することを繰り返してきた彼らに、BtoCのプロダクト制作にアイデアレベルから関わり、悩み、考えるという工程が生まれた。
それまで、ものづくりのエスカレーションに組み込まれていては必要なかった工夫、気にしなかった外観を一緒に悩み抜いた。あるプロジェクトでは、原田さんの仲間の建築家とともに、技術工たちは深夜まで試行錯誤を繰り返していた。今では原田さんは、何か一つ作るごとに、他業種の人とコラボレーションすることにしているという。そのようにしてきたことで、自身もデザイナーとして多角的なアプローチができるようになったと感じているのだそうだ。そしてコラボレートした相手方にも新たな発見をしてもらえること、それが、原田さんの喜びだという。コミュニケーションは、単なる意思疎通の手段ではない。原田さんが考えるものづくりの意義、楽しさ、好奇心に不可欠なもののように思える。
ものづくりから様々な人に出会い、つながること。家を建てるときも水槽を作るときも、原田さんはその過程に何よりの喜びを感じているのかもしれない。(報告:善名朝子)
【セッション関連情報】
【参加者報告】
- 「データジャーナリズムは仕事の基本」(萩原雅之さんの「マーケティングリサーチの最新手法をジャーナリズムに活かす」)
- 空即是色=ブランド?「仏教用語をマネージメント用語に置き換える」(浄土真宗本願寺派光明寺僧侶の松本圭介さん)
- 「有意義なワークショップにするために大切な4つのこと」(石村源生さんの「参加者の相互支援ネットワーク構築のためのワークショップデザイン」)
- Googleがジャーナリズムへ参入?「データ・ジャーナリズムがもたらす4つの変化」(八田真行さんの「データ・ジャーナリズムの現在と未来:海外事例から学べること」)
- 「心のざわめきに耳を澄ませ〜ソーシャルイノベーションは私から始まる」(井上英之さんの「社会イノベーションのはじまり マイプロジェクト」)
- 「王道を疑え ソーシャルメディア時代の企業と個人のコミュニケーションとは」(熊村剛輔さんの「ソーシャル メディアの使い方なんて誰が決めた?」)
- 「ニュースほど有力なコンテンツはない」J-CASTニュース編集長が語る成功の条件(大森千明さんの「編集長生活15年〜新聞・雑誌・ネットと転身〜」)
- インターネットによる「現実」拡張を支える3つの要素(森正弥さんの「変化するウェブ、変化する我々自身」)