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空即是色=ブランド?「仏教用語をマネージメント用語に置き換える」参加者報告vol.2

3月3日に東海大学で行った「ジャーナリスト・エデュケーション・フォーラム2012」の参加者報告。第二弾は、イノベーション松本圭介さん(浄土真宗本願寺派光明寺僧侶/蓮花寺佛教研究所研究員)による仏教用語をマネージメント用語に置き換える」のセッション。報告は川田のりよしさんです。

仏教の経典というのは、如是我聞(かくの如く我聞けり)で始まると聞いたことがある。お釈迦様が生きているときには、まだお経はなく、お亡くなりになったあとで、弟子たちが集まってお経をつくるさいに、十大弟子のひとりで多くの説法を聞いた阿難尊者がこのように語り出してできたとか。レポートを担当するときにそんなエピソードを思い出して、書き出す前から落ち込んでしまいましたが、どうぞお読み下さい。

午後のワークショップは、テーマごとに3つの教室に分かれて行われた。
イノベーション分野の2つ目は「仏教用語をマネージメント用語に置き換える」。
実際は、マネージメント用語を仏教用語に置き換えるお話だったのだが、まずは、後半のワークショップで提示されたマーケティング用語を挙げておこう。
実にオーソドックス、これって基本だよねという言葉が並ぶ。

1.CSR 2.ニーズ 3.マーケティング 4.ブランド 5.戦略 6.CRM

しかし、これらを仏教用語に置き換えてみてと言われたときには、どんな言葉にすればよいのか戸惑ってしまうことも事実。仏縁薄い衆生としてはなおのこと。
なんとも食べあわせの悪そうな仏教とマネージメントこの2つの素材を、どううまく調理してみせるのか。ひとつ目のワークショップの熱が冷めないなか、次々に人が入ってくる。追加で机とイスを出しての満員御礼状態となった教室に、参加者の期待がうかがえた。
僧衣をまといMacのノートブックを抱え教室に入ってきたのは、浄土真宗本願寺派の僧侶である松本圭介さんだ。
松本さんは、神谷町にある光明寺に所属している。
お寺カフェ「Kamiyacho Open Terrace」、お坊さんのホームパーティというライブイベント「誰そ彼(たそがれ)」、インターネット上の寺院・彼岸寺など、日本の仏教界にイノベーションを起こしている中心人物。マネジメントを学ぼうとインドの大学に留学してMBAを取得したという。

東京での有数の繁華街である六本木のそばに建つ光明寺。境内には、街頭の喧噪から隔絶された静かな空間が広がる。「この気持ちがいい、多くの人に使ってもらいたい」。
そうした思いを住職にぶつけてみると「本堂は、いつでも開いている。うちはオープンな寺だ」とのこと。オープンにしていても人の姿はない。「お参りにきてください」といっても、難しいことは分かっていた。

そこで、松本さんは、知り合いからもらった椅子やテーブルをテラスに置いて、入口にイーゼルに黒板をたてかけ「お寺カフェ」と案内を出してみた。
すると、どれどれとのぞく人が現れ、次にはその人が友人と連れ立ってと、数日の後にはたくさんの人で賑わうスペースとなった。カフェといっても、飲食の提供は予約した人のみ、持ち込みもオーケーだ。「カフェ気分でお寺にきてほしい」という松本さんのねらいは見事に的中した。

お寺には人はいないが、周囲のカフェには人があふれている。「カフェにいくという行動のフレームを、お寺へ人を導くことに利用できないか」と松本さんは考えたのだという。
お寺カフェの手伝いをしていたもとニートの"店長さん"は、いまでは本職のお坊さんになって、お寺カフェにて悩み相談もしているとのこと。ひとりの人を変えたという点も、お寺カフェの大きな成果といえるだろう。
お寺カフェの取り組みは、大きなコストをかけたわけではなさそうだ。設備は譲り受けたものだし、宣伝をしたわけでもない。アルキメデスのてこの支点となったのは、<ネーミングによって、文脈を組み変えること>という発想だ。

続いて紹介された築地本願寺での音楽イベントにも、ネーミングの妙があった。
このイベントを実現するにあたり松本さんには、異なる2つのタイプの人々を納得させる必要があった。
ひとつはお寺カフェのような気楽なノリできてもらうオーディエンス。もうひとつは築地本願寺という大舞台を使うだけの価値がある新しい取り組みであることを理解させなせければならない宗派のなかのエライ人たちだ。
イノベーションを起こそうと動き出すときに、一般の支持を得られるかどうかと同時に、組織のなかの人の協力を得られるかどうかは多くの人が直面する課題だろう。

松本さんたちが考えた音楽イベントの名称は「他力本願でいこう」。「他力本願」とは、一般には「他人任せ、他人頼り」という意味あいで誤って使われがちだが、ほんとうは浄土真宗の核となる教義をしめすことばのこと。
浄土真宗を信仰している人であれば異議を唱える余地がなく、同時に一般の人には「ゆるふわ」なノリがたっぷりと漂っている。「他力本願」という言葉のダブルミーニングをうまく活かした名称なのだ。

そうしてはじまったワークショップ「釈迦に説法」

設定はこうだ。あなたは「お寺の経営を専門とするコンサルタント、ビジネスマネジメントの視点からクライアント寺院の経営を変革することを期待されている」人物である。クライアントは、ビジネス用語になじみがなく、そもそも寺院の運営自体をビジネス用語で語ることに反感をもっている住職。その住職へ、カタカナの用語をつかわずにマネジメントに理解してもらう。そのために「CSR」「ニーズ」「マーケティング」といった用語を、仏教用語へ置き換えてみよう。

冒頭のマーケティング用語を、松本さんが置き換えてみせたのがこちら。

1. 企業の菩薩行(CSR) 2. 苦(ニーズ) 3.抜苦与楽(マーケティング) 4.空即是色(ブランド) 5.方便(戦略) 6.対機説法(CRM

笑い、仏教用語の意味がよくわからないとまどい、さまざまな反応が出たが、「本質を考える事になるんだ」というある参加者のつぶやきが耳に残った。

JCEJのホームページ、トップを飾る大きな画像のなかに「伝わらなければ始まらない」とある。イノベーションの現場でも、これがなければ始まらないのが「伝える技術」。既存の組織の論理をも換骨奪胎していくしなやかさをもったコミュニケーションの必要性を感じさせるワークショップだった。
(報告:川田のりよし)

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