#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

「普通」の中にイシューを見いだす ソーシャル時代の「伝える」方法 -参加者レポート(1)

誰もが発信できるソーシャルの時代。どうすればより付加価値が高く、読まれる記事が生み出せるのか。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が7月6日に行ったワークショップ筆者と読者が一緒に考える「伝わる記事の書き方」の参加者レポートをYahoo!トピックス編集者の伊藤儀雄さんに書いていただきました。議論を通じての気づきや学びを紹介して下さっています。ぜひご覧ください!

YouTubeには毎分100時間以上の動画がアップロードされる。Twitterの国内総ツイート数は月間20億件に迫るという。ニュースはネットで毎日数千本配信されるし、もちろん新聞も雑誌もテレビもある。一生かかっても消費しきれないコンテンツが日々、生産されている。

東日本大震災については、各メディアがストレートニュースからルポ、連載企画まで、大量に伝えてきたはずだ。SNSやブログで個人の発信もある。そう考えると、ジャーナリストが今、震災後の福島について書くことは少ないのではないかという気もする。

そんな状況で、ジャーナリストキャンプでは、記者や編集者たちが自ら所属している組織での業務とは離れて参加した。彼らがどういう問題意識を持って取材と執筆にあたったのか、また取材の過程で何を考えたのか。そこに「情報爆発時代」のコンテンツのあり方のヒントがある気がして、会場に足を運んだ。


◆「とにかく空振りをしろ」。

『どこにも行けない、ここにも居られない』フィリピンパブと仮設住宅で揺れる女性たち」を書いた菅原聖司さんは、「新聞では書けない記事を書こう。そうでなければウェブ業界にいる自分が参加している意味がない」と意気込んでいた。そんな菅原さんに、朝日新聞依光隆明デスクは「とにかく空振りをしろ」と伝えた。

菅原さんは、当初「外国人と日本人のあつれき」をテーマにしようと思っていたという。ところが実際に話を聞くと、日本人はとてもよくしてくれるという。思っていたあつれきはなく、前提が崩れた。まさに「空振り」だった。

キャンプの期間中、いわき市の繁華街でフィリピンパブに通い、フィリピン人女性と話し込んだ。3日間に渡って話すと関係性が変わっていく。「私たちは『たけのこ』みたいなもの」。印象的な言葉が彼女からこぼれた。

菅原さんは3日間のキャンプが終わった時「これでは記事を書けない」と思ったそうだ。「何が問題なのか」自分の前提が何度も崩れていた。それでも東京に戻り取材の録音を文字に起こして行く中で、「個人としての彼女たちの話を書きたい」という思いになってから楽になった。書き上げた原稿をデスクに送ると、3分後に返信があった。「面白い」。間違っていなかったな、と思った。

◆ソーシャル時代におけるジャーナリストの役割とは
ワークショップでは、参加者が記事の執筆者に直接意見をぶつけた。菅原さんとは別のテーブルでのディスカッションで、ある参加者の意見が印象に残った。

SNSとかで普通の人の話って浴びるほどみている。そういう時代にジャーナリストが普通の人の話を書くことにどんな意味があるのか。波乱万丈のハードルが上がっている。それぞれが自分自身の『プロジェクトX』を持っている。記者の記事であれば、普通の人の話の中にもイシューを見いだして提示する視点をみたかった」。

確かにそうだ。SNSで自分について語る人はたくさんいる。本人の生の言葉なのでリアリティもある。世の中の課題を提示して、解決に導くことができてこそ付加価値の高い記事と言えるのかもしれない。

一方で、SNSをやっていない人や注目されない人の体験を記録し、光を当てる作業だけでも価値がある。イシューを設定するのは記事を書いた本人ではなく別の人がやってもいいだろう。菅原さんの記事の中でも、国際交流協会に寄せられた在留外国人の相談が震災後に増えているとの記述があり、参加者からそこを掘り下げることもできるのでは、という指摘もあった。

筆者と読者が意見を交わすことで、新たに見えてくる課題もある。今回、ダイヤモンドオンラインに掲載された記事を比較すると、ソーシャルで拡散されたものとPV数は必ずしも相関しないという興味深い結果もあった。Twitterでのコメントを見てみると、手厳しい意見も数多くあった。

◆読者との対話から議論を喚起する。そして「伝える」には

仮説に固執せずに丹念に取材し、前提を壊して事実に基づいたストーリーを作ること。読者とのコミュニケーションの中でイシューをより明確化させ、議論を喚起すること。今回のワークショップを通してこの2点が、重要だと感じた。

ただ一方で、それが出来ているからといって、必ずしもネット上で「読まれる」「伝わる」とは限らないということもある。今回の記事群のPV数やシェア数を見てみると、内容よりも「見出しの引き」が強く影響しているような印象を受けた。この点をどう乗り越えるかについては、今回議論あまりできなかったが、どのようにコンテンツに接触させるかが重要になると思う。

大きな気付きと宿題をもらったワークショップだった。

(伊藤 儀雄)

【関連リンク】<ダイヤモンドオンラインに掲載した記事一覧>
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