#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

ニュースを「他人事」で終わらせない データジャーナリズム報告会レポート(1)

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が10月に開催した、英米データジャーナリズムの調査取材報告会の参加者レポートを、湯浅拓さんに書いていただきました。

私は普段、オンラインジャーナリズムやデータジャーナリズムに関する情報収集を行い勉強している傍ら、ネット選挙分析チームに所属していたり、風営法改正に関する問題に足を突っ込んでいたり、はたまたリサーチデータチェックの業務にも携わっています。いつもはオンライン上でデータジャーナリズムに関する情報を収集しますが、今回は英米のデータジャーナリズムにオフラインで触れたJCEJ運営委員の報告を聴くために参加しました。

まず印象に残ったことは、赤倉さんによるNew York Times(NYT)「Toxic Waters」の報告にあった「データジャーナリズムはニュースを機能化させ、『自分事にさせる』」ということでした。NYTのプロジェクトについて、

  1. 2000万件を越えるデータの処理や分析を行ったことで、水質汚染の現実が浮き彫りになった。
  2. ビジュアライゼーションにより状況がわかりやすく解説され、読者へ届けられた
  3. 自分の地域は水質汚染地域なのかを検索することができる仕組みを開発したことで、ニュースが機能化し、読者が記事を読むだけでなくニュースを「自分事にする」ことができた。
  4. 結果として、2000件を越える読者のコメントが寄せられ、飲料水に関する規制強化にもつながった。
  5. このプロジェクトは大きな反響を呼んだことから、IRE Medalという調査報道のアワードを受賞。その際には記者だけでなく、データアナリスまで受賞者に名を連ねており、データジャーナリズムにおけるチームの重要性を反映している

という点が特徴として紹介されました 。

データジャーナリズムが始まって以来、多くの試みがニュースとして発表されてきましたが、その中にはシェアされずに本来の伝えるという役割が失われてしまった報道もあるでしょう。木村さんによるイギリスのMedia Wales(MW)「Children in Care」の報告によると、この報道が社会的影響を与え、2013年のデータジャーナリズムアワード(DJA)も受賞したものの、シェアなどはほとんどされていませんでした。実際にサイトにいってみると、Tweetは5回、Likeは2回でした。実際、私が最初にこのニュースを見た時内容が分からなかったため、発表の翌日にウェールズの友達に内容を問い合わせたところ、こんなニュースがあったのか、という具合でした。

世界的にスマートフォンタブレット端末が流通し、PCに取って代わろうとしていて、尚且つ、ニュースにアクセスするタイミングは主に移動中という人も増えていると思います。そのような背景の中で、NYTのような仕組みを開発することは、ニュースを流通させ、人々をつなげるためにも、これからのジャーナリズム機関にとって非常に重要なツールかつ重要なきっかけ作りになっていくと感じました。
NYTやMWのプロジェクトが社会的波及効果を生むきっかけになったこととして忘れてはいけないのは、情報公開請求という地味かつ丹念な作業があり、記者が素晴らしいストーリーを作り上げたということでした。つまり、これまでのジャーナリズムプロセスも当たり前にできていないと、データジャーナリズムは形だけで中身のないものになってしまうということを我々は常に意識しなければならないでしょう。

また、海外では日本に比べれば実践は進んでいるものの、未だに欧米のメディア機関でもデータジャーナリズムは一般的でないという指摘も印象に残りました。従来の形から抜け出せないメディア機関も多々あり、日常の業務に追われて、新しいことへの取り組みがなかなかできない現実もあるのでしょう。

課題として感じたのは、現状から良くしていくためにも今後、データジャーナリズムを実践するためのワークショップの運営と在り方は非常に重要になってくるのではないかということです。
個人的な肌感覚ではありますが、報告会を拝聴していてオーディエンスのレベルが様々で内容がどうしてもジェネラルになってしまった雰囲気を感じました。例えばデータジャーナリズムのための「基礎的なスキル」という言葉が使われていましたが、データジャーナリズムを知らないジャーナリストの人たちからすると、なにが基礎的なスキルなのかと疑問に思ってしまうでしょう。逆に、より具体的な必要スキルに関する内容や具体的なアイデアソン、ハッカソンを各国はどのように運営していて、それを日本的にアレンジしていくためにどうすればいいのかということが聞きたかった方もいるかと思います。これらの問題を解消するためにも、今後はワークショップで取り扱う内容、話のレベル、行う作業をより細分化し、より多くより蜜なワークショップをJCEJに限らず開催していくことが必要なのではないでしょうか。

私自身も、これからのデータジャーナリズムのために、事例を探求していきながら、ワークショップ運営にも携わり、よりニュースを自分事にするにはどのように活動していけばいいかを今後も考えていきたいです。(湯浅 拓)

JCEJでは事例を紹介するだけでなく、アナリスト・エンジニア・デザイナー・ジャーナリストの異業種チームで実際に取り組んでみる「データジャーナリズムキャンプ&アワード2013」も開催します。データジャーナリズムを通じて社会を少しでも良くしたい方、新しいことにチャレンジしてみたい方、ご応募をお待ちしています。
詳しい開催概要、お申し込みは、特設サイトからお願い致します。締め切りは11月15日(金)に迫っていますので、お早めにご応募下さい!<関連リンク>