#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

ノーカットで伝えるニュースの魅力 〜ニコニコ生放送の達人が指南〜

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)は1月12日、ワークショップ「記者諸君!動画ニュースを『ネット中継』してみよう!」を開催しました。株式会社ドワンゴが運営するニコニコニュースの前編集長で、現在フリージャーナリストの亀松太郎さんを講師に迎え、生中継ならではのニュース発信術についてお話しして頂きました。

■別の場所からネット中継で登場

講師の亀松さんが開会時刻になっても会場に現れず会場が騒然としていると、突然モニターに映像が映ります。なんと、亀松さんはニコニコ生放送で中継しながら登場したのです(下の写真)。その後、会場に現れた亀松さんによるニコニコ動画の概要についての説明の後、ニコニコ生放送がどのように使われているか、過去に実際に放送された動画を用いて解説して頂きました。

まずは、東日本大震災の発生2週間後に仙台市若林区を亀松さんご自身が生中継した動画が再生されました。津波によって被害を受けた住宅街の様子を映した映像の上に、驚きや悲嘆のコメントが流れていきます。亀松さんはニコニコ生放送による災害報道と、テレビのニュース報道との違いについて以下のように話しました。番組の丈に合わせて数十秒で次々と流される映像ではなく、被災地の一変した光景がどこまで続くのかを30分から40分かけて見せることで、視聴者がよりリアルに新鮮な印象を持って受け止めることができます。またコメントを動画上に表示することで、視聴者の心理を映し出すことができます。

一方、被災地で生中継した際の課題点として、東北地方では震災前からネット環境のインフラがあまり整っていなかったことに加え、インフラが津波で破壊されてしまったために、被災地のほとんどの場所ではインターネットが繋がらなかったことを挙げました。

■生放送でないのに視聴数が多いケースも

震災関連の放送だけではなく、芸能ニュースのような分野にもニコニコ生放送の強みは発揮されています。2011年8月の島田紳助さんの芸能界引退会見では、会見の主催者側がマスコミによる生中継を禁止したため、ニコニコ生放送もリアルタイムでは中継できませんでした。しかし、収録映像を終了後に配信したところ、高い再生数を記録しました。

この最大の理由がテレビにはない強みである「ノーカット放送」であると亀松さんは言います。視聴者は配信者による編集の手が加えられていないノーカットの記者会見映像を求めてニコニコ生放送にやって来るとのことです。しかも、この場合、ニコニコ生放送より先にテレビでたくさんのニュースが流れていたため、それらが結果的に予告編のような効果を発揮して、ノーカット放送への呼び水となったそうです。

また、ニコニコ生放送は政治分野での利用も広がり始めています。2010年11月に行われた小沢一郎氏のネット会見は、当時検察審査会の起訴議決が行われた頃であり大変注目されました。他のメディアの取材を一切受けなかった小沢氏が顔出しの場にネット生放送を選んだ理由が「ネットの生中継の形でやってもらえれば編集されないでやってもらうことができる、自分の主張が制限されることなく伝えられる」ことでした。

現在ニコニコ生放送には政治系の番組も増えてきており、小沢氏のようにテレビよりネット生放送のほうが主張が伝わると考える政治家もいます。このことが象徴的に現れたのが昨年末の総選挙前に行われたネット党首討論会であり、安倍晋三氏がネットで党首討論を放送することを提案した背景にはこのような事情がありました。

■視聴者の反応自体がコンテンツ

ネット生放送では、視聴者との双方向性が強いことも大きな特徴です。昨年6月に流した朝日新聞の赤田康和記者とニワンゴの杉本誠司社長との対談番組では、特定のテーマに関する視聴者コメントや、その場でアンケートを取ることを通じて、視聴者の反応を見る方法が取り入れられました。視聴者の反応を取り込み、それ自体をコンテンツとしていくやり方は、ネットの持つ双方向性という特徴を上手く生かしたものであると同時に、マスメディアが最も苦手とするものだそうです。

最近ではテレビ番組でもツイッターのつぶやきを画面上に流したり、番組に連動したスマートフォンアプリを使用したりといった工夫も増えてきていますが、まだ及び腰であったり、つぶやきなどを編集することもあるため、ネットの双方向性にはどうしても劣ります。ニコニコ生放送では、既存のマスメディアとインターネットという媒体がうまくマッチすることに成功しており、亀松さんによれば「本格的にやるならばマスメディアがネットを使ってやっていったほうが面白いのではないか」と話しました。

以上を踏まえ、亀松さんはネット生中継の特徴を、

  1. 双方向性
  2. リアルタイム
  3. ノーカット・編集なし
  4. スポンサーの縛りがない
  5. テキストも使える
  6. リンクが使える
  7. 小規模な機材と人で実現可能

とまとめました。

■誰でも、どこでも生中継が可能な時代に

今後のネット中継について、亀松さんは次の2点を指摘しました。

1点目は、ネット生放送のスマートフォン対応が進むことで、どこでも生放送を見られる時代が来るだろうということです。現時点では回線やハードの性能面などスマホで生中継を視聴するにはまだ課題がありますが、いずれ機器が進化して対応していけば、どこでも生中継を見ることができる環境が増えていきます。

もう1点は、中継機材の改良、回線環境の低価格化により、誰でも、どこでも中継できるようになることだと言います。こちらは生放送を発信する側の視点であり、生放送をする敷居が低くなることで、新たな取り組みが生まれる可能性も期待できます。

質疑応答のコーナーでは、会場からたくさんの質問が出ました。1つ紹介します。あるニュースサイトの編集者から、「テキストのニュースサイトと動画を組み合わせたときに、あまり動画が長いと見てもらえない。テキストのニュースサイトで動画を長く見てもらえるコツは」という質問が出ました。これに対し、亀松さんは「編集された動画と生中継の動画はかなり性質が違う。そもそもアーカイブされた動画というのは見られないほうが多い」と説明しました。動画に編集の手を加えるのか、加えないのか。編集の手を加えることが当たり前だったマスメディアの情報と、ネット生中継との発想の違いが改めて浮き彫りになりました。

■「ツッコまれやすい生放送」を企画

イベントの後半では、講演でお話しして頂いたネットの特徴を生かし、「ツッコまれやすいニュース生放送」をテーマにネット生放送の企画を考えるワークショップを行いました。タイトル・媒体・企画内容・対象者の4点を軸にして複数班に分かれて議論し、ネット生放送ならではの個性的な企画案が数多く生まれました。

ある班は「全国紙特ダネバトルロワイヤル」と題し、各全国紙の記者が特ダネ記事を持ち寄って取材プロセスなどをアピールし、トーナメント形式で戦うという企画を提案しました。討論の様子を生放送で流すだけでなく、視聴者のコメントにも対応していただき、最終的にどの新聞が良かったかを記事の内容だけでなく、コメントへの対応も含めて視聴者にアンケートで決めてもらう、と報道の裏側とネット生放送の特徴を大胆に組み合わせた企画内容となりました。

別の班は、東日本各地の市民を巻き込んで各地の放射線量を測りに行く「除染測り隊が行く」という企画を提案しました。東日本の住民が線量をデイリーで測って放送するほか、被災地のがれきの線量も測定して、紛糾しているがれき受け入れ問題にも踏み込んでいきます。また除染作業の手抜き処置が大きなニュースとなったため、「除染なう」として除染現場の様子を生中継したり、正しい除染をした結果を記録するアーカイブを作ったり、除染済の箇所などを記録した除染地図を提供したりするなど、様々なコンテンツを含む企画でした。この企画について亀松さんは、「マスメディアでの扱いが低くなっているものを継続的にやっていくというのは、コストをかけないという点で非常に良い」と講評しました。

また生中継をするに当たって、遠隔地への取材は移動という点にもコストがあるため、色々な地方から生放送をやることはそれだけで価値があることだと話しました。こうした取り組みは生中継で完結しなければならないわけではなく、テキストを中心とした情報発信の中にアクセントとして加えてみるというやり方もある、と生中継の使い方について解説して下さいました。

発表された企画案について、亀松さんは「特徴を捉えた面白いアイデア」と評価し、気軽にできるのがポイントの生放送なので、ぜひこれを機会に思いついたらやってみるということを実践してほしい、と話しました。

最後に亀松さんは、この日に用意された機材は亀松さんがドワンゴを退職することを決めてから2ヶ月ほどで用意したものであり、ドワンゴで生放送をしていた時にも中継そのものはスタッフに任せていたため、技術としては「素人」であることを明かしました。また機材の価格もほとんどがパソコンよりも安価で揃えられるほどのものであることや、持ち運びも小さなスーツケースに収めてできることから、「それはつまり、中継はどこにでも行ってどこからでも中継できるということ」「自分の持っているパソコンとカメラをつなぐというくらいから始めたら色々できるのでは。ぜひぜひやって頂けたら」とネット生放送への挑戦をおすすめして下さいました。

今後2回に渡って参加者レポートを公開する予定ですので、ぜひ御覧ください。

(学生運営委員・高橋真歩)

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