#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalist)の活動を紹介しています!

声なき声に寄り添うための「聞く力」とは 「東北ローカルジャーナリスト育成事業」レポート

相手の想いを受け止めて発信するための第一ステップは「耳を傾けること」。鎌倉幸子さん(アカデミック・リソース・ガイド・ストラテジスト)は、取材で本音を「聞く」力を養うためには、相手の心を開くための心構えや、日々のトレーニングが大切だと話します。「東北ローカルジャーナリスト育成事業」(取材で話を聞き出す力)での鎌倉さんの講義詳細をお届けします。

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声なき声に光を当てる

ジャーナリストの仕事は、声なき声を伝えることだと思っています。社会で起きていることを発信したいと考えたとき、いかに「声なき声」に光を当てていくかがとても大切です。

社会の中で、声を発したい人はたくさんいると思います。光が当たっている方もいれば、社会問題の当事者になって苦しんでいるのに、どうやって声を発すればいいの分からない、「発していいのか」すら分からない人がたくさんいると思います。

そういう「声なき声」を拾い、目を向けられるような姿勢で臨むのが、まさに「読者」と「メディア」の間にいるジャーナリストやライターの役目ではないでしょうか。

例えば、東日本大震災で多くの方が亡くなりましたが、自分の悲しみを人に言うことができない方々は多くいらっしゃると思います。私も震災後に岩手県で勤務していましたが、話を聞いていいのかな、と躊躇してしまうこともあると思います。でも逆に聞くことによって、相手が自分の気持ちを適切に表現できたとき、心の中のもやもやが晴れる、という場合もあると思います。

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「聞く」と「聞き流す」は違う

その人が「話したい」と思っていることを受け止め、発信していくために、まず一番最初のステップは「耳を傾けること」です。

齋藤孝さん(明治大学文学部教授)という方が『話し上手聞き上手』という著書の中で 、「聞いた」の基準は、話を要約してポイントを落とさずにもう一度繰り返せるか、つまり「再生できるか」が聞いたことの証明になる、という趣旨のことを書いています。

「あーそうですか」と聞いておきながら、結局自分の頭に何も残っていなければ意味がありません。「聞く」と「聞き流す」は違うんですね。

話を聞くとき、前提条件として「私以外はみんな他人である」という認識が大切です。取材をお願いする人も、記事を読んでくれる人も、基本的には赤の他人。自分が「分かったぞ」と思っても、理解しきれていないことは多いので、適切な質問をしながら、確認するという作業が必要です。

取材する前にできること

取材というと、とにかくインタビューして人の話を聞くことだと思われがちですが、その前にできることがあります。

1: 情報収集

事前に情報を集めることもとても大切です。

まずは資料を探し、調べるのが1つの方法です。もちろん自分で行けない場合もありますが、今は最低でもインターネットで調べられますし、図書館でも多くの資料が手に入ります。

東日本大震災で被害を受けた場所に記者が来て、「被害はどれくらいひどいんですか?」から始まったら、取材を受ける側は「この人は何をしに来たんだろう、心を寄せてくれてないな」と感じると思います。

また、現場に足を運び目で確かめると、空気感などを事前に知ることができます。私は、インタビューが始まる1〜2時間前にはそこへ行って、相手が暮らす街を歩いてみたり、公園のベンチに座ってみたりと、空気を肌で感じることを大切にしています。

2. 相手の関係先を洗い出す

取材で取り上げたい人がいたら、その人が何をしているかだけでなく、その人を取り巻く関係性の全体像を捉えることがとても大切です。

例えば、取材したいAさんには、対立しているBさんがいるかもしれません。それには何か理由があるはずです。Bさんを無視するのではなく、Bさんが何を考えているかを考慮した上で、Aさんと話をするのが大切です。

まずは、自分が取材したいトピックを真ん中に置き、関係する人たちを洗い出してみてください。そうすると、見えなかったつながりや問題点が見えてきます。

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質問の作り方:瞬時に5つ考えるトレーニング

みなさんもインタビューの際、質問は箇条書きで準備していると思います。ただ、事前に考えた質問にパッと答えてもらえて「良かったな」と思いつつ、「本当にこの人は言いたいことを言えたのかな」と思うことがありませんか?

質問を作る側は、案外「自分本意」の質問しか考えられないんですね。相手の内面を引き出すような質問ができれば、結果も違ってくるかも知れません。

取材中にアドリブで質問を作るのは難しいですが、私は「聞いたことに対して、10秒で5つの質問を作る」というエクササイズを実践しています。これは取材だけでなく、日常のコミュニケーションにも役立ちます。

例えば「昨日、お母さんと買い物に行ったんだ」という何気ない一言に対して、「どこのショッピングセンターに行ったの?」「何を買ったの?」「気に入ったものはあった?」「いくら使った?」「車で行ったの?」と、質問は限りなく作れます。実際に聞く、聞かないは別として、この方法で練習して習慣化すれば、次の一手が浮かんで、会話が途切れません。

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 分かったふりをしない

準備して臨んでも、相手が話したトピックについて知らない、ということも取材ではあり得ます。例えば、取材相手が「私の子供は●●という病気です」という話をしたとします。聞いたことがない病名だったら、どうしますか?

病気のことは聞きづらいので、メモしておいて後で調べるのが良いでしょうか。ただ、正しくメモを取れていなくて、あとで調べてもでてこない、となってしまうかもしれません。「そうなんですね、大変ですね」と言っても「あなた本当に分かっているんですか?」という雰囲気にもなってしまいます。

こういう場合は「不勉強で申し訳ないのですが、教えてください」と聞いてみるのが良いと思います。少なくとも「●●という病名ですか?」と固有名詞を確認した方が良いでしょう。

聞きにくいことでも「私は向き合います」という姿勢で、真摯に掘り下げて聞いていく方が、「この人は耳を傾けてくれる、味方になってくれている」と共感されることが多いです。

分からない単語が出るとギクッとして、止まってしまいますが、逆に学ばせてもらいながら、相手と対話できれば良いのではないかと思います。

 相手の呼吸に合わせる

インタビューをする際、どんなに丁寧な言葉遣いをしていたとしても、貧乏ゆすりをしながらふんぞり返って聞いていたら、心を開いてもらえません。取材する側の「姿勢」もとても大切です。

声の質やトーンも重要。相手の呼吸に合わせて呼吸をしてみてください。そうすると、良い間で話を切り出せたりするので、私は意識しています。声のトーンも、話の内容や相手の声に自分から合わせていくことが大切です。

よく「スマイルが大切」と言いますが、話の内容によって、スマイルしてはいけない時もあります。表情も、話している方を見ながら意識してみましょう。

自分が相手に同調しつつ、「ちゃんと話を聞きに来ました」という姿勢を見せることが一番です。人間は、視覚から入る情報が大半を占めます。どれだけ洗練された質問をしても、ぶっきらぼうだったり横柄な態度だったら、その場でシャットダウンされてしまいます。

 2種類の聞き方テクニック

聞き方には、Passive Listening(受動的傾聴)と Active Listening(積極的傾聴)の2種類があります。どちらが良い、悪いということはなく、場合によって使い分けると効果的です。

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Passive Listeningは、基本的に相手の話を黙って聞く手法です。

もちろん、頷いたり「なるほどそうなんですね」などの相槌はして頂いてかまいません。普段みなさんがやっているのは受動的な聞き方だと思います。頷きながら聞いてもらえると、嬉しくて話してしまいますよね。まだ心の準備ができていなくて、たくさん質問をされるとプレッシャーを感じる人もいるかもしれません。

一方でActive Listeningは、誤解なくきちんと理解できるよう、絶えず相手に内容を確認しながら聞く手法です。

①相手に共感する ②相手が言ったことをオウム返しする ③質問をする、の3つを意識してください。

例えばAさんが「この前評判の店に行ったんだけど、すごく味が濃くて食べられなかったよね」とつぶやいたとします。

Paassive Listeningだと「へぇ、そうだったんだ」で良いのですが、Active Listeningの場合は「それは残念だったね」と相手に共感を示します。

そして「味が濃すぎると、食べられないよね」などとオウム返しをします。少し言い回しは変えますが、相手の言ったことをコピー&ペーストする感じです。

これは「あなたが発したメッセージを受け取りましたよ」という証明であり、「正しく理解していますよ」という確認にもなります。これをやると、「実は味が濃いというより、素材の味が生きていないから美味しくなかったんだよね」など、違う部分が問題の焦点だったのか、という場合もあったりします。

さらに、「塩分が多い食事を控えているの?」など、何でもいいので質問を入れます。話を膨らませることが大切だからです。

この3点を適切に入れていくと、何が話の焦点なのか、自分がきちんと理解できているのかを確認しながら取材を進めることができます。

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  取材の「クロージング」

取材の最後に、聞いた話をまとめることも重要です。「今日はありがとうございました。これから記事にしようと思いますが、●●のことを強くお話し頂いたのが印象に残っています」「ここが1つ目のポイントでしたよね」など、取材の「クロージング」として話を要約します。その場でポイントを確認でき、相手も「ちゃんと聞いて、大切なところを押さえてくれている」と案外嬉しかったりします。相手が実は違うポイントを強調したがっていた、という場合もあります。

取材というと身構えてしまいますが、日々のトレーニングが大切です。マラソンも、練習せずに42.195キロは走れません。友達や家族との会話の中で、少しずつ取り入れてみてください。

「奇跡も語る者がいなければ、どうしてそれを奇跡と呼べるだろう」という言葉もあるように、誰かが記録し、発信しているからこそ、私たちは知ることができます。しっかり聞き、文章として世界に残していくことに、取り組んでいただければと思います。

 

<講師プロフィール>

鎌倉幸子かまくら・さちこ):米バーモント州のSchool for International Trainingで異文化経営学修士。1999年、公益社団法人シャンティ国際ボランティア会カンボジア事務所入職。図書館事業課コーディネーターとして500を超える小学校に図書室を設置する。東日本大震災の後、岩手県沿岸部で「いわてを走る!移動図書館プロジェクト」を立ち上げる。2016年1月、アカデミック・リソース・ガイドのリレーションズ・ストラテジストに着任。自身でもかまくらさちこ株式会社を立ち上げ代表取締役

 

<講座で使用した資料はこちらからご覧いただけます>

www.slideshare.net

 

 

本講座は、復興庁の「新しい東北 情報発信事業」に選定された「ローカルジャーナリスト育成講座」の一環として行われています。