#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

まだ書かれていない「空白」を見つけて欲しい 開沼デスクからジャーナリストキャンプ挑戦者へのメッセージ

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が4月29日から開催する「ジャーナリストキャンプ2016石巻」。全国から集まった記者が、第一線で活躍するデスク陣と共に熱い議論を交わし、学び合います。どんな挑戦者を求めているのか、震災から5年が経った宮城県石巻市で開催する意味をどう捉えているのか、デスクたちに伺いました。

インタビュー第一弾は、福島から問題提起を続けている社会学者・開沼博さん。表面的な、わかりやすい記事にするのに都合のいい話を拾うだけではなく、まだ書かれていない「空白」を見つけて欲しい、と話します。


▽物事の本質を忘れるな

Q.今年の舞台は宮城県石巻市です。初めての土地で記事を書くには、どう切り込めばいいのでしょうか。

事前準備が全てと言ってもいいでしょう。全く知らない土地に、全く何を深掘りするのか用意しないまま外から行って、意味ある記事として成立させるのは、いくら取材・調査能力がある人でも難しいです。事前にできる範囲で情報を集めて、何に注目するのか決める。地元のキーパーソンや深掘りしがいのある対象を見つけ、そこを通して、まだ書かれるべきなのに書かれていない「空白」を見つけることが重要です。

ものによっては、オンライン上でネタを調べただけでも9割以上、物語の輪郭を描くこともできるでしょう。実は状況を分析して全体像を描くために必要な情報の大部分は公開情報だったりする。その情報をだれも掘り返していないだけなのに「情報が隠蔽されている」なんて言われることも少なくないですからね。私が調査の対象にしている福島に関するネタだってよく「情報が隠ぺいされている」などと言われていますが、それは大嘘です。調べてないだけなのに「隠蔽されている」と言って済まそうという怠慢があまりに多い。

状況を把握する上で必要なことの9割は情報公開されています。その情報に振り回されること無く、物事の本質がどこにあるのか、知ろうとする作業を事前に忘れずにやっておくべきです。

Q.掲載媒体はYahoo!ニュースですが、何を意識して記事を書けば良いでしょうか。

まず読まれること、読んだら面白いと思ってもらうことです。読者からの反応がダイレクトに分かるので、書く側のモチベ―ションは上がると思います。その一方で、紙媒体ほど訴求力はないとも思います。ウェブは蓄積性があるといわれていますが、見ている人しか見てない上に、何も考えずに書いたら多様な情報のなかで埋もれてしまう。埋もれないようにどうするのか。その工夫の仕方は様々でしょうが、まさにキャンプはその厳しさに向きあわせてくれる場になるでしょう。

Q.開沼さんは何度かデスクを務められています。キャンプでは、具体的にどんな学びが得られるでしょうか?

「おもしろいけど、事実が伝わっていない」というテーマや内容をどう記事に落としこむのか、切り口や情報発信の仕方を学び、体現していく場だと思います。途中まで読んでオチまでわかってしまうような話、factよりもopinionやjusticeが先行する話はいりません。ある人や場には「当たり前の話」でも、外から見たらそうではない事実がある。その「情報ギャップ」のど真ん中に身を置いたとき、人は興味を惹かれるし、成長もできます

普段属している組織の外でネットワークが広がるのも、キャンプの意義だと思います。きっと新しいつながりができるでしょう。



▽自分の中の「確証」を壊せ!

Q.最後に、キャンプ挑戦者に向けてメッセージをお願いします!

机上の空論は現場を前にして砕けます。取材をすれば自分の思い込みは常に裏切られるものです。バイアスをもって自分の中の確証にあう都合のいいデータを拾うだけならわざわざ現場に行く必要もない。自分の中の「確証」をどんどん壊していってください。同じ被災地でも福島のことは長らく見てきましたが、石巻のことはよく知らないので、どんなテーマが飛び出してくるか楽しみです。


開沼博デスクプロフィール>
福島大学特任研究員。1984年生まれ、福島県出身東京大学大学院学際情報学府修士課程修了後、同博士課程在籍。復興庁東日本大震災生活復興プロジェクト委員。著書「『フクシマ』論 原子力ムラはなぜ生まれたのか」が2011年、毎日出版文化賞を受賞。その他著書に『はじめての福島学』『漂白される社会』『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』など。

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