#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)の活動を紹介しています!

巨大市場の「波」を見極めろ ウェブで価値ある記事を届ける方法

良い記事を書いても、伝わらなければ意味がない。情報が溢れるインターネット上で、読者に記事を届けるにはどうすればいいのか?

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が4月29日から宮城県石巻市で開催した「ジャーナリストキャンプ2016石巻」で、JCEJ藤代裕之代表は「どうすればウェブで良質な記事を届けられるか」について講義を行いました。藤代代表は、筆者の「関心」と「ゴール」が明確でなければ、良い記事は書けないと指摘。その上で、ウェブという「巨大マーケット」の波を見極め、的確なタイミングで記事を出す必要があると訴えました。急速に関心が薄れる被災地からの発信を考える上でも、重要な視点です。

以下は、藤代代表の講義内容です。

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良い記事に必要なのは「自分の関心」と「ゴール」

良い記事を書く上で、「なぜ書いているのか」と、「どんな社会になって欲しいのか」の2つは絶対に必要です。面白おかしい記事は一時的に読まれるかもしれないけれど、賞味期限が短い。社会に価値がない記事は、誰も幸せにならないし、書き手は上達しません。 大事なのは、皆さんと同じ関心を持つ読者がいること。そして、読者が何を得るのか。これがなければ、すごく読まれても「一発屋」で終わってしまいます。最初の「関心」がないと、絶対その先へは行けません。

その上で、書き手はなるべく読まれる確率を向上させることを考えなくてはいけません。そのためには、ターゲットとなる読者が何に興味を持っているかを考えることや、「この読者層には必ず届く」という確信も必要です。

ニュースをウェブに書くのは「農業と同じ」

記事の価値は、読者やマーケットが決めます。僕はイチゴが好きなんですが、今はイチゴのシーズンが終わりでとても安い。この時期に出しても高く売れないですよね。「そろそろイチゴのシーズンだな」という時期に合わせて出せば、ちょっと高いけど春の気分を感じるし買おうかな、となります。

「ニュース出し」は農業と同じで、我々はニュースの生産者だと言えます。(キャンプの記事が掲載される)Yahoo!ニュースは、巨大なマーケット。Yahoo!トピックスに掲載されるのは(1日約4000配信記事のうち)80〜100本です。ウェブには「波」があるので、早く出し過ぎても取り上げてもらえないし、全然読まれない。季節が終わりかけのイチゴと同じですね。

新聞はお米のように政府が一定料金で買い上げてくれるようなもので、マーケットに閉塞感があるから、新しい米のブランドが出なかったり、ちょっとパッケージを変えたようなものしか出てこないのです。一方でネットは、競争の非常に厳しい市場です。

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 王道とは違う視点の記事を「波」に乗せる

波が大きすぎるタイミングで出せば、小舟はひっくり返ってしまいます。どうすれば記事を読んでもらえるか。ウェブでは、盛り上がっているタイミングで「まだ誰も書いていない記事」を市場に出すことが重要です。

年明けに長野県でスキーバス転落事故があり、たくさんの犠牲者が出ました。その時に僕が書いた顔写真の記事は良い例です。これはヤフーのトップに採用されました。

事故当時、マスメディアは次々に記事を出していましたが、現場や被害者の状況を書いたものがほとんどでした。ウェブを確認すると、犠牲となった学生の写真をソーシャルメディアから「引用」して報道したことに対して批判が起きていました。他の報道とは違う問題意識で書いたのがこの記事です。

マスメディアの「引用」についてはずっと問題意識を持ってきましたが、通常時に記事を出しても、読まれもしないし取り上げてもらえません。マーケットの状況を把握して、大波が来ている時に書く必要があります。

「小さなマーケット」に絞って書く手法

一方、規模は小さくても「この読者には必ず届く」という層に向けて記事を出すこともできます。アクセス数より、「きちんと書いてある」「興味深い」と思ってくれる人を一定層作ることが大切です。

熊本地震の時に『被災者に必要な情報が届くよう「速報系ニュース」のソーシャル拡散を控えよう』という記事をYahoo!個人に書きましたが、トップにも取り上げられず、全く読まれませんでした。熊本地震という大波は来ていましたが、ウェブはソーシャルメディアを止めることには興味がありませんでした。関心は、現地の被災状況や支援の方法でした。

この記事は、マスメディアの記者やネット担当者(という小さなマーケット)に向けて書きました。幸い、マスメディアからは取材があり、朝日新聞の耕論に取り上げられました。新聞社や通信社からも依頼がありました。市場を観察した上で、その(主な)マーケット以外に自分の伝えたいことを届けるという手法です。

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 普遍的なテーマに落とし込む

自分ごととして読んでもらうためには、普遍的なテーマと絡めることも重要です。顔写真については、マスメディアの「引用」、ソーシャル拡散については災害時の情報のあり方という普遍的な問題意識が横たわっています。

今回のキャンプの舞台は石巻ですが、震災から5年が経ち関心が薄れる中で、どうすれば震災を伝えていくことができるのでしょうか。

例えば、キャンプ期間中に宿泊しているホテルの方と話したとき、「震災復興が一息つき、今後の客層が読めない」と言っていました。震災前、震災後、今では、客層ががらりと変わり、誰を対象にビジネスをするのか見えないというのです。

これは客層の変化に対し、地方の小さな宿がどういうビジネスチャレンジをしているのか?という視点に落としこむことが出来ます。多くの人(読者)はビジネスに携わっていて、興味があるからです。震災とは別のテーマを絡めることで、「読んでみよう」と思わせることができます。

キャンプ前日に行われた津田大介さんの講義では、熊本地震とつなげることで東日本大震災への関心を高める、という話がありました。でも熊本地震でさえ、すでにネット上の関心は下がっています。「復興」「震災」というキーワードは当然あるけれど、それ以外の普遍的な面白さや社会課題にテーマを着地させる必要があると思います。

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