#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

垣根は全部なし、イノベーションが生まれる「文化祭」 メディアコンサルタント・境治さんが体感したジャーナリズム・イノベーション・アワード

前回のジャーナリズム・イノベーション・アワードで、パネルディスカッションのモデレーターを務めていただいたコピーライター・メディアコンサルタントの境治さんにインタビューしました。アワードを「いい意味で"文化祭的"」と表現し、「あの場でないと味わえなかった空気があった」と振り返ります。また、正義感が過剰というジャーナリズムのイメージが変わり、「素朴に疑問を極めていくことが原点だと思った」と言います。記憶に残った作品についても聞いたほか、話はジャーナリズムのこれからやステマ問題に及びました。「谷口マサトさんやヨッピーさんの動きを見ていると、30年くらい前の糸井重里さんと重なるところがある」と語る真意とは。
※アワードは2016年3月12日(土)開催。チケットはこちらのサイトからCチケットをご購入ください

▽「いい意味で"文化祭的"だと思った」

Q:前回のアワードで、いろいろな作品が出てきたと思いますが、振り返ってみて印象に残った作品はありますか?

ドラッグストアとジャーナリズムというテーマでやってる人がいて、これはぜんぜん知らなかったんですけど、すごくびっくりしました。写真を撮ろうとしたら写さないでくれ、匿名じゃないとだめだからって言うんですよ。インサイダーだから言えることがあって、インサイダーだから匿名でネット上でやる意義がある。こういうのも一種の大事なジャーナリズムだなと思いましたね。




Q:他にはいかがでしょう?

やっぱりいいと思ったのは、ヨッピーさんの活動。あとは、実際に賞を受賞した、首都大学台風リアルタイム・ウォッチャーが、すごいと思いました。ほかにもテクノロジーが生きてる展示があって、"ジャーナリズムイノベーション"という点からすると、それはすごく大事な軸なんだなと思ったんですよね。

今まで作り手が職人気質で自分の感覚と経験値だけでやっていたことの良さは絶対あるんですけど、それだけじゃない要素をテクノロジーはもたらしてくれていますよね。そのイノベーションというのも何もたくさん資本を投資しなくてもいい。エンジニアとジャーナリストが出会えばできるわけで、そういった出会いはどんどんやっていくといいなと見ていて感じました。


Q:現場の雰囲気についてはどう感じられましたか?

ジャーナリズムにとってのイノベーションってどういうものなのか、参加する前は正直イメージしづらかったんですが、参加してみるといい意味で"文化祭的"だと思ったんですよ。いい意味のアマチュアリズムというか、個人や有志がやるべきと思ったことをやっている。思っていた以上にみなさんすごくイキイキしていて感動しました。

大手メディアの人も大手メディア然としていないというか、テクノロジーをうまく生かしていて、大手メディアにとっても一石を投じるものになっているんじゃないかと思うんですよね。

大げさに言うと2015年1月のあの瞬間のあの場じゃないと味わえなかった空気がそこにはあったんじゃないかな。みんな一斉に並んだアマチュア感っていうか初々しさというか、あのときだけだったんじゃないかな。




Q:アワードを通じて「ジャーナリズム」という言葉の印象は変わりましたか?

ジャーナリズムってこんなに広いんだって思ったんですよね。ちょっと偏見もあって、今までのジャーナリズムはちょっと正義感が過剰な人みたいなイメージがありました。そうでなくて、素朴に自分が思った疑問を極めていくことがジャーナリズムの原点なんだなって思いましたね。


Q:アワードが境さんの普段のお仕事や活動に何か影響を与えましたか?

簡単に言うと、ぼくもがんばろうと思いました(笑)。僕はメディアに関して原稿を書いてるんだけど、それと別に子育てに関してもPRESIDENTやハフィントンポストなどで書いていて、子育ての方をもうちょっと僕なりにがんばろうかなって。僕は保育園反対運動の取材とかもしていて、保育園ができるということについて何か背中に押したくて取材に行くんだけど、そんな簡単ではなくて、反対してる人たちもすごいエネルギーで反対している。下手に書いたら、紛争をややこしくするだけ。

だから取材して思ったことをそのまま書くんじゃなくって、もっと上位概念的な世論づくりみたいのをしないといけないのかなと思ったんですよ。直接的な個別の問題のことを言うんじゃなくて、個別の問題を知った上で、上位概念のメッセージを僕が発したり、言ってほしい人を動かしたり、そういうことが必要なのかなって。空気みたいなものを作るしかないんじゃないかなって。

それを僕がいま思えるのは、ネットがあってソーシャルメディアがあるから。10年前だと、テレビ局の友達に相談しようかとかそういう話になってたと思うけど、それは意外に難しい。ソーシャルメディアには"空気"を動かす具体的な力がある気がしますね。




ステマ問題「解決しないとジャーナリズムも成り立たない」

Q:この1年間でメディアやジャーナリズムに関して、気になる動きは?

ぼくはベースが広告屋なんで、ステマの話がずっと気になっています。スマートフォンが主体になったときにバナーはもうもたないと思うんですよ。ちょっと記事を開くとスマホの3分の1がバナーで記事が読めないよ、とかね。これでまともな広告商品って言えない。広告主も小金なら払うんだろうけど、これに価値があるから何百万円払おうってならないですよ。こんなことやっていたら、マスメディアもネットメディアも下手すりゃ共倒れですぜって。

そこをどう解決するのか、みんな本気で考えないといけないのに、ネットメディアの人もどこか軽く見てるところがあって、だからステマ的なことをしちゃっている。短期ではいいのかもしれないけど、長期的にはどうなるの。そこを解決しないとジャーナリズムも成り立たないんじゃないかな。


Q:解決の道筋や方向性は見えていますか?

明確な答えではないけど、方向的にはやっぱりネイティブ広告なんだろうなって思います。記事と広告に明確な境があってやってきたのがこれまでのメディアで、それはそれで紙や電波でうまくいっていたわけですよね。でも、それはこの100年くらいの話。これからはそうじゃないやり方も考えないといけない。広告と記事がはっきり境目がなくても、ちゃんとモラル的にも成立する形を作れたらそれがベストじゃないでしょうか。

本当は広告って、コンテンツでもあったはずで、だからこそ分けてもよかったんですよ。分かれていても広告は広告でおもしろいからって読んでもらえていたからね。でも今はもう広告は"お知らせ"になっちゃっている。そこをもう1回、僕たちは考えなおすべきなんじゃないかな。

大手メディアも、そしてマスメディア中心に広告を作っていた僕たちみたいな人も、みんなでそういう垣根ぜんぶなしにして、どうやったら良い広告が成立するだろうということをみんなで考えないと行けないんじゃないかなって思うんですよ。




▽アワードは将来「広告部門」も?

Q:アワードもそういった課題も含めて考える場になればいいなと思います。
そうですね。まだ早いかもしれないけど、将来的にはアワードでも広告コミュニケーションみたいな枠ができたらいいかもしれないですよね。谷口マサトさんやヨッピーさんの動きを見てると、30年くらい前の糸井重里さんと重なるところがある気がする。糸井さんも最初の頃は旧広告制作業界からよく分からないことをやってるって言われたりしていたみたいなんです。でも若い人たちから支持されて、そのうち糸井重里やっぱりいいんじゃないかという風になっていったと聞いたことがあります。


▽「大きな声を出そう」

Q:アワードに期待することや、来てほしい人はいますか?

とにかく知らなかった活動を知りたいです。ソーシャルが発達してるからたいがいの人の活動は見ていたりするんですけど、去年のドラッグストアの方もぜんぜん知らなかったですし、こういう風に情報発信してる人いるんだという発見があったらうれしいです。

Q:埋もれてる活動がまだまだあるはずなので出てきてほしいです。そういう方々へのメッセージをもらえませんか?

"大きな声を出そう"って言いたいです。ソーシャルで拡散したらかっこいいんだけど、そのためにも自分の存在をもっと打ち出していった方がいいことあるんじゃないかな。あるいは自分の存在をもっと前に出さないと自分の活動が評価してもらえるものなのか分からなかったりするし、どうなのかなって思っているんだったら前に出ていってみようよ、そんな風に思います。

(JCEJアワード運営・田中郁考)


来年3月12日に開催する「ジャーナリズム・イノベーション・アワード2016」は、今回で2回目。作品の作り手と受け手が直接交流し、優れた作品をみんなの投票で選ぶイベントです。組織や業界の垣根を越えて、切磋琢磨する仲間と出会い、語り合える場にしたいと考えています。ぜひ、あなたの作品を応募してみませんか。この作品が良かった、という推薦も受け付け中です。※応募は終了しました※

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