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#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)の活動を紹介しています!

「怒らせてもいい」 開沼流・予定調和でない物語を引き出す取材 ジャーナリストキャンプ2014・学生密着ルポ(2)

ジャーナリストキャンプ

 「相手を詰まらせても怒らせてもいい、予定調和ではない話をしながら物語を引き出すしかない」。デスクの開沼博さんに取材経過を報告する吉本紀子さんは黙り込んだ。しばらくして、「私は面白いと思っても、読者の予想を超えていないということですか」。静かなカフェに、吉本さんの声が小さく響いた。

▼高知で「予想外」の移住者を探せ
海外ボランティアやフランス留学、高知県・土佐山での生活など幅広い経験を持つ吉本さん。「暮らし方や住み方がもっと多様で自由でもいいのでは?」。そんな思いからキャンプでは「移住」をテーマに決めた。高知といえば海と山に挟まれ、自然豊かな土地だが、ここに移り住む人はそれだけを求めて来るのだろうか?というのが吉本さんの問題意識だ。
“ありがち”なイメージではない移住者を探す。「これが経験を積んできたプロの視点なんだ」。いつか記事を書く仕事をしてみたいと思っている私は、取材に同行できることにわくわくしていた。
だが、このあと私は、彼女が“ありがちでない”と感じたはずのテーマがことごとく一刀両断されてゆくのを目の当たりにすることになる。

▼「突き抜けないと面白くない」 容赦ない開沼デスクの指摘
はじめに来たのは高知駅前にある観光案内所「とさてらす」。移住総合案内所があり、行政の担当者が家族連れの相談に乗っていた。移住者には30代から40代の家族連れが多く、最近は震災を理由に移住してきた人もいるらしい。それまで当たり前と思っていたものが崩れ、新しい生活を探してやってくるのだという。

ライターや雑誌編集部で働いた経歴を持つ吉本さん。真剣な表情で話を聞き、メモを取る。かと思えば明るい話題には時折笑顔で取材者と楽しそうに話している。どちらかと言えば人と話すのが苦手で緊張しがちな私にとって、記者の取材はとてもまぶしいものに見えた。

取材を終えると、駅の高架橋下のカフェに偶然デスクの開沼さんがいて、取材の成果を報告することになった。 
震災がきっかけで高知に移住してきた人がいるという話を聞いた開沼デスクは、矢継ぎ早に突っ込みを入れていく。例えば、ワーキングプアだったり、仕事に満足していなかったり…震災の影に、ほかの理由も隠れている場合もあるのでは?という仮説を吉本さんに投げかけた。

「私の知っている人は都市型ライフスタイルに対する不満もあったと思います」。吉本さんが答えると、開沼デスクの表情が厳しくなった。
「それは聞かなくても、想像できる」
畳み掛けるような指摘が続く。
「そうでなくて、震災のときにパニクって移動したら上げた拳を振り下ろせなくなった、とか、来てみたら高知のほうが儲かることがわかったとか、そういう背景なら面白い」
「だいたいの人は、都会で働きたいというのがある。そういう人たちを説得できる材料がなくてはダメ。そうでなければ『そういう人もいるのね』で終わってしまう」
「変な宗教みたいに突き抜けないと面白くない」

震災、ワーキングプア、外国人…ともすれば「タブー」に触れることも覚悟しなければならないという開沼デスクの話に、そこまでギリギリの記事が本当に書けるのかと、私まで途方に暮れた気持ちになってしまった。

「引き出しを新たに開けておくことが大事。何重にもねじれた物語、たとえば自然との共生とかエコとか言いながら、放射能に汚染されてもなおそこで暮らす人がいる。そのエクストリーム感を表現できるか」
そう問われた吉本さんは、スペイン人店主が経営する料理店や、県庁前の国際交流協会などに赴き、外国人など様々な属性の移住者を探そうとしたが、納得するようなストーリーに出会うことはできていないように見えた。

▼あいまいな問題意識 見えなくなった仮説
その日の夜の全体議論では、参加者がそれぞれのテーマを発表して議論を行った。夜の議論はキャンプの恒例で、時にテーマそのものが覆される。吉本さんの設定したテーマについても例外なく厳しいコメントが飛んだ。

同じチームのある参加者は「仮説を立てておくことが大事」と吉本さんにアドバイスした。「この人をずっと取材したらこういう結果を得られるだろう、というのを考えて当たらないと、記事のオチや構成がまとまらない」。吉本さんは、まず仮説を立てて進めるというやり方は「想定していなかった」と驚いた様子で、「今から新しいストーリーの仮説を立てる時間がない」と困惑しているようだった。

それまで黙っていた開沼デスクから一言が飛び出した。
「あなたの問いって何?」
「移住は一枚岩じゃないのではないか、ということです」
「どう一枚岩じゃないのか説明しないと意味がない。『一枚岩じゃない論』は重要だが、それを語るのなら強度に作られているイメージをどう壊すかを考えないといけない。でもそれは、そのイメージがある程度見えていないとできない」。
その後も議論は続いたが、多くの人に指摘を受けて、次第に吉本さんの考えも深まっているように見えた。
(JCEJ学生運営委員・高橋 真歩)

<公開中の吉本さんの記事>
原発避難による移住者の暮らしから学ぶ、「住み方」を選ぶこと

<学生密着ルポ第1弾>
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