#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

失われた20年はなかった!? 常識を覆したデータジャーナリズム大賞の作品とは

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が昨年末に行ったデータジャーナリズム・アワード2013の様子をレポートします。アナリスト×エンジニア×ジャーナリスト×デザイナーがタッグを組んだ異業種10チームから、会場の投票で大賞に選ばれたのは?ヤフーニュース編集部の伊藤儀雄さんによる取材・執筆です。

大賞を掴んだのは「希望ある2014年を」との言葉でプレゼンを締めたチームでした。

バブル崩壊後の経済低迷期を示す語とされる「失われた20年」。ウェブ検索をすると650万件以上がヒットします。Wikipediaにも項目が立っているし、メディアで目にする機会も多い。言葉として浸透してしまっていれば、この20年が「失われていたこと」は常識で、疑うべくもない前提として語られていたのかもしれません。

▼個々の価値観を軸に、固定化する言葉を紡ぎ直す
その状況に「本当なのか?」と疑問を投げかけたのが、チームGgの作品、『失われた20年』は本当なのか。何が失われたのか?」です。全10チームが5分間のプレゼンを行う今回のアワードで、8番目に登場しました。


かわいらしいキャラクターが投げかける質問に答えていくと「失われた指数」を算出してくれる仕組み。「経済」「生活環境」「健康・福祉」などさまざまな指標における20年間のデータを比較し、どのデータを重視するかによって、自分にとっての「本当に失われた20年だったのか」を可視化してくれます。
たとえば株価や失業率は悪化しているものの、経済指標の中でも改善しているものはあるし、環境や健康などのデータはほとんどが改善傾向。「失われた20年」という「定説」を個々人の価値観で見直すことができる新鮮な作品でした。

▼「NO」と言わない異業種のプロ4人組
チームのメンバーは「大賞は狙いに行きました。いかに面白いタイトルの作品を作れるかを最重要視しました。まずタイトルをブレストで出していって、5つに絞った候補の中から、1か月という期間の中で最大のインパクトを残せるこの題材を選んだ」。と「狙い通り」の受賞であったと喜びを語ります。「チームメンバーに恵まれた。絶対にNOと言わずにどうしたら実現できるかを考える4人で、最大の勝因は偶然のチーム分けだったのかも」と笑顔で話しました。


コンテンツをただ閲覧するだけでなく、訪問者に「質問に回答する」というアクションを求めるこの作品。作品公開後、「○○点だった。結構失われている」。「○○点なので全然失われていない」。など自分の結果をTwitterなどでシェアする行動が見られました。
メンバーは「反響があって嬉しい。データの扱い方に疑問があったらぜひ『反論』してほしいです」と話しました。どの指標を選ぶのが良いかという点について、メンバーの中でも葛藤があったようです。「たとえば『性差』の項目で、女性議員の割合と女性管理職の割合の指標を扱いましたが、それが性差の改善や悪化をもっともよく表してるデータかというと疑問もあると思います。そういう疑問をぶつけて文句を言ってくる人がいないか期待している部分もあります」と強調しました。
(写真は大賞のチームGgの皆さん。左から、アナリスト・五味馨さん、ジャーナリスト・伊藤大地さん、エンジニア・堀池昌史さん、デザイナー・清水淳子さん)


▼新たなニュース表現を提示する作品たち 広がるデータジャーナリズムの裾野
大賞以外にも「Suica履歴販売は何を誤ったのか」は、ソーシャルメディア上の口コミを適切に分析したことが評価され、イベントに協力して下さった株式会社ホットリンクからの特別賞を受賞。ほかにも「乳がん検診 『命の格差』」は乳がん検診の受診率について、地図上で格差を可視化。非常に公共性の高いテーマを扱い、アワードの投票数では2位を獲得。また地域の課題とその解決策を集積し、検索可能にする「Local Hack」は、デモサイトという位置づけながらデータジャーナリズムの可能性の広がりを印象付けました。


一方で、「わかりやすさ」や「結果のインパクト」などの面で反省を口にするチームも。キャンプに参加したチームは、顔合わせからわずか1か月。短期間での作品作りに苦労しながらも、異業種のプロ同士との真剣な時間の末に出来た作品を発表し終え、充実した表情を見せていました。

オープンデータやデータジャーナリズムの取り組みは徐々に広がっています。朝日新聞「データジャーナリズム・ハッカソン」を2月から3月にかけて実施することを発表しました。今回のキャンプ&アワードに参加したメンバーや出品作品に触れて刺激を受けた人々が日本のデータジャーナリズムの担い手の一人になっていくのかもしれません。
(伊藤 儀雄)

【全作品が見られます】
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アワードに出品する作品作りに挑んだデータジャーナリズム・キャンプ2013の様子を、2回に分けてお伝えしています。