#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

データジャーナリズムで広がるニュース表現の可能性 データジャーナリズム報告会レポート(3)

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が10月に開催した、英米データジャーナリズムの調査取材報告会のレポート第3弾を、記事データベースや金融・経済情報の提供業務に携わっておられる野上佳織さんに執筆していただきました。

今回のイベントは、データジャーナリズムの先進地のアメリカとイギリスのメディアにおける取材報告がテーマであり、現地を訪問したJCEJ赤倉さん、木村さんの報告は資料も含めて緻密で丁寧であり、取材した内容を漏らさず伝えようとの強い熱意が込められていました。また、最後のディスカッションでは、ファシリテーターの方の鋭い切り込みで話し手と聞き手の間の情報のギャップが埋まっていき、得るものが多く、大変有意義でした。
データをビジネスとして取り扱う、私個人の立場から感じたことを率直に書きたいと思います。

データジャーナリズムの「奥深さ」
まず、「データジャーナリズム」という一言で、現在その周辺で起こっていること、可能性などを含めた全てを表現するのは本当に難しいと感じました。赤倉さんも仰っていましたが、データジャーナリズムには一言では説明しきれないほどのバラエティに富んだ取り組みや奥深さがあるとは、このシンプルな言葉からは想像もつかないのではと思います。

JCEJが昨年開催した、オープンデータを利用したデータジャーナリズムのワークショップや、今夏に開かれた、ネット選挙を題材にtwitterやLINEなどのソーシャルメディア上のデータを分析した結果の講演に参加して、様々な事例を伺いました。
それらで見聞きした情報を踏まえた結果、データジャーナリズムにおいては、「データをどのような視点や角度から分析すると良い知見を得ることができるのか」かがポイントであり、問題意識を出発点にして、いかにしてニュースを探すか、あるいはデータ自体をまずは分析し、その結果得られた知見(相関関係など)から掘り下げていくなどの手法を、優先してマスターする必要があると思いました(分析ツールの使い方も含めて)。

■データの可視化だけじゃない、多様な表現手法
今回、更に驚嘆したのは「分析手法」の重要性もさることながら、「いかにデータジャーナリズムが表現手法を多様化しうるのか」という点についての可能性です。データをビジュアライズ化するだけではなく、ニューヨーク・タイムズToxic Waters(汚染水域)の記事にある、読者にニュースを「自分事」として捉えてもらうためのインタラクティブな見せ方をしたり、ツールなども作ることができるというのは驚きでした。
私はデータベース化した記事や、金融・経済情報を提供する仕事に携わっており、業務上、データをそのまま提供するだけでなく、分析の結果という新たな付加価値をつけて提供する、ということ自体をビジネスにしなければと考えていましたが、データを活用した何かを作ることもビジネスに結びついていきそうだと直感しました。
データを分析、可視化したものを提供するだけでは、ただ見た目が綺麗なだけで、ぱっと見「おっ、凄い」だけで終わりがちですが、そこからニューヨーク・タイムズの例にあるような、データから読み取れる新たな事実も提供したり、それぞれの利用者が求める情報を検索できるようなツールを作ってしまうとか、営業促進や業務管理などのシステムとそのツールを連携させるとか、そういう活用方法もなかなか面白いかもしれません。

■身近なテーマから実践を
データジャーナリズムをどのように普及していくか」という点については、イベント終了後にお話しした芸能系の記者さんが、「知ってもらうための最初の掴みとしては固いテーマよりも、柔らかく、意外性のあるテーマをもとにした方向性のほうが面白いかもしれない」とお話されていました。
イベントの最初に、日本経済新聞社データジャーナリズムの取り組みでAKB48の総選挙の結果予測の例が紹介されましたが、確かにこんな面白いことが分かった!とか、どうやら自分たちのビジネスに何か役立たせそうだ、とか、身近な好奇心からのアプローチが、どんなテーマでもニュースになるよい糸口になりそうです。

いままでに参加した皆さん含め、基本ジャーナリズムに関心のある方に多くお会いしましたが、なにか新しいことをしよう、作ってみようと感じる方であれば、データジャーナリズムは、チームメンバーと協力し合いながら楽しく何かを生み出せるジャンルに違いないと思います。(野上 佳織)

<関連リンク>
データジャーナリズムに見る報道イノベーション――英米から学ぶ最新知見CEJの赤倉優蔵・木村愛が英米で敢行した調査取材の報告会の様子をSynodosに寄稿しました。
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