#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

「スーパーマンはいらない」チームで挑むデータジャーナリズム 「ジャーナリストキャンプ福島2013」学生密着ルポ(2)

5月上旬にJCEJが福島県いわき市で開催した「ジャーナリストキャンプ福島2013」。前回のブログでは、キャンプ参加者・新志有裕さんの取材に学生が同行した様子を密着ルポ第1弾でお伝えしましたが、今回は、JCEJ運営委員・赤倉優蔵デスク率いる「データジャーナリズム」チームの取り組みの様子を、ルポ第2弾としてお届けします!


近年、海外だけでなく日本でも脚光を浴びつつある「データジャーナリズム」。様々なデータを分析することでニュースの発掘へと導き、分かりやすい形で読者に伝える調査報道の手法の1つです。また、主に公開されているデータを利用し、読者が自ら事実を検証できるような仕組みにすることも大きな特徴です。

データジャーナリズムを用いて新しい切り口の記事に挑もうといわきに結集したのは、職種も経歴もバラバラの4人。チームをまとめるデスクは、JCEJ運営委員であり、日本のデータジャーナリズムにいち早く取り組んできた赤倉優蔵さん。普段は通信社のシステムエンジニアとして働いています。チームには、インターネット・コミュニケーションを研究している小笠原盛浩さん、Twitterなどのソーシャルメディアを活用する記者の石戸諭さん、そして同じく記者でデジタル編集部に所属した経歴をもつ武井宏之さんの3人が加わりました。


写真:左から小笠原さん、石戸さん、赤倉さん、武井さん。


いわきを舞台にデータジャーナリズムに取り組むという枠組みは決まっていた赤倉チームですが、4人の問題意識や関心はさまざま。取材の大前提である「何をテーマにするか」を巡っての議論がまとまりません。キャンプの始まる約1ヶ月前から、忙しい仕事の合間を縫って50件以上メールをやりとりしたり、ネットや電話を使った会議を開いたりして構想を練りましたが、統一したテーマに絞り込むことは出来ず、そのままキャンプ初日を迎えました。


キャンプ1日目は、せっかく現地入りしたということで、まずレンタカーでいわき市内を回ることに。取材テーマ案の1つだった「震災以後の人口流動」に関連して、市内の地価が高騰したという地域を見て回りました。移動中の車内でも議論は続きましたが、結局テーマは定まらないままでした。

その夜の全チームが集まる報告会では、各チームのメンバーが3班に分かれ、現段階でのテーマや取材状況を報告するとともに、他チームのデスクやJCEJ運営委員からフィードバックをもらいました。報告会が終わった後も、赤倉チームが食事をとりながら議論しているというので、私も少し遅れて参加させてもらうことに。居酒屋に行ってみると、座敷に4人が座っていました。手にしているグラスはビール……ではなくウーロン茶。しばらく様子を見ていましたが笑顔はまったくありません。真剣に話し込んでいましたが、ときに議論が停滞して沈黙が流れることも。

赤倉チームを打ちのめしたのは、報告会で浴びせられた厳しいコメントの数々でした。デスクの1人からは、データの分析やそれに基づく取材構想が練られていないことを批判され「外で取材なんかせず、ずっと部屋にこもってデータを分析してればいい。がっかりだ」と言われるほどでした。

しかし、厳しい言葉に落ち込んだわけではありませんでした。むしろ、静かな闘志に燃えているようでした。「(デスクや運営委員が)ぐうの音も出ないくらいのクオリティを出したい。急にそういう気持ちになってきた」。散々に言った人たちを見返してやろう。真剣な目つきからはそんな気持ちが窺えました。議論を重ね、最初に取り組もうとした人口流動のテーマは捨て、曖昧に語られがちな風評被害の実態を、データを用いて検証しようという方針に固めました。日付が変わる頃まで激論が交わされ、散会後も個人でデータを集め分析、記事の構想を練りました。

翌朝は会場が開く朝9時に集合。他チームは誰も来ていない中、赤倉チームは4人全員が集まりました。疲れた顔をしているので就寝時間を尋ねてみると、全員午前4時頃までは起きていたとのこと。それぞれが必死に頭をひねって深夜まで考えを巡らせていたのです。

そうして迎えた2日目は、まず作物の風評被害に関して検証すべき点を整理。
・どの作物に影響が出ているのか。
・どの地域で影響が出ているのか。
・いつ影響が出たのか。震災以前を含めた長期的スパンで見た場合、作物の単価や出荷量はどのような傾向で変動しているのか。


これらの作物別、地域別、時系列という3つの軸で、多角的に風評被害の影響を測定し、一般に言われる風評被害のイメージと実態の間には乖離があるのではないかと問題提起する方針になりました。


それからいわき市内のスーパーマーケットを実際に訪れて、地元産の食品が並んでいるかどうかを確認。スーパーによって差はあるものの、どのスーパーでも福島産あるいはいわき産の食品が買えるようになっていました。
震災直後には風評被害があると報じられていましたが、地震から2年が経ち、実情は当初から変わりつつあるにもかかわらず、十分にメディアなどで伝えられていない側面もあるのではないか、という切り口が浮かんできました。



その日の晩の全体議論でこれまでの成果を報告。一日目とは打って変わって、具体的な企画案を示し、さらには「風評被害はなかった?」という挑戦的なテーマを掲げたことで他チームから関心を集めました。前日の報告会でデータジャーナリズムチームの企画を「がっかりした」と評したデスクが、「どうして『劇的ビフォーアフター』が起こったのか教えてほしい」と驚くほどでした。


全体議論が終わったあと、批判一色だった前日から一転、取材の大幅な進ちょくに注目が集まったことについて、メンバーがどう思ったのか尋ねてみました。「そんなの当然だよ」と石戸さん。「厳しいこと言われたからって、それでシュンとして落ち込んで何もできないなんてことになったら、どんな世界でも通用しないよ。絶対」。デスクの赤倉さんも「僕もそういう考え方大好きです」と思いを同じくしていました。


キャンプ最終日の3日目は、デスクと他の参加者、さらには学生を含む運営スタッフ全員で「タイトルと小見出しだけで読みたいと思える記事」に投票を行いました。その結果、データジャーナリズムチームはなんと2位という好成績を収めました。しかし、この結果に満足するチームではありませんでした。投票後、武井さんが私たち学生スタッフのもとにやってきて尋ねました。「うちのチームの記事に票を入れなかったのは何故か教えてもらえますか」。多くの参加者から票を得たものの、学生からは票が得られなかったことに問題意識を持ちその原因を確かめに来たのです。小笠原さんも、「今度は私からあなたたちに取材させてほしい」と、私たち学生のところにわざわざやって来てくれました。挨拶や名刺交換で学生のところに来てくれた参加者は他にもいましたが、意見・考えを聞きにきたのはデータジャーナリズムチームのこの2人だけです。私はこのとき、データジャーナリズムチームが日に日に成果を上げる理由がわかったような気がしました。このチームは誰よりも学ぶことに貪欲です。


色々な分野で活躍する人たちの意見を聞いて、自分にはない視点、知識、スキルを吸収しようとしていました。その為には、学生の意見さえも学べる対象と考える。また、チームの垣根を越えることにも躊躇ははく、様々な分野で活躍するデスクの方々に積極的に意見を聞いていました。


写真:『フクシマ論』で知られる社会学者の開沼博さんに取材するデータジャーナリズムチーム



データジャーナリズムを実践するためには、伝統的な取材手法に加え、デザインやプログラミング、統計学など、さまざまなスキルが必要となります。それゆえ「スーパーマンじゃないから一人でやれって言われたってできません」とのこと。他のチームはメンバーが別々に行動し取材することが多い中、データジャーナリズムチームはキャンプの間4人でまとまって行動することがほとんどでした。「もともと自分一人でできるわけがないと思ってやってきてるから、自分にとっては(チームで行動することは)当然」。「データジャーナリズムでやりたいことがあるので、それには自分が持ってない力を身につけないとしょうがない」。研究者の小笠原さんはデータから何が読み取れるかを語り、記者の石戸さんや武井さんは記事の切り口や構成を考え、システムエンジニアの赤倉デスクは、チームの意見を引き出しつつ、自身が培ってきたデータを分かりやすく可視化して提示する方法を提示する―。それぞれのスキルを結集し、協力してデータと向き合い、作品を創り上げています。


赤倉さんはキャンプ中に自身のTwitterでこう語っています。
「今回のジャーナリストキャンプで、一人でやれることに限界があることはよく分かった。一人で激変に適応するのはもはや至難の業だろう。これからの報道は、チームで臨む、協力者を増やす、読者に関わってもらうなど、『人を巻き込む』ことは必須になるのではなかろうか」



データジャーナリズム以外にもジャーナリストキャンプで取材した記事は、順次ダイヤモンドオンラインで掲載される予定です。すでに掲載中の記事もありますので、下記リンクから是非ご覧下さい。

(JCEJ運営サポート・尾田 章)


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<ダイヤモンドオンライン掲載中の記事>

<ジャーナリストキャンプの様子を紹介しています>

<ジャーナリストキャンプの成果をふまえパネルディスカッションを行いました>