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JCEJ×GLOCOM「データジャーナリズム実践第2弾 データ発見ワークショップ」参加者報告 vol.1

9月1日に開催したJCEJ×GLOCOM「データジャーナリズム実践第2弾 データ発見ワークショップ」の参加者報告を河野智彦さんに書いて頂きました。

【イベントの概要】

【防災に必要な情報とは?】

9月1日、JCEJ×GLOCOM「データジャーナリズム実践第2弾 データ発見ワークショップ」に参加させていただきました。

まず、「防災とメディア:防災のために何を伝えるか」というテーマで、国際社会経済研究所の東(あずま)氏、オープンストリートマップファウンデーションの東(ひがし)氏、GLOCOMの庄司氏、JCEJの赤倉氏の4名によるクロストークが行われました。

その後、あらかじめジャーナリスト、アナリスト、エンジニアに分かれた参加者の中で3人〜4人のチームをつくり、防災に利用できそうなデータをインターネット上から探し出す時間が設けられました。

僕のチームでは、まず「災害時の弱者を助けるための情報」というテーマでデータを探すことに決めました。というのも、クロストークをはじめとして、それまでの議論の中心は、「自分が災害時に助かるためにどういう情報があればよいか」であると感じたためです。もちろんそうした情報がなによりも重要であるということは間違いないのですが、あえて視点を少し変え、「他人を助ける」という点に注目することも重要ではないかと考てみました。

ところが、作業を始めて少し経つと、チーム3人でうんうん唸る時間が続きました。高齢者や外国人など、災害弱者となる可能性の高い人々の居場所を把握したいと思っても、そうした情報は「個人情報」であるために基本的に公開されていないからです。東京都のなかで「新宿区には○○人が何人住んでいる」ということまではわかっても、自分たちが住んでいる周りにどこの国籍の人がどれだけ住んでいるのかといった情報まではわからないのです。

そこで僕のチームでは、災害弱者となりうる人を直接把握するのではなく、そうした人々と日常的に接触している人・団体の情報をまずは把握することで、災害時に彼らを助ける行動を起こすためのファーストステップに役立てようと考えました。

3人で「高齢者」「障害者」「外国人」と手分けをして、普段からそうした人々を支援している団体の情報を集めました。最終的には参加チームで最多の12個のデータを発見し、CKANに登録することができました。

【他のチームは…】
 
他のチームは、「意識と行動のギャップを埋める防災マップ」や「災害による帰宅困難者支援」など、災害の程度を具体的に知らせる工夫や、実際の避難経路をそこで起きそうな問題とともに把握するマップ、災害時に役立つ情報をマッピングしたものなど、今あるデータを使いながら、実践的な情報を自分のこととして把握するための様々なデータの使い方を提案していました。

【わかりやすく提示すること】
 
データを発見することの他に、重要視されたのは「わかりやすく提示すること」でした。それは、表現のわかりやすさはもちろんのこと、情報を置く場所や、当事者性を持たせること、日常から見るように配慮されていること、などが含まれます。会場では、「数字からは具体的な現象をイメージできない文系人間!」といった刺激的な(笑)言葉も聞かれ、どうしたら「わがこと」として情報を捉えられるかについて議論が交わされました。

【使えるデータは多い?少ない?】

今回のデータ発見ワークショップを終えて僕が思ったことは、「ある問題の解決という目的に応じたデータはなかなか存在しない」ということでした。参加者の方の中には、「こんなにたくさんのデータが存在していることに驚いた」「わたしたちは今あるデータを活用しきれていない」という感想もあったのですが、個人的にはあまりそう思いませんでした。確かにデータ自体はいろいろなところにあるのですが、「こんなデータがほしい」と思いながら探してみた場合、適切な情報がなかなか見つからなかったり、近いデータはあったとしても、目的にとっては少し粗すぎたりすることが多いのです。住民のデータのように自治体などが確実に把握しているケースなど、「あるところにはある」データも、個人情報の観点などから公開されていなかったりします。

これからデータジャーナリズムを積極的に実践していくためには、既にインターネット上にあるデータをどんどんデータベース化していくとともに、自治体などに情報公開を求めていく際に具体的なデータの内容と使い道を想定することが重要だと感じました。
(個人情報は出せないと思いますが…)

データジャーナリズムとは/ジャーナリズムとは】

今回はデータジャーナリズム実践のワークショップとして、防災に関するデータベースをつくるということがひとつの目的であったと思いますが、全体を通して「データジャーナリズム」、「ジャーナリズム」とはなにを指すのかということについて考えさせられました。

今回の作業は、防災に使えるデータを探してくることが中心でしたが、それは防災に関する情報をわかりやすく提示するデータジャーナリズムの「準備作業」とも捉えられます。一方で、今回のワークショップで提案されたデータの使い道の多くが、ひとりひとりが自ら使うことで防災の意識を高めたり、災害時に役立てるといった性質のものであったことは、別の示唆を与えてくれるように思います。

ひとりひとりがあるデータを利用して、防災に関する情報を得る。自分のこととして把握する。そのかたちは、メディアがつくったニュースを視聴者/読者が受け取るという一般的な「ジャーナリズム」の構造ではもはやありません。にもかかわらずこれもまた「ジャーナリズム」の1つのかたちだとすれば、これからの「ジャーナリズム」は、ひとりひとりが自ら情報を具体的に把握するための情報を「整備しておく」ということもその機能の1つとして考えられるということでしょう。少なくとも「ニュースを出すこと」だけが「ジャーナリズム」ではない。データジャーナリズム実践ワークショップでは、そういったことまで考えさせてもらいました。
(河野智彦)

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