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新聞の枠組みから外れた地方紙記者は脅威 〜ジャーナリストキャンプ飯南2011報告会リポート

 2011年8月19日〜21日に島根県飯南町(いいなんちょう)で開催された「ジャーナリストキャンプ飯南2011」の報告会が、9月17日東京都内で行われました。JCEJサポートメンバーの清嶋が報告会の模様をお伝えします。

 ジャーナリストキャンプ飯南2011は、10人の記者(うち半数は島根県の地方紙である山陰中央新報の記者、残りは他紙の記者やマスコミ関係者)が、島根県南部の中山間地にある人口約5700人の飯南町を舞台に、それぞれの問題意識を基に取材活動を行い、その結果を4000字程度の記事にまとめるというイベントです。

 私はジャーナリストキャンプには11人目の参加者としてエントリーしていましたが、一身上の都合で、1日目だけ参加した後に早退。主要なプログラムには参加できませんでした。ですので、このリポートはあくまで第三者の立場から、報告会の模様をお知らせします。

 報告会の中で印象に残ったことが2つありました。


10人の記者たちの問いかけが住民の刺激に


 1つ目は、ジャーナリストキャンプの開催自体が飯南町に小さな変化をもたらしたということです。

 例えば、飯南町にある「一福(いっぷく)」というそば屋が、ジャーナリストキャンプの直後に、いきなりFacebookページを開設したというのです。一福は町外からも常連客が訪れる有名店で、広島や松江にも支店を構え合計7店舗を展開しています。ただ、一福の社長は物産展やイベントなどリアルの場を使ったマーケティングは積極的に展開するものの、ネットマーケティングには必ずしも積極的ではありませんでした。

 東京から来たジャーナリストキャンプ参加者の山田さんが一福の社長を取材した時に、大胆にも「ネットマーケティングをもっとやったほうがいい」「今はソーシャルメディアFacebookがいい」と提案したそうです。

 取材後の全体会議では、山田さんの提案について、ほかの記者たちからちょっとした異論が出たそうです。「飯南町ソーシャルメディアはないだろう」「おばちゃんの口コミのほうが来店につながるはず」「飯南町ではインターネットより防災無線のほうが強力なメディアだろう」といったものです。(若干偏見が入った批判も交じっていたようですが)
 

 ところが後日、社長の気が変わったようで、山田さんの提案通りにFacebookページが開設されました。このように、よそ者の記者たちがやって来て取材活動をしたことによって、飯南町の人々の意識が変化した出来事はいくつかあったようです。ジャーナリストキャンプにも報告会にも同席した飯南町役場の烏田さんは、「外部の人が住民に問いかけをしてくれること自体が、住民にとって刺激になり、地域を元気にするうえでの意識づけになった」と話していました。


地方紙記者の高い取材力と筆力


 2つ目は、地方紙の記者のスキルの高さについてです。

 ジャーナリストキャンプに参加した10人の記者のうち5人が山陰中央新報の現役の記者でした。当日の取材活動では、この5人と、東京から来た人など残りの5人がペアになって行動しました。

 参加者のうち、東京でPRの仕事をしている細川さんは「一緒に行動した山陰中央新報の原田さんに随分助けられた」といいます。原田さんは、細川さんが取材したい人を次々と探し出してくれたそうです。「取材対象を次々と見つけて、話を聞くだけではなく次の取材先をその場で紹介してもらうやり方は、プロの仕事だと思った」と細川さんは舌を巻いていました。

 参加者の1人である山陰中央新報の森田さんはこの4000字の原稿を3時間でまとめたそうです。森田さんは「4000字を埋めなければならないので、とにかく十分な情報量とディテールが必要。取材時には細かく話を聞き出すことに徹した。普段の新聞の原稿では字数が限られていて十分なことを書けないが、今回は取材したことの半分ぐらいは書けて面白かった」と話していました。

 私は普段、東京で比較的長文の記事を取材・執筆する仕事をしています。もともと地力のある地方新聞の記者たちが、新聞という枠組みにとらわれずに取材・執筆する活動をどんどんするようになれば、自分たちのライバルになって、大きな“脅威”になりそうだと思いました。


外部メディアへの出稿に苦労?

 ジャーナリストキャンプ飯南2011に参加した10人の記事は、厳しい事前チェックをクリアした場合にはウェブ経済メディア・JBpressに掲載される予定です。原稿の締め切りは8月31日に設定されていましたが、実はまだ、1本も掲載されていません。それだけ、苦戦しているということのようです。

 ジャーナリストキャンプに参加した記者たちは、おおむね取材や原稿執筆のスキルには長けています。ところが、普段書いている新聞以外の媒体、特に経済メディア向けの記事を書くという点は、なかなか慣れない作業だったようです。

 最終的にJBpressの読者層にマッチした、質の高い記事を公開できるかどうか。その結果が分かるまでに少し時間がかかりそうですが、私も一読者として楽しみに待ちたいと思います。

(JCEJサポートメンバー・清嶋 直樹)


*こちらもあわせてご覧下さい

・代表運営委員のブログ (ジャーナリストキャンプ飯南2011の報告会を行いました)
・学生運営のレポート (ジャーナリストキャンプ飯南2011の報告会を行いました