#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

「東北ローカルジャーナリスト育成事業」が、復興庁の「新しい東北」事業に選定されました

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が提案した「東北ローカルジャーナリスト育成事業」が、復興庁の「新しい東北」情報発信事業に選ばれました。東日本大震災の風化が進み、被災地のニュースが減る中、既存マスメディアの枠を超えた情報発信が求められています。JCEJがこれまで福島県などで取り組んできた「ジャーナリストキャンプ」を拡大し、継続的に東北を発信できる「ローカルジャーナリスト」を育成します。

 

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ローカルジャーナリストとは?

「ローカルジャーナリスト」は、地域に暮らしながら、地域のニュースを外に発信するジャーナリストのことです。JCEJ運営委員の田中輝美は、島根県に拠点を置くローカルジャーナリストとして活動しています。

JCEJは、東京に偏りがちなニュースに対し、地方からの情報発信を強化する取り組みを続けてきました。ジャーナリストキャンプはこれまで、福島県いわき市のほか、高知県高知市島根県飯南町などでも開催。ソーシャルメディアの普及で「誰もがジャーナリスト」と言える時代ですが、質の高い地域ニュースを全国に届けるためには、スキルのある書き手の育成が不可欠だと考えています。

今回の事業では、11月に東北6県でローカルジャーナリストの育成講座を開催する予定です。復興関連のニュースに限らず、東北の新たな魅力を記事化し、Yahoo!ニュースで発信。第一線で活躍するジャーナリストらを講師に招いた合宿も予定しています。

酒や伝統工芸がテーマの事業も

「新しい東北」情報発信事業では、JCEJのほかにも5つが選定されています。

7月29日には、選定された計6事業者が情報共有するミーティングに参加しました。「酒」をテーマに東北の蔵元をSNSで発信する事業(ワールド・ヘリテイジ)や、伝統工芸技術によしもと芸人が挑戦して魅力を伝えるプロジェクト(文化放送)など、ユニークな取り組みが揃っています。

他の事業者とも連携しながら東北の発信力を高めていきたいと思います。

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プログラムの詳細については、決定次第お知らせします。

独自の視点で、被災地の今を伝える ジャーナリストキャンプ記事がYahoo!ニュースに掲載されました

日本酒、萌えキャラ、パチンコにラップミュージック。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が宮城県石巻市で開催した『ジャーナリストキャンプ2016石巻』の作品が、Yahoo!ニュースに掲載されました。東日本大震災から時間が経ち報道が少なくなる中、Yahoo!トップに掲載され、500万超のページビューを獲得した記事も。被災地の「今」を伝える12記事を紹介します。

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日本酒米の"王者"山田錦に挑む被災地・石巻

売り切れも続出した「復興日本酒」。でも実は、ほとんどの原料米が「兵庫県山田錦」。東北は有数の米どころなのに、なぜ地元の米が使われていないのだろう。そんな疑問を持って取材を進めると?

 

石巻の新しい生態系。もやもや女子が描く「おもしろい町」

「自分はボランティアとしては全然ダメでした」。『ジャーナリストキャンプ2016石巻』の記事2本目は、震災を機に宮城県石巻市に移住したものの、もやもやした5年を過ごした女性の物語。

 

萌えキャラは新時代のインフラ!?「東北ずん子」の素顔を歩く

「キャラクタービジネスの常識から考えてあり得ない」。東北6県に本社を置く企業なら申請なしで自由に使える萌えキャラ「東北ずん子」。被災地を盛り上げる「看板娘」を生み出した発想に迫ります。


処分覚悟で運転ボランティア 悩む宮城の先生たち

問題視される部活顧問の「ブラック労働」。被災地・宮城県では、先生たちがリスク覚悟で生徒の「運転ボランティア」まで担う実態が。現場の苦悩は深まっています。Yahoo!トップにも掲載された記事。


朝6時から行列「パチンコ天国」で「ギャンブル」しない人たち

被災地で繁盛するパチンコ店。ネット上では復興資金が使われているとの批判もある中、宮城県石巻市の「激戦区」では朝7時から客が流れ込んでいくーー。Yahoo!トップに掲載され、500万超PVを獲得した記事。


「芸能人古着ビジネス」はなぜ撤退するのか 被災5年後の石巻で見た支援活動の終わり方

今井美樹浜崎あゆみ中田英寿GLAYのTERU。そうそうたる有名人が協力者に名を連ねた被災地支援ビジネスが、撤退を余儀なくされた。なぜ立ち行かなくなったのか?「引き際」の舞台裏を描きます。

 

インテリじゃないけれど 地元民が5年後の石巻を「ゆるく」変える

復興支援に関われるのはインテリだけ。成績がビリから2番目の自分には縁がないーー。想いはあっても一歩を踏み出せずにいた女性が挑む、「半径10メートルの人」を幸せにする街づくりを紹介します。

 

死者ゼロ、人口ゼロー東日本大震災"奇跡"の過疎地で起きていること
死者ゼロなのに、人口もゼロ?津波に襲われた宮城県のある地区。みんな生き残ったにもかかわらず、浜から人は消えたーー。あれから5年、過疎の集落がたどった道とは。


人気がなければリストラしかないのか ゆるキャラ「いしぴょん」の生きる道
ゆるキャラ界にリストラの波が押し寄せている。宮城県石巻市の『いしぴょん』。幼稚園では人気者、テーマソングCDを発売したことも。しかし今ではTwitterの更新も途絶え、崖っぷちに。生き残る道はあるのか?


「俺は石巻最初で最後のラッパー」地方ミュージシャンの願いとジレンマ

「マスメディアじゃ届かねえから/ 叫ばせてくれ、ここが現場だ」。高齢化の街に響くラップ、レゲエ。宮城県石巻市で、新たな音楽シーンが生まれている。なぜミュージシャンたちは地方から発信し続けるのか。

 

震災の後遺症を癒す「シマネからの手紙」 5年後に生まれた「小さなつながり」

被災地のために、自分が出来ることは何だろう?5年間悩みつづけた女性が現地で見つけた答えは、とてもシンプルなものでした。1000キロ離れた島根と宮城を結ぶバスツアーから生まれた、小さな交流を描く記事。

 

復興拠点となった石巻専修大学、卒業生は4割減 現状を追った

震災後、卒業生数が4割も減った石巻専修大学。「復興ボランティア学」という新しい領域にも取り組むが、なかなか注目度は上がらない。地域の期待を背負う学生たちは、どんな想いで学んでいるのか?

 

より良い記事を目指して、自分の限界に最後まで挑む【ジャーナリストキャンプ2016石巻・記事改善WS】 

 

最後まで、自分の限界に挑戦したいーー。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が4月29日から2泊3日で開催した『ジャーナリストキャンプ2016石巻』の参加者たちは、宮城県石巻市での合宿終了後も、より良い作品を目指して試行錯誤を続けています。5月7日に東京都内で開かれた「記事改善ワークショップ」でも、デスクや仲間のアドバイスを受けながら、突破口を見つけようと真剣に議論しました。

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現地を知らない読者にも届く工夫を

ワークショップ当日、参加者は執筆した記事を持ち寄りました。指導役のデスクと参加者がグループに分かれ、互いの記事を読んで「一番面白いと思った部分」「もっと読みたい部分」を指摘。どうすればもっと伝わる書き方ができるか話し合いました。

今回の記事が掲載されるのはYahoo!ニュース。亀松太郎デスク(ジャーナリスト)は、石巻で起業したある女性に焦点を当てた記事を書いた参加者に対し、現地のことをほとんど知らない全国の読者に伝える工夫をもっと考えてほしい、とアドバイスしました。

「書き方によっては面白くなりそうだが、登場人物を知らない人にどう読ませるのか。(記事を)発表するのは、石巻でボランティアをしている人の集まりではなく、Yahoo!ニュースという場。99.9パーセント知らない人に伝えるためには、今のままでは(掲載は)難しい」と厳しい指摘も。

執筆者は「自分ではしっかり書いたつもりでも、なかなか伝わらないのだと思った。改めてきちんと伝えたい」と話していました。

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伝えたい想いと、あらためて向き合う

今回のキャンプには、記者やライターだけでなく、ネットメディア・地域NPOなどで情報発信に携わる方も多く参加しています。「復興支援撤退の動き」をテーマに選んだある参加者は、「参加者の中で自分が一番書けないのでは、という思いがあった。取材中も、何度も限界を感じた」と打ち明けました。
依光隆明デスク(朝日新聞記者)は、「原稿が混乱している。自分の頭をクリアにすることが大切」と指摘しつつ、「書きたいことがあれば、書く。文字数などにこだわらず、まずは思いっきり書けばいい」と背中を押しました。

アドバイスを受けた参加者は「(ワークショップでの)発表に合わせて、体裁を取り繕ったことを見抜かれました。今回のキャンプのテーマは"自分の限界を超える"こと。最後までそれに取り組みたいです」と話し、自分が伝えたいことは何なのか、あらためて見つめ直しました。

f:id:jcej:20160507135724j:plain ワークショップ終了後も、ほとんどの人がそのまま会場に残り、原稿のブラッシュアップを行いました。締め切りが迫る中、それぞれの「関心」にもう一度向き合ったキャンプ挑戦者たち。原稿の完成に向けて、さらに磨きをかけていきます。

 

石巻で行われたキャンプ当日の様子はこちらの記事で紹介しています!>

 

巨大市場の「波」を見極めろ ウェブで価値ある記事を届ける方法

良い記事を書いても、伝わらなければ意味がない。情報が溢れるインターネット上で、読者に記事を届けるにはどうすればいいのか?

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が4月29日から宮城県石巻市で開催した「ジャーナリストキャンプ2016石巻」で、JCEJ藤代裕之代表は「どうすればウェブで良質な記事を届けられるか」について講義を行いました。藤代代表は、筆者の「関心」と「ゴール」が明確でなければ、良い記事は書けないと指摘。その上で、ウェブという「巨大マーケット」の波を見極め、的確なタイミングで記事を出す必要があると訴えました。急速に関心が薄れる被災地からの発信を考える上でも、重要な視点です。

以下は、藤代代表の講義内容です。

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良い記事に必要なのは「自分の関心」と「ゴール」

良い記事を書く上で、「なぜ書いているのか」と、「どんな社会になって欲しいのか」の2つは絶対に必要です。面白おかしい記事は一時的に読まれるかもしれないけれど、賞味期限が短い。社会に価値がない記事は、誰も幸せにならないし、書き手は上達しません。 大事なのは、皆さんと同じ関心を持つ読者がいること。そして、読者が何を得るのか。これがなければ、すごく読まれても「一発屋」で終わってしまいます。最初の「関心」がないと、絶対その先へは行けません。

その上で、書き手はなるべく読まれる確率を向上させることを考えなくてはいけません。そのためには、ターゲットとなる読者が何に興味を持っているかを考えることや、「この読者層には必ず届く」という確信も必要です。

ニュースをウェブに書くのは「農業と同じ」

記事の価値は、読者やマーケットが決めます。僕はイチゴが好きなんですが、今はイチゴのシーズンが終わりでとても安い。この時期に出しても高く売れないですよね。「そろそろイチゴのシーズンだな」という時期に合わせて出せば、ちょっと高いけど春の気分を感じるし買おうかな、となります。

「ニュース出し」は農業と同じで、我々はニュースの生産者だと言えます。(キャンプの記事が掲載される)Yahoo!ニュースは、巨大なマーケット。Yahoo!トピックスに掲載されるのは(1日約4000配信記事のうち)80〜100本です。ウェブには「波」があるので、早く出し過ぎても取り上げてもらえないし、全然読まれない。季節が終わりかけのイチゴと同じですね。

新聞はお米のように政府が一定料金で買い上げてくれるようなもので、マーケットに閉塞感があるから、新しい米のブランドが出なかったり、ちょっとパッケージを変えたようなものしか出てこないのです。一方でネットは、競争の非常に厳しい市場です。

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 王道とは違う視点の記事を「波」に乗せる

波が大きすぎるタイミングで出せば、小舟はひっくり返ってしまいます。どうすれば記事を読んでもらえるか。ウェブでは、盛り上がっているタイミングで「まだ誰も書いていない記事」を市場に出すことが重要です。

年明けに長野県でスキーバス転落事故があり、たくさんの犠牲者が出ました。その時に僕が書いた顔写真の記事は良い例です。これはヤフーのトップに採用されました。

事故当時、マスメディアは次々に記事を出していましたが、現場や被害者の状況を書いたものがほとんどでした。ウェブを確認すると、犠牲となった学生の写真をソーシャルメディアから「引用」して報道したことに対して批判が起きていました。他の報道とは違う問題意識で書いたのがこの記事です。

マスメディアの「引用」についてはずっと問題意識を持ってきましたが、通常時に記事を出しても、読まれもしないし取り上げてもらえません。マーケットの状況を把握して、大波が来ている時に書く必要があります。

「小さなマーケット」に絞って書く手法

一方、規模は小さくても「この読者には必ず届く」という層に向けて記事を出すこともできます。アクセス数より、「きちんと書いてある」「興味深い」と思ってくれる人を一定層作ることが大切です。

熊本地震の時に『被災者に必要な情報が届くよう「速報系ニュース」のソーシャル拡散を控えよう』という記事をYahoo!個人に書きましたが、トップにも取り上げられず、全く読まれませんでした。熊本地震という大波は来ていましたが、ウェブはソーシャルメディアを止めることには興味がありませんでした。関心は、現地の被災状況や支援の方法でした。

この記事は、マスメディアの記者やネット担当者(という小さなマーケット)に向けて書きました。幸い、マスメディアからは取材があり、朝日新聞の耕論に取り上げられました。新聞社や通信社からも依頼がありました。市場を観察した上で、その(主な)マーケット以外に自分の伝えたいことを届けるという手法です。

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 普遍的なテーマに落とし込む

自分ごととして読んでもらうためには、普遍的なテーマと絡めることも重要です。顔写真については、マスメディアの「引用」、ソーシャル拡散については災害時の情報のあり方という普遍的な問題意識が横たわっています。

今回のキャンプの舞台は石巻ですが、震災から5年が経ち関心が薄れる中で、どうすれば震災を伝えていくことができるのでしょうか。

例えば、キャンプ期間中に宿泊しているホテルの方と話したとき、「震災復興が一息つき、今後の客層が読めない」と言っていました。震災前、震災後、今では、客層ががらりと変わり、誰を対象にビジネスをするのか見えないというのです。

これは客層の変化に対し、地方の小さな宿がどういうビジネスチャレンジをしているのか?という視点に落としこむことが出来ます。多くの人(読者)はビジネスに携わっていて、興味があるからです。震災とは別のテーマを絡めることで、「読んでみよう」と思わせることができます。

キャンプ前日に行われた津田大介さんの講義では、熊本地震とつなげることで東日本大震災への関心を高める、という話がありました。でも熊本地震でさえ、すでにネット上の関心は下がっています。「復興」「震災」というキーワードは当然あるけれど、それ以外の普遍的な面白さや社会課題にテーマを着地させる必要があると思います。

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【ジャーナリストキャンプ2016石巻】「自分の関心」にとことん向き合って記事を書け

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)は、4月29日から5月1日の2泊3日で「ジャーナリストキャンプ2016石巻」を開催しました。

 2日目は初日に引き続き、取材を終えた14人の参加者と5人のデスクが、20時からディスカッションをスタート。

・参考:「震災、復興を超えた普遍的で面白いテーマを目指せ」――ジャーナリストキャンプ2016石巻がスタート

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 参加者は、それぞれテーマを考えた「自身の関心」、取材したことで集まった事実やエピソードなどの「素材」、それを踏まえた「記事タイトル」、読者となる「ターゲット」、記事を書くことによって実現することが想定される「社会の課題解決」を書きだして発表しました。

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ある参加者は、島根県からクラウドファンディングで資金を集め、石巻の被災地を巡るバスツアーについて取材していましたが、デスク陣からは、取材者の本当の興味関心がどこにあるのか見えづらい、と指摘がありました。

那覇里子デスク(沖縄タイムス記者)は「関心・素材・結果がつながっていない。柱が一本になっていない印象。話を聞いていて、ワクワク感や、すごく伝えたい!という気持ちが伝わらない。何を伝えたいのか、1回立ち戻った方がいいのではないでしょうか」とアドバイスしました。

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 自分の問題意識はどこにあるのかを明確に捉えることが、記事を書くための出発点になる。参加者全員が改めて自分自身に向き合ったことで、記事の方向性が少しづつ明確になっていきました。

ディスカッションが終了したのは23時30分。その後もチームごとに分かれて議論は続きました。

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 最終日も朝10時からすべてのデスクが会場に集合し、参加者にアドバイスを行いました。取材を終えると、本格的に記事執筆に入ります。一体どんな記事が飛びだすのか、期待が高まります。

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「震災、復興を超えた普遍的で面白いテーマを目指せ」――ジャーナリストキャンプ2016石巻がスタート

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が主催する「ジャーナリストキャンプ2016石巻」が29日、いよいよスタートしました。

舞台は宮城県石巻市。2011年、東日本大震災で大きな被害を受けたこの町も、5年の月日が流れる中で報道の数は減り続け、風化が進んでいます。

石巻は書き尽くされた」とも言われるなかで、全国から集まった5人のデスクと14人の参加者は、新たな視点で全国に届く記事を書くために学び合います。「5年目の石巻」での挑戦が始まりました。前日には、ジャーナリスト・津田大介さんによる情報発信講座も開かれました。

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デスクと記者たちは、早朝から活動を開始。朝9時、取材の指導からスタートしたのは、ジャーナリスト・亀松太郎デスクのチーム。

「どんな仮説を持って取材するのか」「誰を主人公にするのか」といった問題から、「読者に読みたいと思ってもらえるタイトルを考えること」「その人らしさが伝わる写真が大事」「取材で話を聞くときは図々しさも必要」などのテクニックまで、約2時間半にわたってアドバイスと議論が続きました。

震災、復興を超えた普遍性を

20時からは、今日の取材成果を話し合うディスカッションが開かれました。会場は、石巻駅から徒歩9分にある「ヤフー石巻復興ベース」。

この場所は、Yahoo! JAPANの現地事務所としてだけでなく、石巻に住む人々を中心としたコワーキングスペースとして機能しています。新しい石巻をつくるこの基地で、3日間にわたって議論が繰り広げられます。


ディスカッションに先駆けて、JCEJ代表・藤代裕之による講義が行われました。

東日本大震災に対する関心が下がる中で、多くの読者に読んでもらうためには、いかに自分事として考えてもらえる記事を書けるかが課題です。「震災、復興という話を超えた普遍的で面白いテーマに着地しなければいけない」と語ります。

今回、記事が掲載されるYahoo!ニュースに記事を出すことは「最高のマーケットに商品を出すことと同じ」。Yahoo!ニュースでは1日約4000本の記事が配信されますが、ヤフートピックスに掲載されるのは80~100本です。

取材テーマは、どのように世の中の話題とリンクしているのか。また関心のある層に向けて届けるためにも、どんな切り口が必要かを考えなければ、農作物や果物のように売れない結果になってしまう、と藤代代表は指摘しました。

「説得力ある記事を書くためには、事実をどう積み重ねるかが大切」「社会の問題から逆算するのではなく、自分の関心からはじめること」だとして、「ジャーナリストキャンプは良い記事を書くプロセスを理解して、学ぶ場だ」と参加者に訴えました。

その後、参加者の一人ひとりが、現時点でのタイトルと概要を発表。被災地と恋愛、パチンコ依存症、ラッパーとレゲエ、限界集落、日本酒、農家、などのテーマが飛びだしました。

デスクからは、「見立てが甘いのでは」「ありふれた震災に関する記事で終わってしまうのではないか」という厳しい意見もありましたが、「自分の興味関心がどこにあるのか、改めて向き合ってみては?」など多様な視点からのアドバイスがありました。各参加者は、さらに問題意識を研ぎ澄ませ、記事の完成に向けてブラッシュアップしています。

議論は午前2時過ぎまで

その後、デスク、参加者、JCEJ運営委員が入り混じって各参加者と議論をするワークショップを実施。自分が所属する班のデスクやメンバー以外とも積極的に交流し、お互いに取材の課題や記事のポイントについて話し合いが続きました。

会場から全員が撤収したのは午前2時過ぎ。「ジャーナリストキャンプ2016石巻」は、まだまだこれからが本番です。

地方から、脱「ありきたり」の情報発信を 津田大介さんに学ぶ多メディア時代の伝え方

「ありきたり」では地方は伝わらないー。宮城県石巻市で開催されている「ジャーナリストキャンプ2016石巻」を前に、ジャーナリスト・津田大介さんがヤフー石巻復興ベースで講演しました。津田さんは、情報の流れやメディア環境が大きく変わる中、特に地方の話題はよほど面白くなければ多くの人に届けることは難しいと指摘。「気付きを与える」情報発信が必要だと語りかけました。震災から5年が経った被災地の今を伝えるヒントはどこにあるのか。参加者らは熱心に聞き入りました。

無関心を打破できるか

「発信はフィルターでもある」。
津田さんは、良い情報をうまく要約して、分かりやすく発信する"フィルター"になれるのが良い情報発信者であり、何を一番伝えたいのか、突き詰めて考えることが重要だと話しました。その上で「無関心を打破することがジャーナリズムの役割の一つだ」という津田さんは、「マスメディアの配信する情報は偏っていて、構造的な問題がある。ありきたりでない情報が集まりがちな、有名人や大都市についての情報を報道したがる傾向にある」と話しました。

ジャーナリストキャンプでは、これまでも地方からの情報発信を大きなテーマの一つとしてきました。特に被災地の報道をめぐっては、風化が進む中でさらに報道が減ることも懸念されています。今回の参加者は、どうすれば新たな視点で石巻を伝えられるか、真剣に向き合う必要があります。

3つのキーワード
「ありきたりなものばかり取り上げていてはだめです。なぜ地方の情報が全国に報道されないのかというと、東京にとって石巻の情報が重要ではないからです。全国を対象にするメディアでは、よほど"ありきたり"でない必要がある。全国、全世界で発信したいならが、意識しておくべきです。こんなに変わった面白いことがあるんだ、という気付きを与えてほしい」とアドバイスしました。

インターネットで話題になる記事を書くためには、共感(Feeling)、リアルタイム性(Timing)、新規性(Happening)の3要素が重要だと津田さん。様々なメディアが台頭する中、各媒体の特性を生かした情報発信が必要だ、と話しました。「新規性は特に重要で、ネットでは新しいことが注目されやすい。ネットはメディアでもあり、コミュニケーションツールでもあります。人間関係を反映し可視化したものなんです」
一方で、新しいメディアでは事実確認がおろそかになりがちだとも話し、「好き嫌いでなく、客観的な視点で情報発信を」と呼びかけました。

ジャーナリストの仕事はなくなる!?

ロボットが記事を書き、人工知能が書いた小説が賞を取る時代。講義は、激しく環境が変化する中でジャーナリストはどう生き残るか?というテーマにも及びます。
津田さんは、ネットの台頭で情報の流れに変化が生まれ「メディアの激変」が起きる中、新しいテクノロジーを学んで取り入れていくことが必要だと話します。
「変化の激しい時代だからこそ、企業は変わり続けなければならない。ジャーナリストは知るだけではなく、知ったものに対して知識を活用していく。自分がまずやってみないと、勘所がつかめない。環境が変わったことで、あらゆる個人や企業がメディアになることができました。"世論"と"輿論"を峻別し、輿論に貢献していくという意識を持ちましょう」と参加者に伝え、講演を締めくくりました。