#JCEJ 活動日記

日本ジャーナリスト教育センター(Japan Center of Education for Journalists)の活動を紹介しています!

地方から、脱「ありきたり」の情報発信を 津田大介さんに学ぶ多メディア時代の伝え方

「ありきたり」では地方は伝わらないー。宮城県石巻市で開催されている「ジャーナリストキャンプ2016石巻」を前に、ジャーナリスト・津田大介さんがヤフー石巻復興ベースで講演しました。津田さんは、情報の流れやメディア環境が大きく変わる中、特に地方の話題はよほど面白くなければ多くの人に届けることは難しいと指摘。「気付きを与える」情報発信が必要だと語りかけました。震災から5年が経った被災地の今を伝えるヒントはどこにあるのか。参加者らは熱心に聞き入りました。

無関心を打破できるか

「発信はフィルターでもある」。
津田さんは、良い情報をうまく要約して、分かりやすく発信する"フィルター"になれるのが良い情報発信者であり、何を一番伝えたいのか、突き詰めて考えることが重要だと話しました。その上で「無関心を打破することがジャーナリズムの役割の一つだ」という津田さんは、「マスメディアの配信する情報は偏っていて、構造的な問題がある。ありきたりでない情報が集まりがちな、有名人や大都市についての情報を報道したがる傾向にある」と話しました。

ジャーナリストキャンプでは、これまでも地方からの情報発信を大きなテーマの一つとしてきました。特に被災地の報道をめぐっては、風化が進む中でさらに報道が減ることも懸念されています。今回の参加者は、どうすれば新たな視点で石巻を伝えられるか、真剣に向き合う必要があります。

3つのキーワード
「ありきたりなものばかり取り上げていてはだめです。なぜ地方の情報が全国に報道されないのかというと、東京にとって石巻の情報が重要ではないからです。全国を対象にするメディアでは、よほど"ありきたり"でない必要がある。全国、全世界で発信したいならが、意識しておくべきです。こんなに変わった面白いことがあるんだ、という気付きを与えてほしい」とアドバイスしました。

インターネットで話題になる記事を書くためには、共感(Feeling)、リアルタイム性(Timing)、新規性(Happening)の3要素が重要だと津田さん。様々なメディアが台頭する中、各媒体の特性を生かした情報発信が必要だ、と話しました。「新規性は特に重要で、ネットでは新しいことが注目されやすい。ネットはメディアでもあり、コミュニケーションツールでもあります。人間関係を反映し可視化したものなんです」
一方で、新しいメディアでは事実確認がおろそかになりがちだとも話し、「好き嫌いでなく、客観的な視点で情報発信を」と呼びかけました。

ジャーナリストの仕事はなくなる!?

ロボットが記事を書き、人工知能が書いた小説が賞を取る時代。講義は、激しく環境が変化する中でジャーナリストはどう生き残るか?というテーマにも及びます。
津田さんは、ネットの台頭で情報の流れに変化が生まれ「メディアの激変」が起きる中、新しいテクノロジーを学んで取り入れていくことが必要だと話します。
「変化の激しい時代だからこそ、企業は変わり続けなければならない。ジャーナリストは知るだけではなく、知ったものに対して知識を活用していく。自分がまずやってみないと、勘所がつかめない。環境が変わったことで、あらゆる個人や企業がメディアになることができました。"世論"と"輿論"を峻別し、輿論に貢献していくという意識を持ちましょう」と参加者に伝え、講演を締めくくりました。

多メディア時代の“伝わる”情報発信術ージャーナリストキャンプで津田大介さんの講座を開催します!

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が4月29日から5月1日に宮城県石巻市で開催する「ジャーナリストキャンプ2016石巻」。本番前日の4月28日13時から、各方面で活躍中のジャーナリスト津田大介さんに情報発信講座の講師を務めていただくことになりました。

今回のキャンプの開催地は宮城県石巻市東日本大震災の発生から5 年が経ち、関心が薄れていく中で、5年を区切りとしてさらに報道が減ることが懸念されます。被災地の今をどうやったら伝えることができるのか。伝わるべきことが伝わっていない、もっと伝えたいという声もあります。『情報の呼吸法』『Twitter社会論』などの著書で知られ、ソーシャルメディアを使った新しいジャーナリズムや情報発信を実践しておられる津田さんから学び、ともに考える機会を設けることにしました。津田さんは、石巻市で復興支援にも携わっておられます。

情報発信に携わっておられる方や、地域で活動をしている企業、NPO、個人の方など、どなたでも参加できます。ぜひご参加ください!お待ちしております。

<概要>
日時:4月28日(木)13時ー
会場:ヤフー石巻復興ベース(宮城県石巻市千石町4-42)
主催 :日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)
参加費:無料

<申し込み方法>
申し込みは締め切りました

津田大介氏プロフィール>
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ポリタス編集長。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。京都造形芸術大学客員教授テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。フジテレビ「みんなのニュース」ネットナビゲーター。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)』ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。

何のために現場へ行くのか?検証型のジャーナリズムの必要性とは ジャーナリストキャンプ・事前準備会レポート

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が主催する『ジャーナリストキャンプ2016石巻』に向け、参加者の事前準備会が4月2日、東京都内で開かれました。社会学者・西田亮介さん(東京工業大学准教授)を講師に招き、記事を書くために必要な「仮説思考」について学びました。西田さんは、メディアを取り巻く環境が大きく変化する中、現場で聞いた話をそのまま書くだけでは記事の信頼性を担保できないと指摘。明確な問題意識と仮説を元に取材する「検証型のジャーナリズムが必要ではないか」と問題提起しました。


▽「とりあえず現場行こう」でいいの?
講義の冒頭で西田さんは、現場取材のみを重視するやり方に対して疑問を投げかけました。2014年の「ジャーナリストキャンプ2014高知」でデスク役を務めた際には「現場に行くことにしか注意が払われていないことに衝撃を受けた」と言い、「現地に行くと、組織のバックアップが得られない状態で取材する必要がある。指示されたことをやるのではなく、何が問題かを自己規定して、どういう書き振りで伝えるのか考えなくてはいけない」と指摘しました。

今回のキャンプでも、普段働いている会社や組織から離れ、個人として向き合わなくてはなりません。さらに、実際に現地で取材できるのは2泊3日という限られた時間。西田さんは、現場に行くことの大切さには触れつつも「あまり意識せずに現地に行き、デスクに記事を上げて書き直す、という形のジャーナリズムや情報発信は成立しないのでは」と話し、入念な事前準備やリサーチの重要性も浮き彫りにしました。

さらに、著書「メディアと自民党」でも述べられている「政治とメディアの関係性」を切り口に、日本のメディア環境がどう変化しているかを詳しく説明。その上で、今後は「仮説を置いて検証する、検証型のジャーナリズムが必要ではないか。仮説は間違っていれば破り捨てて、次を出していけば良い。インターネットの時代はそこにフィットしやすいので、更新・修正していくことができる」とまとめました。


▽仮説は裏切られてもいい
現場で取材する意義は何なのか。JCEJの河井孝仁フェローは「何を実現するのかを明確に意識し、仮説を実証し、または裏切られるために現場へ行くことが必要なのではないでしょうか」。デスクの1人、Yahoo!ニュース編集者の苅田伸宏さんは「ネットで情報を入手するなど、事前にできることはたくさんある。情報を並べて記事を思い描いたら、話を聞きたい人を見つけなくてはいけない。ロジックを立て、事前取材もした上で現地に行き、直接人に会うのが大切」と話しました。

ある参加者は「震災から5年が経った石巻で、現在の状況を伝えたいと考えていたが、見たものをそのまま書くだけでは記事は成り立たないと気づいた」と言い、改めて企画案についてデスクらと議論していました。


▽「PVが約束されている」記事を掲載する意味とは
今回のキャンプの成果物は、Yahoo!ニュースに掲載されます。「Yahoo!に自分の記事を載せる意義は何なのか?」という河井フェローの問いに、多くの参加者が「反響を呼べば嬉しい」「今まで知らなかったことにスポットを当てたい」と答えました。それに対して西田さんは「(影響力のある)Yahoo!に掲載されれば、記事は確実に注目を浴びる。いわば下駄を履いている状態だ」と指摘。「それを前提にして、どんな意味があるかを考えることが『仮説思考』なのではないか。普通では考えられないPVがすでに約束されている。その上で掲載する意義は何なのか改めて考えてほしい」と話しました。

事前説明会には、仙台や静岡など遠方からの参加者も出席。懇親会でも議論が続き、デスクと挑戦者の強い意欲が伝わってきました。現時点での企画案には「女川原発」「日本酒」「パチンコ」「現地の高校生の交通事情」など様々なトピックが上がりましたが、4月29日からの本番までに自分なりの仮説を立て、どれだけ準備できるかが鍵になりそうです。キャンプの概要は、こちらのサイトをご覧ください。

(キャンプ運営チームメンバー・小野ヒデコ)

ローカルニュースを全国にどう伝えるか、考えたい 苅田デスクからジャーナリストキャンプ挑戦者へのメッセージ

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が4月29日から開催する「ジャーナリストキャンプ2016石巻」。全国から集まった記者が、第一線で活躍するデスク陣と共に熱い議論を交わし、学び合います。どんな挑戦者を求めているのか、震災から5年が経った宮城県石巻市で開催する意味をどう捉えているのか、デスクたちに聞きました。

インタビュー第五弾は、Yahoo!ニュース編集者の苅田伸宏さん。12年半新聞記者として東京本社・大阪本社の社会部などで取材した経験もあり、紙・ウェブ媒体両方の特性を把握されています。キャンプの魅力は、所属媒体や経歴を問わずに様々な人が一緒に学べるところ、と苅田さん。既存の枠組みにとらわれず、「ローカルの情報がどうすれば全国に伝わるかを考えたい」と話します。


▽掲載媒体の読者層を意識して

Q.2014年の高知キャンプでは参加者側でしたが、何を得られましたか?

デスクは社会学者の西田亮介さんでした。仮説を立てて、論理的にまとめていくところが勉強になりましたね。
キャンプでは『「自治体消滅」時代が来る 子育て満足度1%の「元・保育王国」で見えた再生のヒント』という記事を書きました。自分自身、既婚者で現在5歳の娘がいるのですが、保育関連は初めての取材。キャンプの取材・記事執筆をするうえでやってみたいと思ったのが「媒体特性に合わせて書く」ということです。

掲載先はハフィントンポストと決まっており、子育て世代をターゲットに少子化や育児関係のテーマを多く扱っている媒体なので、「その媒体の読者から求められているものを書く」ということをやってみたいと思いました。

Q.元々新聞社の記者でしたが、紙とウェブは違いますか?

新聞記者はどちらかと言うと、ターゲットを定めるというよりは社会的に重要だと判断したテーマについて書くのが中心なので、媒体の特性に合わせて求められているものを想定して書くという経験が自分にはありませんでした。無理に短くまとめるのではなく、必要なことを必要なボリュームで書いてみようと西田さんと話しました。硬くて長めの記事になりましたが、それでもシェア数が1000まで伸びたのは媒体特性に合ったテーマだったからではないかと思います。

Q.今回キャンプの掲載媒体になるYahoo!ニュースはどのような特性がありますか?

Yahoo!!ニューストピックスの編集方針で言えば、政治や経済、災害、大きな事件事故など社会的に知っておくべき「公共性」と、多くの人々が興味を持つスポーツやエンターテイメントなど「社会的関心」の二軸で考えています。公共性の高いニュースについては必ずしも読まれなくてもきちんと掲出するようにしています。


固定観念に捉われずに

Q.毎年、地方でキャンプを行うことにはどんな意味があると思われますか?

参加者の方に読んで欲しいのが、去年の浜松キャンプ後のシンポジウムでデスクがディスカッションされた内容です。その中で、デスクの依光隆明さんが2014年の高知キャンプのときを振り返って「東京目線で地方を見る」ということを言われていました。その土地の人が当たり前と思っている「空気のようなもの」を外の人間が見抜いて記事にすることで、地元の人にも新たな発見があるはずです。固定観念に捉われずに、今までにないような発信ができるようにサポートしていきたいと思います。

Q.参加者に一言お願いします。

何よりも前準備が大事です。現地にいる時間が短いですし、祝日や土日は役所が空いていません。可能なら1日早く前乗り取材をしたり、事前に下調べや電話取材をしておいたりすると、進めやすくなると思います。自分は報道の出身なので、新聞社の人と出会えることも楽しみにしていますが、JCEJの良いところは、紙媒体かウェブか、報道経験者か否かなどを問わず、伝えることに取り組む人が異種格闘技戦のように幅広く集うところだと思っています。どこの出身という概念にとらわれず、ローカルの情報がどうすれば全国に伝わるかを考えていきましょう。


「ジャーナリストキャンプ高知」参加時の苅田さん(左)と、担当デスクの社会学者・西田亮介さん

苅田伸宏プロフィール>
東京都出身。2001年毎日新聞社入社。盛岡支局、東京本社社会部、大阪本社社会部を経て、2013年に退職。その後ヤフーへ転職し現職はYahoo!ニュース編集者。


【ご応募はこちらから】
http://jcej.info/jc2016/

自分にしかない視点を大切に 與那覇デスクからジャーナリストキャンプ挑戦者へのメッセージ

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が4月29日から開催する「ジャーナリストキャンプ2016石巻」。全国から集まった記者が、第一線で活躍するデスク陣と共に熱い議論を交わし、学び合います。どんな挑戦者を求めているのか、震災から5年が経った宮城県石巻市で開催する意味をどう捉えているのか、デスクたちに伺いました。

インタビュー第四弾は沖縄タイムス社デジタル局デジタル部記者の與那覇里子さん。馴染みのない土地での取材は簡単ではありませんが、與那覇さんは「外から入ることは強みにもなり、新しい発見も多くなる」と考えているそうです。「自分にしかない視点」を大切にして、新たな気づきを提示できる記事を参加者と一緒に考えたい、と話してくださいました。


Q.今回、初めでデスクを務めていただきますが、率直な感想を聞かせてください。

参加者のブログを見ると「厳しい」「地獄」という言葉をよく見かけるのですが…正直、何が大変なのかまだイメージが湧きません(笑)でも、ほぼ初対面の人と短い期間でコミュニケーションをとり、記事を作っていくということは簡単ではない気はしています。仕事仲間だと「この人だったら、この内容が響く」などの予想を立てて議論ができますが、それが全く出来ないですから。しかも、慣れ親しんでいない土地での取材なので、なおさらだと思います。その一方で、その中で記事を作り上げた時の達成感は非常に大きいのではないでしょうか。


▽震災と無縁に思えるテーマも「震災」が影響しているのでは
Q.東日本大震災後に東北へ行かれましたか?

2014年、福島民報沖縄タイムスの合同企画「二つの故郷 国策のはざまで」で、福島で生活する沖縄出身者と沖縄で暮らす福島出身者を取材しました。その時、小学生の娘がいる男性が「放射能を浴びているから、一生福島から出ないと思う。娘には、福島というだけで結婚を断られたり、差別されて辛い思いをしたりするよりも、ずっと福島にいて欲しい」と話していたのが胸に刺さりました。たまたま震災のあった福島に生まれただけで…現地に行って話して初めて触れることのできた心の機微から、心の中でまだまだ震災が続いている現実を、目の当たりにしました。

Q.石巻ではどんなテーマがありそうでしょうか

沖縄は待機児童の割合が全国ワーストなんです。その背景の一つには沖縄戦後、米軍の統治下に置かれたために保育所の整備が立ち遅れたことが挙げられます。これと同じように、一見震災と全く関係ないテーマで取材を続けたとしても、何かしら「震災」が影響しているのではないかと感じます。

テーマは、どこに住んでいる人でも身近に感じられるものを選んだほうが興味深く読んでもらえるのではないでしょうか。例えば、沖縄はミネラルウォーターの消費量が全国でもトップクラスです。理由はいくつかあると思いますが、沖縄本島の一部は琉球石灰岩地層で形成されているため、カルシウム成分が多い硬度の高い水になります。もう一つは、暑い沖縄なので冷えた水を飲みたいと思って購入している可能性があります。その視点から「石巻の水はどうだろう?」という切り口も生まれます。このように、多くの人が興味を持つものがテーマになり得ると思います。


▽埋もれない記事を書くスキル

Q.Yahoo!ニュースの特徴をどう捉えていますか?

Yahoo!のプラットフォームから考えると、自分のテーマから派生する「関連記事」まで考えることもポイントになると思います。自分ひとりで取材しきれない情報を、次の情報へつなげたり、リンクを貼っていくことで全体像の輪郭が形成されていくこともあります。同じニュースでも、色々な視点から書かれている記事もあるので。

一方で、他のニュースに埋もれかねません。そのため、タイミングも大事ですね。例えば、もうすぐリオデジャネイロ五輪がありますが、それとリンクするような記事だと注目される確率が高くなると思います。今回のキャンプ記事の公開は5〜6月頃だと思うので、その時に世の中で何が起きているのか予想しながら書くというのも、1つのテクニックだと思います。ウェブでは、読み手に刺さる切り口と的確な言葉でつづらなければ、読まれないこともあります。熱量を読み手に適切に届けるための方法を探求していきたいと思います。


▽「私にしか書けない」という気持ちを大切に

Q.キャンプ参加者に向けて一言お願いします。

書く記事に正解、不正解はありません。他の場所から来たということは、ある意味アドバンテージになります。馴染みの薄い土地であれば、さらに気づきは多くなるでしょう。地元の人が当たり前と思っていることを「面白い」と思ったり、普通に道を歩いていて気づいたことを写真に撮ってみたり…そんな地元の人が再発見できるきっかけづくりをぜひして欲しい。当たり前の風景から、ハッと何かに気づいた時、記者の血が騒ぎます。「これは私にしかない視点。私にしか書けない」という想いを大切に、石巻の人に新しい視点を提示できるものを一緒に考えていきましょう!


<與那覇里子プロフィール>
那覇里子(よなは・さとこ)。沖縄タイムス社デジタル局デジタル部記者、ウェブマガジン「W」編集長。1982年11月、那覇市生まれ。千葉大学教育学部卒業。2007年、沖縄タイムス社入社。こども新聞「ワラビー」、社会部(環境、教育を担当)を経て2014年から現職。2014年、GIS沖縄研究室と共同制作した「具志頭村〜空白の沖縄戦」がGeoアクティビティフェスタで奨励賞、ジャーナリズムイノベーションアワードでデジタルジャーナリズム特別賞。2015年、同研究室、首都大学東京渡邉英徳研究室と共同制作した「沖縄戦デジタルアーカイブ」が文化庁メディア芸術祭入選など。 大学在学中から、ギャルやヤンキーなどの若者文化を研究し、著書に2008年「若者文化をどうみるか」(アドバンテージサーバー)編著など。


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被災地と読者のギャップを埋めよう 亀松デスクからジャーナリストキャンプ挑戦者へのメッセージ

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が4月29日から開催する「ジャーナリストキャンプ2016石巻」。全国から集まった記者が、第一線で活躍するデスク陣と共に熱い議論を交わし、学び合います。どんな挑戦者を求めているのか、震災から5年が経った宮城県石巻市で開催する意味をどう捉えているのか、デスクたちに聞きました。

インタビュー第三弾は、新聞社出身で、現在は弁護士ドットコムニュース編集長・亀松太郎さん。デスクを務めるのはジャーナリストキャンプ2013福島から4回連続となります。参加者一人ひとりが、それぞれ違う問題意識と違う課題を持ってキャンプに臨んでいると感じているそうです。「10年ほどネットニュースの編集をしているので、その経験を活かしたアドバイスをしたい」と話してくださいました。


Q.今年で4年目のデスクになりますが、過去のキャンプを振り返ってみるといかがでしょうか。
2013年に福島県いわき市で福島キャンプを行いましたが、いわきを見つめ直せるという意味で、大きかったと思います。同じ被災地でもいわき市内で沿岸部と内陸部とで差がありました。この時、初めてデスクとして参加し、チームで1つの記事を仕上げたのですが、それがとても難しかったと感じました。翌年の高知キャンプでは、いわきの時の経験を踏まえてデスクとして指導することを工夫し、記事も個々の記者ごとにテーマを立てて取材する形にしました。基本的に、参加する人はそれぞれの課題があり、問題意識も異なります。それを汲み取ってキャンプを通して一緒に改善していければと思っています。


▽現場には「伝えられていない」想いがある

Q.「石巻」の記事を書く際に心に留めておくことは何でしょうか?

石巻をめぐるさまざまなストーリーは膨大で、本当は書き尽くされてないんですが、一般的には「たいていのことはすでに報道されてしまった」と受け止められていると思います。それをいかに打ち破るのかがポイントです。

僕は東日本大震災が起きたとき、ニコニコ動画が運営する「ニコニコニュース」の編集長をしていたのですが、震災から1年後、「被災地最前線からの報告〜記者たちが探し出した『真実』〜」という討論番組を朝日新聞と共同で企画し、宮城県朝日新聞仙台総局から生放送しました。僕が司会を担当して、石巻宮古、大槌、南相馬、南三陸の支局長や駐在記者がそれぞれの想いを語ったのですが、その当時の石巻支局長が言っていたことが印象に残っています。

石巻は人口が多いため、犠牲者も多い。それなのに、(当時の)石巻支局には僕一人しか記者がいない。書いても書いても書き尽くせない」

震災から1年経って、東京では「風化」という言葉も聞かれるようになっていましたが、現場には「まだ書けてない」「理解されてない」「伝えられてない」という気持ちがあると言っていました。今年、震災から5年が経ちましたが、現場では今もそのような想いを持った人がいるかもしれません。しかし、その一方で情報を受け取る人たちからすると、「石巻」についての記事というだけですべてが同じものに思えてしまうかもしれません。そのギャップをいかに打破できるかが問われるキャンプだと思います。

▽新聞記者は媒体の意識を。ウェブメディア人は1つのテーマを掘り下げて。

Q.ジャーナリストキャンプは今年で5年目になりますが、その意義をどうお考えでしょうか。

参加する人が多彩なのが面白い点だと思います。新聞社やテレビなど従来型メディアの人もいれば、オンラインメディア系の人やフリーランスライターもいて、それぞれ参加する目的が違うと思います。一般的に、新聞社の記者は、インターネットやウェブメディアが台頭していく中で、どう新しいメディアに対応するのかが求められると思います。

ジャーナリストキャンプで書いた記事はネット媒体で公表されます。福島いわきでのキャンプの時は、見出しなど「見せ方」の大切さを強調しました。新聞記者の人は特に、発表媒体の特性の違いを意識してもらいたいです。その一方で、ウェブメディア系の人は記者会見に行ったり、インタビュー記事を書いていたりするかもしれませんが、現地でじっくり取材することは少ないのではないでしょうか。一つのテーマを継続的に取材したり、ある地域を網羅的に取材することによって得られる経験や知識もあります。ネットだと効率性重視になってしまうことがあるかもしれませんが、このキャンプでは、普段よりも時間をかけた取材をたくさんして、その中から書けるテーマを見つけるという手法もあります。新聞やテレビの記者とネットメディアの記者の両方が参加して、刺激しあえるのがいいなと思っています。


▽「変わりたいなら来い!」チャレンジする人大歓迎

Q.どういう人に参加して欲しいと思いますか?

色々な意味で「自分を変えたい」と思う人に来て欲しいですね。メディア業界で働いている人は、普段は媒体としての要請や上からの指示で、どんな内容をどのように書くかを決めていることが多いのではないでしょうか。ジャーナリストキャンプではデスクはいますが、最終的な責任者は自分自身。デスクが出したいものは何かを考えるのではなく、自分が本当に伝えたいことは何かを追求する。その主体性を大事にしてください。

「変わりたいなら来い!」と言いたいですね。来てみて損はないですから。チャレンジしたい人、大歓迎です。

<亀松太郎プロフィール>
ジャーナリスト、弁護士ドットコムニュース編集長。1970年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒。朝日新聞記者として3年勤務した後、J-CASTニュースなどを経て、2010年に株式会社ドワンゴ入社。ニコニコニュース編集長として、ニュースサイトの運営と報道・言論番組の制作を統括した。2013年から法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」でニュース編集に携わる。2014年から早稲田大学大学院ジャーナリズムコースの非常勤講師を務める。

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「明らかになっていないこと」を引き出せるか 依光デスクからジャーナリストキャンプ挑戦者へのメッセージ

日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が4月29日から開催する「ジャーナリストキャンプ2016石巻」。全国から集まった記者が、第一線で活躍するデスク陣と共に熱い議論を交わし、学び合います。どんな挑戦者を求めているのか、震災から5年が経った宮城県石巻市で開催する意味をどう捉えているのか、デスクたちに伺いました。

インタビュー第二弾は、4年連続でデスクを担当する朝日新聞社記者・依光隆明さん。2012年に新聞協会賞を受賞した「プロメテウスの罠」取材班の初代キャップを務め、被災地での取材を重ねてきました。マニュアルのないキャンプでは、事前に入念なリサーチをして切り口を考えることが重要、と依光さん。その上で、「これまで明らかになっていないことを引き出して欲しい」と話しています。



▽「何が書かれていないか」を知る

Q.石巻でキャンプを行うときに考えておくべきことはな何でしょうか。

石巻では約3500人が亡くなっています。これほどの被害を受けた場所は、世界でも稀だと言っていいでしょう。とはいえ世界では毎日色々なことが起きます。震災の直接の被害者でない人は、時間とともに震災から意識が離れていくのが自然だと思います。対照的に、実際に身内が亡くなった人にとっては震災は過去にはならない。こちらが過去だと思って入っても、その人にとっては違う。だから、言葉の使い方一つ一つがとても重要です。

Q.石巻に関する報道は多くなされてきましたが、「書き尽くされた」と思われますか?

石巻に関する記事はたくさん書かれてきましたが、書き尽くされるということはありません。大事なのは何が書かれていて、何が書かれていないかを知ることです。

今年は震災5年目で色々なメディアが被災地に入っています。3月11日にも多くの報道がありましたが、それと同じものを5月に書いてもピンボケするだけです。必然的に、事前のリサーチと、柔軟な発想がキーになるでしょう。どのような切り口にするのか、自分なりにざっくりと考えておく必要があります。


▽「誰にも話していないこと」を引き出して

Q.記事執筆についてアドバイスはありますか?

石巻はどういう場所で、どうして3500人もの方々が亡くなったのか、ある程度知っておくべきだと思います。例えば、たくさんの子どもが亡くなった大川小学校でさえ書き尽くされてはいません。学校にいた子どもを死なせたのは大川小だけです。なぜそんなことになったのか。自分なりの問題意識を持って現場に行くと、何かが見えるかもしれません。

切り口や仮説を持って現場に行けば、その仮説が崩れて真実らしきものが見えてきたりします。それが大事です。自分の予測、仮説が正しいと決めつけてしまいがちな人もいますが、それはダメです。自分が求める結論に沿って事実を集めるようになってしまうと最悪です。答えは現場にあるし、極言すると現場を見なければ答えは出ません。鍵は「こんなが話あったのか」という事実を掘り出すことです。「まだ誰にも話していないこと」を引き出すことはそう難しくはありません。鍵は「人」だと思います。たくさんの人に会うように心がけたらいいと思います。


Q.キャンプの参加を考えている方へ一言お願いします。

キャンプはその場に行くこと、足を踏み入れることに意味があります。マニュアルはありません。誰かが辿ったことを辿るのではなく、自分なりに追求したいことを追求して書く。事前リサ―チをして、自分なりの取材をしてみてください。

依光隆明プロフィール>
よりみつ・たかあき 朝日新聞be編集部員。1957年生まれ、高知市出身。高知新聞で社会部長などを経て、2008年12月朝日新聞に入社。特別報道部長、編集委員など。12年新聞協会賞を受賞した「プロメテウスの罠」取材班の元キャップ。同賞受賞は、高知新聞時代に県庁の不正融資を暴いた「県闇融資報道」に続いて2回目。

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